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「加速する『中国離れ』と『中国依存』」(時論公論)

二村 伸  解説委員

新型コロナウイルスの対応に各国が追われる中、中国をめぐる2つの重要な会議が先月開かれました。1つは中国とEU、もう一つは中国とアフリカの首脳会議です。新型コロナウイルスの感染拡大と香港問題を受けて、中国に対する各国の姿勢に変化が見られます。ヨーロッパでは中国不信が強まり、13日の外相会議でも厳しい意見が相次ぎました。一方、アフリカではマスク外交を通じて中国への依存が強まっています。各国の対中政策の変化が、コロナ後の世界にどのような影響を及ぼすのか、また日本はどのように向き合えばよいのか考えます。

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まず、EUと中国首脳の会議は先月22日に行われました。フォンデアライエン・ヨーロッパ委員長とミシェル大統領が、中国の李克強首相、習近平国家主席とテレビ電話で相次いで会談しました。会談後の記者会見でフォンデアライエン委員長は、年内の妥結を目指していた投資協定の交渉に「中国のさらなる熱意が必要だ」と不満を述べました。中国政府による補助金や国有企業の優遇、中国進出企業に対する技術移転の強要などEUが改善を求めている問題に進展が見られないことへのいら立ちがうかがえます。さらに、フォンデアライエン委員長は香港問題をめぐって深刻な懸念を伝えたことを明らかにしました。EUの厳しい姿勢は、経済的な結びつきを強めていた両者の関係に変化が生じていることを示しています。

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EUは中国の最大の貿易相手であり、EUにとっても中国はアメリカに次ぐ貿易パートナーです。中国によるEUへの投資も活発で、投資残高は2010年からの5年間で5.5倍に増え、とくにドイツへの投資の伸びが目立っています。一方のドイツも中国を最も重要な貿易相手国と位置づけ自動車産業を中心に関係強化を進めてきました。メルケル首相が就任以来15年間で日本を5回訪問、その多くがG7やG20などの会議出席だったのに対して中国には12回とほぼ毎年訪問していることは中国重視の姿勢を端的に示しています。
さらに中国は一帯一路構想を通じて中・東欧諸国との結びつきを強め、ギリシャやイタリアなど財政問題を抱える南ヨーロッパの国々には国債の買い増しなどの支援を通じて影響力を強めてきました。

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ところがEUはいま中国に距離を置き始めています。その背景にあるのは、1つは中国の影響力が増していることへの警戒感です。一帯一路構想とともに中国は企業の買収に積極的で、4年前ギリシャ最大の港・ピレウス港の運営会社の株51%を中国の国有会社が取得、ドイツでは産業用ロボットメーカーを中国の家電大手が買収しました。中国は投資先から競争相手、脅威に変ったのです。安全保障への影響や技術の流出を懸念したドイツ政府は外国企業による買収の審査基準を厳しくしました。EUもまた審査を強化しました。

中国への警戒感が強まっていたところに新型コロナウイルスが猛威を振るい、
EUは中国政府の対応に不信感を強めました。中国の在外公館が各国政府に中国への感謝の表明を迫ったり、虚偽の情報を広めたりしたことも対中感情を悪化させ、現地メディアの中には「マスク外交は失敗した」「中国はヨーロッパを失った」などという論評も目立ちました。EUの外相にあたるボレル外交安全保障担当上級代表は、「中国のマスク外交は地政学的な野心を隠すための策略だ」と述べ、中国への懐疑的な見方をあらわにしました。

さらに追い打ちをかけたのが、香港の反体制的な言動を取り締まる国家安全維持法導入です。「一国二制度」の大原則を踏みにじるものだとEUと加盟各国は強く反発し、13日の外相会議では、対中政策の見直しが必要だとして対抗措置が話し合われました。EU以上に中国に厳しい対応を示しているのがイギリスです。ジョンソン首相は中国依存からの脱却を指示し、次世代通信規格5Gから中国のファーウェイ製品を排除する方針を示すなど両国の関係が急速に冷え込んでいます。
とはいえ、EUも一枚岩ではありません。ギリシャやイタリアなど経済的に厳しい南ヨーロッパやハンガリーなど東ヨーロッパの国々は中国による医療支援を評価するなどEUの足並みは乱れています。

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先月行われたもう一つの会議、中国とアフリカの首脳会議は、アフリカ各国首脳やWHOのテドロス事務局長らを前に習近平国家主席がテレビ電話で基調講演を行い、アフリカの国々への医療物資の提供と専門家の派遣の他、新型コロナウイルスのワクチンをアフリカに優先的に配布すると約束しました。さらに新型コロナウイルスへの中国の対応をアフリカの国々が全面的に支持するとした共同声明を発表し、中国政府の対応に対する欧米諸国の批判をかわしました。

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中国はアフリカの植民地の独立を支援し、1960年代アフリカに医師を派遣、いわゆる医療外交を展開しました。今世紀に入ってアフリカと経済的な結びつきを強め、アフリカとの貿易総額は2000年から2017年までに16倍にも増え、アフリカにとって最大の貿易パートナーとなりました。各国政府の建物や空港の建設などいわゆる箱物支援外交によって支持を広げ、新型コロナウイルスの感染拡大後はマスク外交を展開し、中国依存の傾向はより強まるものと見られます。「中国はすでにアフリカでアメリカやヨーロッパにとって代わった」と話す専門家もいます。
ただ、圧倒的な存在感を示しながら中国は信頼される大国にはなりきれていません。マスク外交の裏で中国では今年4月、ウイルスが海外から入ってくるとしてアフリカ人が住まいやホテルから追い出されたり、警察官に拘束されたりする差別的な動きが相次ぎ、アフリカ各国で反中感情が高まりました。また、中国の融資によって借金漬けとなった国も少なくありません。中国支援で道路や橋ができても、雇用は増えず生活がいっこうによくならないという住民の不満もくすぶっています。

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アジアからアフリカ、そしてヨーロッパまでつながる一帯一路構想のもと影響力を増す中国に対してアメリカとオーストラリアは対立を深め、EUとイギリスも政治的な距離を置き始めています。コロナ後の国際社会は中国離れが進む国と中国依存がより深まる国に二分される可能性もあります。
そうした中で日本は中国にどう向き合えばよいのでしょうか。経済的にも地理的・歴史的にも中国は重要なパートナーであり、関係の悪化は日本にとっても利益にはなりません。とはいえ顔色をうかがうのではなく言うべきことははっきりと言う、毅然とした態度も必要です。米中の狭間でしたたかな外交を展開していくためには、長期的な対中戦略が欠かせません。秋のアメリカ大統領選挙まで、世界は様子見の状態が続きそうですが、中国をとりまく国際社会の変化を見極めてコロナ後を見据えた戦略を練り、アメリカやEUとの連携、またG7の枠組みを通じて、人権と安全保障、公平な競争のために大国としての責任を果たすよう働きかけていくことがこれまで以上に重要になってくると思います。

(二村 伸 解説委員)

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