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「記録的豪雨 被災者支援と感染対策」(時論公論)

松本 浩司  解説委員
飯野 奈津子  専門解説委員

記録的な豪雨から1週間が過ぎましたが、熊本などの被災地では多くの人がきびしい避難生活を強いられています。さきほど、熊本に派遣されていた保健師が新型コロナウイルスに感染していたことが確認されたという心配なニュースが入ってきましたが、被災者の支援は感染対策も求められて一層難しい対応になっています。被災地の現状と支援の課題について災害担当の松本解説委員と医療・福祉担当の飯野解説委員でお伝えします。

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【被災地の状況】

<松本>

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今回の豪雨では熊本県を中心に72人が亡くなり、13人が行方不明になっています。避難所に避難をしている人はきのう現在11県で3000人。このうち熊本県は212ヶ所の避難所に2500人が避難をしています。道路が寸断されて今も孤立している地域もあります。

Q)飯野さん、避難所の現状はどうなっているのでしょうか。

<飯野>
被害が大きかった熊本県人吉市の避難所で活動する看護師の方に話をききました。

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発災当初は床に毛布などひいて雑魚寝状態でしたが、ようやく段ボールベッドと間仕切りが届き、少しずつ環境が改善されてきています。新型コロナウイルスへの感染を防ぐために人と人との間隔をあけ、換気や消毒を定期的に行い、発熱や体調不良を訴える人には別の部屋も用意しています。
ただ、雨がずっと続いていて、思うように家の片づけがすすまない中で、肉体的にも精神的にも疲れが目立つ人が増えているそうです。
災害の直後は神経が張り詰めていますが、一週間を過ぎたあたりから体調を崩す人が増えると専門家は指摘しています。被災した人たちの命を守るためにどう支援を充実させるか、これからが正念場といえると思います。

【支援と感染対策の両立の難しさ】

<松本>
命を守るための支援は悪天候が続いていることに加えて感染対策で従来に増して難しい対応を強いられています。まず医療支援です。

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被害の大きい熊本県には災害派遣医療チーム「DMAT」がきょう現在、65チーム、300人前後が西日本を中心に全国から派遣され、浸水した病院からの患者の搬送や被災者の診察などにあたっています。全国から派遣をしたことについてDMAT事務局は「命を救うために一刻を争うのでコロナを理由にためらうことはなかった」としていて、現場では消毒などを徹底したうえITツールで全ての隊員の健康状態をモニターするなど感染対策に細心の注意を払いながらの活動になっています。

<飯野>
一方、介護関係の福祉の専門職は、今のところ他県から被災地に入る動きはみられません。他県から被災地にコロナを持ち込むのが心配というだけでなく、もし被災地で感染するようなことがあると、現場が回らなくなるという危機感があるからです。帰ってきて症状がなくても念のため2週間休んでもらう。人出不足が深刻な介護現場には、そんな人的な余裕はないという声も耳にします。

<松本>
悩みが大きいのはボランティアです。各地の社会福祉協議会が窓口になるボランティアセンターを開設し、土日から活動が本格化していますが、受け入れは地元に限定しています。

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熊本県内では9市町村でボランティアセンターが動き始めていますが、5カ所は熊本県内のみ、4カ所は町村内からのボランティアだけを受け入れています。

ボランティア活動で万一、感染が広がるようなことになれば避難所が閉鎖になったり、被災した病院にさらに負担をかけ医療崩壊にもつながりかねないことから、いわば苦渋の判断をしたのです。

ただ現場で活動する人からはもっと受け入れるべきだという声があがっているほか、今後、土砂や廃棄物の撤去や家の応急修理などに多くの人手が必要になります。

社会福祉協議会とボランティア団体側は、今後どのような支援がどのくらい必要になるのか把握を急いでいます。まずは地元のNPOとボランティアで全力を尽くしたうえで、さらに多くの人手が必要で、地元の住民や自治体からの要請があれば、募集対象地域を広げることも検討することにしています。

受け入れの対応を地元だけに任せるのではなく、ボランティアの健康状態のチェックや感染対策について国が積極的に支援や助言をして、被災者が安心して受け入れることができるような体制づくりを急ぐ必要があります。

【急がれる在宅避難者の支援】

Q)今回の災害では広い範囲が浸水していて、1階が浸水した自宅で避難をしている人も多いと見られますね。

<飯野>
見落としてはならないのが、その点です。避難所ではないところで避難生活を送る人たちへの支援が重要です。今回の災害では新型コロナウイルスへの感染を警戒して、人が多く集まる避難所ではなく、水に浸かった住宅にとどまったり車の中で生活したりする人が少なくないとみられています。ところが、これまでの災害ではそうした人たちに十分支援が届かず、災害関連死につながった可能性があるとみられているからです。

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これは、東日本大震災から1年の時点で、関連死とされた人について、亡くなった方々の生活環境を調べた結果です。避難所で生活していた人が7.4%、仮設住宅が2.4%。不明例を除く59.6%は避難所や仮設住宅以外、多くは在宅の被災者と推定されています。
また当時の救急搬送を調べた結果、発災から1週間を過ぎると、避難所より在宅からの救急搬送が多くなり、心停止や脳卒中など重篤なものが多かったという報告もあります。この調査を行った福井大学の山村修医師は、医師や看護師がいて支援物資も手に入りやすい避難所と違って、自宅などで過ごす人には十分な支援が届かず、そのことが健康を損なうことにつながったとしています。
今回の災害でも、避難所にいる被災者への支援にとどめずに、一刻も早く別の場所で避難生活を送る人たちの状況を把握して、支援を届けることが、欠かせないと思います。

【いま気を付けること、できる支援は】

<松本>
Q)被災から1週間あまり、被災地ではこれからどんなことに気をつければいいでしょうか。

<飯野>
まずは新型コロナウイルスの感染防止策。念入りに手を洗い、食事をとりに行く時なども周りの人と間隔をあける。適度な運動と偏りのない食事、そして水分の補給。こうしたことが血液が固まりやすくなるのを防ぎ、熱中症予防にもつながります。もうひとつ大事なのは、自分で問題を抱えこまずに、遠慮せずに周りに助けを求めることです。
身近な人をなくしたり、住む家をなくしたり、本当に大変な思いをされていると思いますが、心身の疲れが大きくならないよう、一人で頑張りすぎないでほしいと思います。

<松本>
一方、被災地外からの支援は何ができるでしょうか。

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まず資金の面での支援です。災害義援金や現地のボランティアなどへの支援金を通じての支援が考えられます。
支援物資について熊本県などは「被災地が混乱しているため控えてほしい」と呼びかけているので注意が必要です。そしてボランティアに行くことも被災地から募集があるまでは控える必要がありますが、もし募集があったときには参加しようと考えている人は、今から自分の健康管理と感染対策を一層しっかりしておくことが大切になります。

【まとめ】

九州や東海などの被災地では1週間たっても大雨がやむ気配を見せず、コロナ対策の負担が重なって被災者も支援をする側も心身の疲れが大きくなっています。まず国や自治体が避難所や在宅避難者の支援に全力をあげる必要があります。そして被災地の声をていねいに聞いて感染予防とのバランスをとりながら全国からの支援を届けることが求められていると思います。

(松本 浩司 解説委員/飯野 奈津子 専門解説委員)

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