NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「コロナと財政~補正予算が問いかける課題」(時論公論) 

神子田 章博  解説委員

新型コロナウイルスへの対応を強化するための今年度の第二次補正予算が先週末、成立しました。今回の予算では10兆円という過去に例のない巨額の予備費の使い道や、支援金を給付する業務を民間に委託する仕組みの透明性が厳しく問われています。

j200615_01.jpg

解説のポイントは3つです。
1)対策の内容と予備費の課題
2)問題はどこに 業務委託 
3)財政の悪化と求められる説明責任 

 まず補正予算の内容です。

j200615_02.jpg

今回の補正予算では、追加の歳出が、31兆9114億円にのぼります。
主な政策を見ますと、▼医療提供体制の強化に2兆9000億円あまり、▼売り上げがおちこんだ事業者に賃料を補助する新しい制度の実施におよそ2兆円、▼企業から休業手当を受け取れない人を対象に国が直接「休業支援金」を給付する制度の創設など雇用の維持におよそ4500億円がもりこまれています。さらに中小企業などの財務基盤強化や資金繰り支援を行うこと。
中小企業や個人事業主を支援する「持続化給付金」の対象の拡大などに対応する予算が盛り込まれています。

j200615_03.jpg

こうした使い道が詳細に決められている予算とは別に、今回の補正予算には10兆円の予備費が盛り込まれました。
予備費とは自然災害への対応など、事前に見通すことができない事態に備えてあらかじめ確保しておく予算です。政府は、新型コロナウイルスの第二の感染の波が来た場合などに機動的な支出を行っていきたいとしており、予備費を組むこと自体に問題があるわけではありません。ただ使い道については、雇用維持や生活支援に1兆円程度、事業の継続に2兆円程度、医療提供体制の強化に2兆円程度と大まかに決まっているだけで、残る5兆円については政府にいわば白紙委任となる形です。さらに10兆円という規模も、毎年度の当初予算に盛り込まれる予備費が3500億円から5000億円程度で推移してきたことを考えると、異例の大きさです。そもそも憲法では「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づく」と定められていて、野党各党は、予備費がこれほど巨額となるのであれば、改めて補正予算を編成し、国民の代表である国会の承認を得るのが筋だと主張しています。また専門家は「いったん予算が積まれると、使ってしまおうということになりがちで無駄の温床になりかねない」と指摘しています。政府は、この予備費の使用について、閉会中審査などを通じて適時適切に国会に報告するとしています。
しかし報告が事後となるのであれば、それが本当に必要な予算なのか国民にはかられることなく、いつの間にか、巨額の公金の支出が決定されていた、ということになるのです。政府としては、できるだけ事前に、あるいは事後になったとしても、予算の使い道を国民に対し丁寧に説明してもらいたいと思います。

予算の使い方と言えば、さきの予算審議の過程では、第一次補正予算に盛り込まれた中小企業支援策の透明性に焦点があたりました。 問題となったのは、売り上げが減少した事業者に最大200万円を支給する持続化給付金の業務の委託費です。

j200615_04.jpg

この事業は政府からサービスデザイン推進協議会という社団法人に769億円で委託されましたが、そこから大手広告会社電通に749億円で再委託され、委託の経緯が不透明だという声が聞かれます。さらに電通は5つの関連会社に外注し、そこからさらに外注を重ねた先の会社が実際の業務を行っています。そして再委託や外注ごとに、電通で104億円など、管理費や人件費などの経費が発生しています。このようにいくつもの階層にわたって支出が行われていることから政府のチェックが行きとどかないのではないかという指摘もでています。

j200615_05.jpg

これに対し、経済産業省では、「不明確、不透明な金額は一切ない」とする一方で、外部の専門家を交えて再委託先や外注先を含めた支出の妥当性について調査を行うとしています。国民の疑問にこたえる説明が求められています。

j200615_06.jpg

こうした給付業務に厳しい目が向けられている背景には、給付金の支給が遅れていることがあります。
経済産業省によりますと、先月14日までに申請があったうち、一か月たってもまだ4万8000件が支給されていません。経済産業省では、申請書類に不備があったためなどと説明していますが、再委託を重ねた事務作業の体制に問題はないのか、政府は現場の作業の実情をしっかりチェックできているのかという疑念も招いています。支給の遅れが長引けば、廃業に追い込まれる事業者も増えるおそれもあります。せっかく巨額の予算を組んでも、苦境にある企業にとっては必要な資金が間に合わなければ意味がありません。そしてこれから実施される賃料の支援策も業務を外部に委託して行われることになっています。委託の仕方に問題はないか改めて見直したうえで、迅速な資金の給付が行えるよう、取り組みを強めてもらいたいと思います。 

最後に今回の補正予算では、32兆円近い歳出の全額を、国債を発行して、つまり借金をして調達し、財政を一段と悪化させることになります。

j200615_07.jpg

これは去年までの政府の予算の歳出と歳入の推移です。高齢化に伴って医療や介護などの社会保障費が大きく膨らんでいることから、歳出が歳入を大きく上回り、赤字分を借金でおぎなう構図が続いてきました。このグラフはワニの口にたとえられますが、政府はこれまで消費税率を引き上げて歳入を増やし、歳出の伸びを可能な限り抑えることで、毎年の赤字額を少しでも抑えようと、つまりワニの口を閉じようとしてきました。

j200615_08.jpg

ところが今年度はワニの顎がはずれたかのように口が大きくに開いてしまうことになりました。今年度の国債発行額は、当初予算で32兆円あまり、第一次補正予算で25兆円あまり、それに今回の補正予算が加わって90兆円あまりにのぼり、その一方で景気の悪化による税収の落ち込みが予想されるからです。今年度末の国債発行総額は、964兆円、国民の頭数で割ると769万円に達します。

j200615_09.jpg

これについて麻生副総理兼財務大臣は「いま大規模な歳出をはからなければもっと経済は落ち込む。覚悟を決めて失業や倒産を防ぐ。」とし、財政の立て直しに向けては「景気回復によって、税収を伸ばしていく」という考え方を示しています。確かに税収の落ち込みが続けば、それだけまた国債発行つまり借金に頼らざるをなくなるわけですから、いまは財政が悪化することになっても経済の回復を最優先するというのは理解できます。
ただ過去には一時的に膨らんだ巨額の予算を国債の発行で調達し、その後特別な増税を通じて返済することになったケースもあります。

j200615_10.jpg

東日本大震災では復興のための国債を発行し、それを返済するために復興特別所得税などが創設されました。納税者が通常の所得税とは別に、所得税額に2.1%かけた金額を納税し、復興の財源とするもので、この制度は令和19年度まで続きます。これとはケースは異なるものの、感染症対策のための政府の債務もいずれ私たちや子や孫の世代に重い負担となってのしかかることになります。

新型コロナウイルスの感染収束までまだ長い時間がかかるといわれている中で、追加の対策の予算が今後も必要となるでしょう。何のためにそのお金を使うのか、具体的にどんな効果が期待できるのか、効率的なお金の使い方ができているのか。政府には、説明を受けた国民が納得できるような予算の使い方をするよう求めたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

キーワード

関連記事