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「新型コロナウイルス 緊急事態宣言全面解除 『新たな日常』 への課題」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員
中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言が、2020年5月25日、全面的に解除されました。安倍総理大臣は、記者会見で、宣言解除後に目指すものとして「新たな日常」を掲げ、新たな発想で感染の拡大防止と社会経済活動の引上げに取り組む考えを強調しました。
今回は、なぜ緊急事態宣言の解除の判断に至ったのか、そして「新たな日常」を実現するためには何が必要か考えます。

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緊急事態宣言の解除をめぐっては、外出の自粛や休業の要請がおよそ1か月半続き、「もう我慢の限界だ」として歓迎する声の一方で、解除して感染は再び拡大しないかという懸念も出ています。
なぜ解除の判断に至ったのでしょうか。

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宣言を解除するかどうかの判断として、政府は、直近の1週間の新たに確認される感染者が人口10万人あたり、0.5人程度以下を一つの目安として示しています。首都圏の4つの都県別に見てみると、0.36人の東京都など3都県は5月24日までに0.5人を下回っています。しかし、神奈川県は0.70人と目安まで減少していません。

なぜ、目安を越えているところも含めて解除したのでしょうか。
神奈川県について政府は、感染経路が追えていて、感染拡大に備えた医療提供体制が改善していることなどを総合的に判断したとしています。

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北海道も、0.76人で目安を上回っていますが、同様の理由で解除となりました。ただ、5月25日は前日より減りましたが、5月20日以降、増加傾向になっています。
諮問委員会の尾身茂会長は、北海道や神奈川県、それに5月24日に14人の感染者が報告された東京都について、状況を引き続き調査・分析するよう求めたということです。
大型連休後、指摘されている自粛のゆるみが現れないかなど、この3都道県はもちろん全国で、感染者の状況を注視する必要があります。

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緊急事態宣言は、日本経済に深刻な影響を与えました。政府の全面解除の判断には、経済の再生に向けて、できるだけ早く社会経済活動の明確な方向性を打ち出す必要に迫られていたという面もあるように思います。その意味で、緊急事態宣言の解除は、大きな節目ではありますが、「ゴール」では決してありません。解除の前提となるのは、感染をゼロにすることは困難であること。そして、次の感染の波が襲ってくることを想定しておくことにあります。

今後心配されている第2波、第3波を抑えるために、何が求められるでしょうか。

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それは、「新たな日常」を定着させることだと思います。
そのベース(基礎)になるのが、一つは密閉・密接・密集の「3密」を避けること、もう一つが「新しい生活様式」で具体的には、人との距離をできるだけ2メートルあける、症状がなくてもマスクをつける、30秒かけて手洗いをする、こうしたことをひとりひとりが実践することです。

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飲食店やイベントなどの休業要請も段階的に緩和することになります。営業再開する施設などの対象を徐々に多くする。飲食店の営業時間を長くしたり、イベントについては参加人数の上限を次第に増やしたりします。
仮に感染者が増えるようなことがあれば、知事の判断で、先の段階に進まない、あるいはひとつ前の段階に戻るといった対応がとられることになると考えられます。
ここで重要なのは、たとえ第2波が来ても、緊急事態宣言を再び発表しなくてもすむよう、いかに第2波を小さなものにするかだと思います。
そのために、業界ごとに作成した感染拡大防止の「ガイドライン」を確実に実施すること、それに私たちも3密の回避や新しい生活様式に照らして、感染リスクが高くなっていないか日々注意することが大切です。
それが「新たな日常」なのだと思います。

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「新たな日常」を考える上で重要なのは、まず、困難に直面している人の生活と雇用を守り、事業を継続させることです。5月25日の週に、決定される第2次補正予算案、すでに決定している対策も含め、必要な対策を迅速に届けることが必要なことは言うまでもありません。
もう一つ重要な視点は、「新たな日常」。これは、感染拡大前にそのまま戻すものではありませんし、経済をもとの水準に戻すのは容易ではないということです。加えて、「新しい生活様式」は、人々の行動を変え、消費や経済の需要を変化させる可能性があります。例えば、緊急事態宣言によって、テレワークは、一気に進みました。この流れをどう維持していくのか。テレワークは、業種や業態によって、導入のしやすさに違いがあります。また、本格的に定着していくうえで、勤務の管理や業績の評価のあり方をどうするかも課題です。
また、感染防止に役立つ製品開発や、宅配などのサービスが、新たな需要をもたらす一方で、3つの密の可能性を指摘される業種や業態は、客足を以前のように戻すのは難しいでしょう。必ずしも生産性が高くはなく、体力の弱い業者にとって、感染防止のための投資は、重い負担になります。これを、私たちが価格や料金で負担する形で、分かち合うのか、中長期的に、産業構造の転換を促していくのか、難しい課題です。

では、これからの「新たな日常」を考えるうえで、医療では、どのようなことが求められるでしょうか。

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医療機関も、長期戦に備えて「新たな日常」の模索が続くと考えられます。と言いますのも、新型コロナウイルスの感染が広がる前は、外来や手術を行って、病棟も入院患者で一定程度埋まっている状態でした。これが、新型コロナウイルスの患者を受け入れた病院では、手術の多くを見合わせるととともに、ICU=集中治療室や病棟の一部を感染者専用にするなどの対応をしました。

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これが新型ウイルスの患者が減少してきた今、ベッドがあいてきています。余裕ができるのは、医療態勢としては良い傾向にあるわけですが、一方で、病院としては患者が少なくなり、収入も少なくなっています。国や自治体から補助などが出されているほか、国は第二次補正予算案にも対策を盛り込む方針です。
第二波がどの程度になるかわからない中で、患者の受け入れ態勢をどこまで確保し、以前の状態にどこまで戻すのか。さらには、地域の病院の間で役割分担をどう組み上げて、これからの日常とするのか。
自治体や病院には、難しい問題が投げかけられています。

次の波に備えた政治の役割を2点指摘しておきたいと思います。

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ひとつは、欧米などのように、強制力を伴った外出や営業の禁止などを取らなかった、いわば日本型の対応を総括しておくことです。
感染の状況や重症者や死者の数などと対策のこれまでの効果をどう評価するのか。今の特別措置法の枠組みを維持するのか。さらに強制力を持った措置をとる必要があるかどうか、さらに強い措置をとる場合、補償をどう考えるか。また、国と地方の役割分担と財源の配分を見直す必要はないか、整理しておく必要はあるのではないでしょうか。
もう一つは、中長期的な視点で、感染拡大の過程で明らかになった弱点を克服するための手立てを考えることです。
東京をはじめとする都市部へのヒト、モノ、カネ、情報やサービスの集中を是正することは、今回、その必要性が再認識されました。また、自治体の財政力など体力の違いをどう埋めて、都道府県を越えた連携をいかに強めていくかも課題です。さらに、医療資材の多くを海外に依存している状況を見直すべきだという指摘が出ているなど、国の安心・安全の確保という観点から、これまでの体制の再点検も重要になってきます。

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今の国会の会期は6月17日までです。会期の延長も含め、こうした課題も、今、議論すべき時ではないでしょうか。

医療を崩壊させずに経済を動かすには、緊急事態宣言のときの生活から、どのようにすれば、どこまでなら元に戻しても大丈夫なのか。その点を見極めて「新たな日常」を身につけることが、宣言解除後の私たちに求められていると思います。

(伊藤 雅之 解説委員 / 中村 幸司 解説委員)

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