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「経済活動再開 世界で第2波への懸念」(時論公論)

今村 啓一  解説委員長

世界各地での新型コロナウイルスの感染拡大は収まらず、感染者はあわせて800万人に達しました。経済活動の再開で再び感染が広がるという懸念が現実のものとなり始めているにも関わらず、世界各国で株価は上昇を続けています。
世界でなお続く感染拡大、世界経済の先行きとリスクについて考えます。

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① 経済活動再開と感染再拡大

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世界で最も感染者が多いアメリカでは、フロリダ州やテキサス州をはじめ経済活動をいち早く再開した南部や西部を中心に再び感染が拡大。感染者211万人を上回り増え続けています。アメリカCDC疾病対策センターは、人種差別への抗議デモなど大勢の人が集まる機会が増えれば、感染リスクが高まるとして参加者にマスクを着用するなど感染防止対策をとるよう強く促しています。
感染が落ち着いたかにみえた中国でも先週から首都北京の食品市場で集団感染が発生、100人以上の感染者が確認され、当局は20万人を対象にPCR検査を実施。首都で集団感染が発生したことについて、当局者は、「北京は非常時に入った」として危機感を強めています。
新興国の感染拡大も止まりません。アメリカに次いで感染者が多いブラジルでは、感染が収まらないまま経済活動を再開した結果、感染者が大幅に増え88万人に達しています。外出制限を段階的に緩和してきたインドでも一日で感染者が1万人増えて34万人に達し、医療体制が崩壊しかねない事態に直面しています。
世界全体の感染者は800万人、死者は43万人に達し、収まる兆しがありません。
感染の再拡大は、経済活動を続けながら感染の広がりを防ぐ難しさを示しています。

② 急回復する株価と世界経済のリスク

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15日急落した東京市場の株価は、16日は1000円以上上昇し、感染の再拡大が今後の経済にどこまで影響を及ぼすのか、強気と弱気の見方が交錯しています。
日本時間16日夜発表されたアメリカの先月の小売売上高は前の月に比べて17.7%の伸びとなって、アメリカの個人消費に回復の兆しがあることを示す形になり、ニューヨーク市場でも株価が大幅に値上がりしています。3月に急落したニューヨークの株価は、3か月間で40%以上上昇、東京市場も35%以上急回復しました。

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急激な株高の背景には、世界各国が行った10兆ドルを上回る巨額の財政出動に加えて、各国の中央銀行が市場に大量のマネーを注ぎ込んでいることがあります。アメリカの中央銀行FRBは今年3月事実上のゼロ金利を導入し、先週、この政策を再来年2022年末まで2年半続けるという見通しを示しました。FRBは市場に資金を送るために、国債や社債を大量に買い入れていますが、今回は特に投資に不適格とされるダブルBと呼ばれる企業の社債まで買っているのです。ヨーロッパ中央銀行も、マイナス金利政策に加えて国債や社債の買い入れを拡大。注ぎ込こまれたマネーが、実体経済とかけ離れた水準まで株価を押し上げているという指摘も出ています。
中央銀行の積極的な動きによって、ひとまず市場の不安が取り除かれ、企業に、必要な資金を送ることができたことは確かです。

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ただ一方でその副作用を指摘する声もあります。大がかりな金融緩和の結果、そもそも業績不振で経営を改革すべき企業も助けてしまい、企業の生産性を押し下げているのはないかという見方が出ています。
株高は、社会の格差を拡大させかねないという見方もあります。3か月間で、アメリカの億万長者の資産の合計は、6300億ドル増加しました。この間にアメリカでは4000万人以上が職を失っています。持てる者と持たざる者との間の格差が一段と拡大しているのです。

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東京市場の株高の要因の一つも、日銀による積極的な金融緩和です。日銀はマイナス金利を導入するとともに、市場に資金を送るために国債や社債に加えてETF=上場投資信託を買い入れています。ETFは多くの株式を集めて組み合わせた投資信託です。
日銀はこれを買い入れることで、急激な相場の変動を抑えようとしています。

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日銀による今年の買い入れ額はすでに昨年を上回る4兆4千億円余りに達しています。
相場に楽観論が広がる背景には、株価が下がれば、日銀が買うだろうという安心感があるとも言われています。

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日銀が保有するETFの総額は今年3月末時点でおよそ30兆円、東証1部全体の時価総額の5%にあたります。このまま買い入れを続ければ、今年中には事実上の最大の株主になる可能性があります。存在が大きくなりすぎれば、多くの参加者で価格が決まるという市場の機能が損なわれる恐れがあると懸念する声も出ています。

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世界での感染拡大が続く中、OECD経済協力開発機構は、第2波が起きれば世界経済は今年マイナス7.6%まで落ち込むという厳しい見通しを示しています。経済の低迷が長引けば、各国は追加的な対策を求められることが予想されます。その結果、未曽有の経済対策のツケが一段と膨らんでしまう恐れがあるのです。

③ アフターコロナと変わる社会の姿

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治療薬やワクチンが開発され経済活動が戻ったとしても、社会の姿は以前とは大きく異なっている可能性があります。オンライン会議の活用が広がれば、一つの会場に大人数を集めて会議を行う必要性は薄れていくでしょう。ネットでの物を買う人が増えれば既存の店舗のあり方も変わっていかざるをえません。変化は時代を先取りする形で一気に進み、デジタル化が社会の生産性を大きく高めることも予想されます。
一方でその変化が様々な分野で企業や職場のありようを変えることも考えられます。
米リッチモンド連銀のバーキン総裁は「経済活動が再開されば多くの人が仕事に戻るだろうが、今後なくなってしまう仕事もあるだろう」と述べて、職を失う人々に職業訓練の機会を提供すべきだという考えを示しました。
IMF国際通貨基金のゲオルギエバ専務理事は「最も辛い状況におかれているのは弱い立場の人たちだ。全世界で一億人が極度の貧困に陥りかねないとして、医療や教育分野への投資を増やすとともに、デジタル化の恩恵をできる限りの多くの人が受けられるようにすべきだ」と提言しています。
コロナウイルスの影響を最も受けるのが弱い立場の人々というのは日本も同じです。
広がる格差にも目を配りながらアフターコロナをどのような社会を目指すのか、その変化に応じて働き方や生活を変え、厳しい状況の中でも、経済全体の成長力を高める動きを着実に進めていくことが、今、求められています。

(今村 啓一 解説委員長)

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