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「米中対立激化~日本のとる道は」(時論公論) 

神子田 章博  解説委員

中国の、新型コロナウイルスへの対応や、香港の反体制活動を取り締まる法制の導入などをめぐって、アメリカと中国の対立が激しさを増しています。その影響は経済分野にも及び、改善が進む日本と中国の関係にも波及しています。

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解説のポイントは3つです。
1) 深まる米中対立
2) 中国経済の切り離しと包囲網
3) 米中の狭間で日本は

 まずは米中の対立の深まりについてみてゆきます。

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中国政府はさきの全人代・全国人民代表大会で、香港の反体制活動を取り締まる国家安全法制を導入することを決議しました。しかし香港は中国へ返還された後も50年間は高度な自治が維持される取り決めとなっています。このためトランプ大統領は、中国の決定は、「いわゆる一国二制度を一国一制度に変えるものだと強く批判。香港に認めていた優遇措置を見直し、香港からの輸入品に対し中国と同様の高い関税を適用する方針を示しました。

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ただ、香港からアメリカへの輸出は、全体の1割程度で貿易面への影響は限定的だという見方もあります。心配なのは、アメリカが「一国二制度」を前提に認めている香港の通貨香港ドルとアメリカのドルの自由な交換が、規制されることです。これが現実のものとなれば、香港の国際金融センターとしての地位が揺らぎ、マーケットに混乱が生じることが懸念されます。さらに中国が海外からの投資を引き込む際の玄関口としての役割を、香港が果たせなくなることで、中国経済にも大きな打撃を与えることになります。一方で、アメリカから香港に進出している1300余りの企業の活動にも影響が及ぶことになり、トランプ政権としては、今後、中国がどのような形で国家安全法制を施行するのかを見極めながら、段階的に制裁を強化していくことが考えられます。
米中関係は、それ以前にも、新型コロナウイルスへの対応をめぐって激しく対立していました。
トランプ大統領は中国が感染初期の段階で情報を隠ぺいしてきたことが、世界的な感染拡大につながり、11万人を超えるアメリカ人の命を奪ったと厳しく非難し、中国に対してウイルスに対する情報の公開を求めています。これに対し中国側は、中国は当初から公開、透明、責任という原則の下で、WHO・世界保健機関と密接に連携協力してきた」として、情報の隠ぺいを否定。アメリカは自らの対応のまずさで感染を拡大させた責任を中国に転嫁しようとしていると反論しています。

こうした中でトランプ政権は、経済分野での中国の切り離しにつながる様々な措置を打ち出しています。

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先月、中国の通信機器大手「ファーウェイ」に対する新たな制裁措置を発表。アメリカ製の半導体製造装置を使ってつくられた製品は、アメリカ以外の国で作られたものであっても、ファーウェイに販売することは認めないとしています。半導体そのものの禁輸措置に加えて、製造装置まで制裁に結びつけることで、IT産業のコメといわれる半導体のファーウェイへの供給を断つ一段と厳しい兵糧攻めにでたのです。また先月末には、中国が長年産業スパイ行為を行ってきたとして、中国人留学生のうち、安全保障上のリスクがある人物の入国の受け入れを停止するよう命じると表明したほか、アメリカの株式市場から問題のある中国企業を締め出す可能性まで示唆しています。

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さらに米中の間では今年1月、中国がアメリカからの輸入を2000億ドル増やすことで合意し貿易摩擦がいったんは収まっていましたが、先月までの中国のアメリカからの輸入は去年より大幅に減っており、トランプ政権が合意を破棄する可能性も取りざたされています。

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このように中国との関係が日増しに悪化する中で、トランプ大統領は、今年アメリカが議長国となって開かれる予定のG7サミットにロシアインドオーストラリア韓国ブラジルの5か国を招待し、中国について話し合いたい考えを明らかにしました。中国を露骨に外した枠組みを作ることで、中国包囲網を形成しようという思惑が透けてみえます。

こうした中で、日本もアメリカと方向性を一にする動きをとっています。

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政府は、今月7日、原子力や通信など、安全保障上重要な事業を行う企業に対して外国人投資家が出資する際に、事前の政府への届け出を義務付ける基準を厳しくする外国為替法の改正法の適用を開始しました。これまでは企業の株式の10%以上を保有する場合に届け出るとしていた基準を1%に引き下げたのです。欧米各国では、中国への情報や技術の流出を念頭に海外からの投資規制を強化する動きが広がっていて、日本も歩調をあわせた形です。

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さらに、日本政府は海外から製品や部品を調達するいわゆるサプライチェーンについても見直そうとしています。中国を念頭に、特定の国に生産が集中している製品や部品について、生産拠点を国内に回帰させたり、東南アジアに移転させたりする場合に、政府が移転費用の一部を補助する政策を打ち出したのです。同様の政策はアメリカ政府も検討を進めていると伝えられています。
こうした動きに対し、中国の製造業などを担当する閣僚は「国際的なサプライチェーンは経済的な原則にのっとるべきであり、政治的な要因とからめることがあってはならない」と述べ、強くけん制しています。

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さらに、きのう安倍総理大臣が衆議院予算委員会で中国が香港への統制を強めていることについて、「一国二制度を前提に考えていくことにおいて、G7で声明を発出していくという考え方で、日本がリードしていきたい」と述べたのに対し、中国政府の報道官は、「完全に中国の内政であり、いかなる外国も干渉する権利はない」と述べ、激しく反発しました。日本がアメリカに歩調をあわせることへの強い警戒感がうかがえます。
このように、日本としては自由や民主主義という価値観を共にするアメリカとの協調を重んじる中で、改善が進む中国との関係を悪化させてしまいかねないという、いわば板挟みの状態に陥っているように見えます。

では日本は今後どうしたらよいのでしょうか。世界はいま、未知のウイルスとの戦いの真っ最中で、問題の解決に向けては国際的な協調が不可欠です。

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それなのにアメリカは、感染症対策の先頭に立つWHOが中国寄りだとして、脱退する意向を示しました。一方の中国も、各国にマスクや医療物資を支援して感謝するように求め、「中国から世界へ感染症が広がったというのに謝らないばかりか恩を売るのか」と一部の国から反感を買っています。各国の協調が求められる時に、世界はばらばらな状態となってしまっているのです。このままでは、世界的な感染収束が遅れるばかりか、世界経済のさらなる落ち込みにつながりかねません。
日本にとっても米中対立がこのまま激化の一途をたどれば、それだけ難しい立場に立たされることになります。

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60年ほど前、アメリカが当時のソビエトと、いまの米中よりもはるかに激しく対立していた東西冷戦のさ中、大統領に就任したケネディは、人類共通の敵として圧政や貧困に加えて疫病を上げ、これらの敵に対して南北・東西を通じた世界的な同盟を構築しようと呼びかけました。
アメリカと同盟を結び、中国とも良好な関係を維持する日本としては、トランプ政権を国際的な枠組みの中に呼び戻し、中国に対しても、独善的ともとれる強気の外交姿勢を和らげるように働きかけて、未知のウイルスと戦う世界的な連携の構築に力を尽くすことが求められています。

(神子田 章博 解説委員)

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