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「イージス・アショア配備計画停止 影響は」(時論公論)

権藤 敏範  解説委員

北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対応するためとして、政府が3年前に導入を決めた新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」。
河野防衛大臣は、15日、山口県と秋田県への配備計画を停止する考えを表明しました。
唐突とも言える表明には、地元だけでなく、政府・与党からも驚きの声が上がりました。
計画停止の背景には何があったのか、日本の弾道ミサイル防衛や日米の防衛協力などにどのような影響を与えるのか、考えます。

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【イージス・アショア】
河野防衛大臣は、配備計画の停止について、「国民におわびする」と陳謝した上で、「国土の守りに穴をあけないようにしっかりやっていく」と述べました。

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現在、日本は、イージス艦に搭載する海上配備型のSM3と、地上配備型のPAC3の2段構えで、弾道ミサイル防衛にあたっています。
イージス・アショアは、イージス艦と同様のレーダーやミサイルの発射装置で構成される陸上配備型の迎撃システムで、海と陸から、3段構えで弾道ミサイルに対抗する狙いがありました。

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政府は、イージス・アショア2基で日本全体をカバーできるとして、秋田市の新屋演習場と、山口県萩市のむつみ演習場を候補地とし、早ければ2025年度に配備する予定でした。

【ブースターの問題】
こうした中、明らかになったのが今回の問題です。

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イージス・アショアの迎撃ミサイルには、「ブースター」と呼ばれる推進補助装置がついています。ロケットでいうと1番下の段にあたり、発射後、途中で切り離されます。
ところが、山口県の演習場に設置した場合、このブースターが演習場の外に落下する可能性が否定できないことが明らかになったとしています。重さ、数百キロのブースターが落ちてくれば、住民に危険が及ぶ恐れがあります。地元でも当初から指摘されていましたが、防衛省は、「安全に配備、運用できる」と繰り返し、説明してきました。
一方で、この間、防衛省は、アメリカ側と、ソフトウェアの改修で対応できないか協議してきました。しかし、実際には、演習場の中に確実に落下させるのは難しく、ミサイル自体の改修が必要なことが分かりました。

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防衛省は、イージス・アショアの導入費用を、およそ4500億円と見積もっていましたが、ミサイルを改修するには、さらに10年の期間と2000億円の費用がかかることが明らかになりました。
このため、「費用や期間を考えれば、配備は合理的でない」として、停止を判断したのです。

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安倍総理も、16日夜、「地元に説明してきた前提が違った以上、これ以上進める訳にはいかないと判断した」と述べるほかありませんでした。河野大臣との12日の会談で、停止を了承したといいます。政府は、今後、NSC=国家安全保障会議で検討した上で、閣議で計画の停止を決定するものとみられます。

【停止の意味】
今回の計画の停止とは、どういう意味でしょうか。
河野防衛大臣は、中止とは明言しませんが、イージス・アショア用のレーダーを、イージス艦に転用することなどに言及しています。

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地元の秋田県と山口県でも、事実上の白紙撤回だという受け止めが広がっています。特に秋田市では、ずさんな調査が発覚し、説明会で防衛省職員が居眠りするという行為もあって反発が強まり、政府は、新たな候補地の選定も含め再調査を行っていました。
河野大臣は、地元を訪れて説明と陳謝を行うことにしていますが、そもそも、この計画そのものに無理がなかったのか、今回の判断に至った経緯や今後の対応など住民の納得がいく説明ができなければ、国民の防衛政策に対する不信感を増すことにつながりかねません。

では、ここからは、今回の計画停止がもたらす影響について考えます。

【弾道ミサイル防衛計画への影響】

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まず、配備計画が白紙になれば、政府は、弾道ミサイル防衛計画を見直す必要が出てきます。米朝協議は暗礁に乗り上げており、北朝鮮は、ことし、弾道ミサイルを4回、発射しました。
防衛省は、現在7隻のイージス艦を所有し、常時、1、2隻が洋上に展開して警戒しています。来年春には8隻になることから防衛能力は強化されるとしています。
ただ、北朝鮮だけでなく、中国の海洋進出への警戒などもあり、洋上で長期の活動を強いられる自衛隊員の負担は重くなっています。陸上のイージス・アショアの導入には、こうした隊員の負担を軽減する目的もありました。
政府内では、「国土の守りに穴をあけない」ために、イージス艦をさらに増やすことや、イージス艦以外の新たな防衛システムの導入を検討すべきだという意見が出ています。

【日米関係への影響】
次に日米関係への影響はどうでしょうか。

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アメリカは、イージス・アショアによって日米の防衛協力が強化されると評価してきました。今のところ、公式な反応は示していませんが、今後の防衛協力やアメリカ軍のアジア太平洋戦略に与える影響などを検討していると見られます。
茂木外務大臣は、「アメリカとの協力に影響を与えることは考えていない」と述べましたが、外務省内では、「丁寧に説明しないと、日米同盟やトランプ政権との関係に悪影響を及ぼすおそれがある」との指摘も出ています。
トランプ政権は、日本や韓国などに、アメリカ製兵器の大量購入を求めています。
3年前に、安倍総理とトランプ大統領の首脳会談で導入が決まった際も、官邸主導による突然の決定という批判がありました。
加えて、そもそも、イージス・アショアの必要性そのものを疑問視する見方もあります。北朝鮮や中国は、すでに高速で軌道を変化させながら飛来する新型ミサイルを開発しており、新たな脅威に十分に対応できないと指摘する専門家もいるのです。
今後は、アメリカとすでに結んでいる契約などの協議も、課題になるでしょう。

【普天間基地の辺野古移設への影響】
さらに、費用と期間の合理性を前面に押し出した今回の判断について、関係者の間からは、沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設問題に与える影響を懸念する声も出ています。

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名護市辺野古の埋め立て予定地では軟弱地盤の存在が明らかになり、政府は、改良に、12年の期間と、およそ9300億円の経費がかかるとしています。早ければ2022年度に可能になるとしていた普天間基地の返還は、2030年代に大幅にずれ込む見通しです。
政府は、辺野古への移設が唯一の解決策としています。
しかし、野党の中からは、「多額の費用と長い期間が停止の理由なら、辺野古への移設こそ直ちに中止すべきだ」との指摘があります。沖縄県の玉城知事も、同様の理由で移設断念を求めており、県内で、今後、こうした主張が強まることも予想されます。

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【与野党の反応】
今回の判断には、与党内からも、「唐突な方針転換だ」として批判が相次ぎました。与党幹部も、「地元や党に十分な説明がない」と不快感を示し、政府に丁寧な説明を行うよう求めました。
野党も、「これまでの説明との整合性をどう取るのか」などと批判を強めていて、政権の責任を追及していく構えです。

【まとめ】
国会は、17日に閉会しました。野党は、新型コロナウイルス対策とともに、この問題の議論を続けるべきだとして会期の延長を申し入れましたが、政府・与党は、法案の大半が成立したなどとして応じませんでした。
安全保障政策は、国民の理解なしには進みません。今回の計画停止に対する国民のさまざまな疑問や、高額な装備品への税金の使いみちに、政府は十分に答えていると言えるのでしょうか。東アジアの安全保障上の緊張が続く中、どのように国民の安全を守っていくのか、政府には、丁寧に説明していくことが求められます。

(権藤 敏範 解説委員)

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