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「新型コロナウイルス 深刻さ増す 世界的大流行」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が収まりません。WHO・世界保健機関がパンデミックを宣言して4か月。今月10日には、全世界での1日あたりの感染者数がおよそ23万人と、過去最多を記録しました。
世界レベルの感染拡大を抑えるため、何が必要かを考えます。

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■世界各国の感染状況を調べているアメリカのジョンズ・ホプキンス大学の集計によりますと、世界全体の累計の感染者数は1300万人を超え、犠牲者もおよそ58万人に達しています。当初は、中国や欧米諸国を中心に感染者が急増しましたが、先月からは、中南米、南アジア、中東などの国々での感染拡大が著しく、とりわけ、南北のアメリカ大陸で感染者が急増しています。

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▼現在、感染者が最も多いのはアメリカで、およそ343万人。亡くなった人は13万人を超えました。南部や西部の州の感染拡大が深刻で、テキサス州やカリフォルニア州では、多い日で、1日に1万人前後の感染者が確認されています。アメリカでは、5月以降、すべての州で経済活動が再開されました。感染対策に携わる専門家は、「一部の地域で、経済活動を早期に再開したことが、感染者の急増につながった」と指摘し、早急に対策を講じるよう訴えました。これを受けて、カリフォルニア州は、13日、レストランや映画館などの屋内での営業を禁止する措置をとりました。

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▼世界で2番目に感染者が多いのはブラジルで、およそ193万人。亡くなった人は、7万人を超えました。都市部で貧しい人々が密集して暮らす地区を中心に感染が拡大しています。新型コロナウイルスを「ちょっとした風邪だ」と述べて、感染対策を軽視してきたボルソナロ大統領に対する批判が高まっています。マスク着用を義務づける法律に反対した大統領自身も感染しましたが、感染拡大を抑える有効な対策がとられていません。

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▼世界第3位はインドです。モディ首相は、3月下旬、全土を封鎖する措置をとりましたが、先月、経済活動を本格的に再開させると、感染者が急増しました。首都ニューデリーやムンバイなどでは、病床の確保が困難になっています。

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▼また、感染拡大の勢いでは、南アフリカです。ラマポーザ大統領は、貧困層の生活が苦しくなったとして、先月、外出制限などを緩和したところ、感染者が急激に増加しました。今週、「嵐がやってきた」と演説し、再び、夜間外出禁止令を出しました。

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■このように、外出や経済活動の制限を緩和した国では、程度の差はありますが、感染の拡大が起きてしまいます。
WHOのテドロス事務局長は、13日、「多くの国が誤った方向に向かっている。感染対策を徹底しなければ、事態はさらに悪化する」と強く警告しました。合わせて、感染が制御できない地域では、都市封鎖や外出制限も必要となるだろうと指摘しました。
新型コロナウイルスの治療薬やワクチンが開発されるまでは、人と人との接触をできるだけ制限し、手洗いやマスクの着用などを徹底させるしか、感染拡大を防ぐ手立てはありません。遅きに失した感もありますが、アメリカでは、14日、CDC・疾病対策センターが、国民に対し、マスクの着用を強く求める声明を、初めて出しました。その他の国でも、マスクの着用を強化する動きが広がっています。

各国とも、できるだけ早く経済活動を再開させ、国民の生活を守らなければならない事情を抱えていますが、今、世界的な感染拡大にブレーキをかけなれば、今後さらに、非常に多くの命が失われ、落ち込みの著しい世界経済も、長期にわたって回復できなくなるでしょう。

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■そして、新型コロナウイルスの脅威は、貧しい人々や、社会的に弱い立場の人々を最も苦しめています。
国連のグテーレス事務総長は、6日、「新型コロナウイルスは、すべての国、すべての人に影響を与えているが、その影響や被害は平等ではない。すでにある世界の不平等や不正義をさらに悪化させている」と指摘しました。

同時に発表された国連の報告書によりますと、今年、世界で、およそ7100万人が、極度の貧困に陥ると予測され、過去22年間、減少を続けてきた貧困率が、初めて上昇に転じる見込みです。そして、感染拡大にともなう医療の混乱や食料不足のため、命を落とす5歳未満の幼児が数十万人、妊産婦が数万人、それぞれ増える恐れがあります。さらに、学校の閉鎖で、世界15億人以上の子どもたちが通学できず、教育の機会を奪われていると、報告書は指摘し、各国に対し、国連との連携を呼びかけています。

■医療体制が脆弱な国や、貧困問題を抱える国、あるいは、紛争地や難民キャンプで感染が拡がりますと、それを抑え込むのは、ほぼ不可能です。そうした事態が起きれば、世界的大流行に終止符を打てるのが、何年先になるかわかりません。手遅れにならないよう、国際社会が一丸となって、対策を立ててゆく必要があります。しかしながら、これまで、ほとんどの国は、自国の対策で手いっぱいで、国連やWHOも、主要国の利害や政治的な思惑がぶつかり合い、国際的な協力体制ができていません。

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■その典型と言えるのが、アメリカによるWHOからの脱退問題です。トランプ政権は、6日、WHOからの脱退を正式に通知し、国際社会に大きな不安を広げています。トランプ大統領は、「WHOは中国に支配されている」などと批判し、正当化していますが、この秋の大統領選挙を前に、WHOや中国を非難することで、国内での感染拡大を防げなかった自らへの批判をそらす狙いがあると指摘されています。
しかし、WHOの予算のおよそ15%を拠出してきたアメリカが脱退すれば、感染情報の共有をはじめ、治療薬・ワクチンの開発と普及など、世界的な感染の抑え込みに向けた取り組みに、極めて深刻な打撃を与えると懸念されます。アメリカ自身も、WHOとの情報共有ができなくなり、何の得にもなりません。
脱退の期日は、1年後の7月6日です。大統領の座を目指す、民主党のバイデン前副大統領は、「政権を奪還すれば、直ちにWHOからの脱退を撤回する」と公約しました。したがって、実際に脱退するかどうかは、大統領選挙の結果しだいですが、この問題、国際社会に時間的な猶予は、全くありません。

■新型コロナウイルスの世界的な大流行は、これからが本当の正念場です。感染の波は、各国政府が、制限を緩和するたびに起きるでしょう。国境を越えて拡がるだけに、一国だけの問題解決はありえません。国連やWHOを中心とする国際的な協力体制をしっかりと確立して、感染と被害の拡がりを抑えこむ、長い闘いに臨まなければなりません。政治対立を乗り越えた団結と連帯、科学的な知見に基づく冷静な議論、的確で迅速な判断と行動のできるリーダーが必要です。

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最後に、長年国連などで活躍し、去年亡くなった緒方貞子さんの言葉をご紹介します。「1人でも多くの命を救うためには、今、何をすべきなのか」。
この問題意識を国際社会全体で共有することが、何よりも大切です。そして、日本も、資金、情報共有、貧困に苦しむ国への医療支援などの面で、積極的に貢献することが期待されています。

(出川 展恒 解説委員)

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