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「障害者を守れるか 感染拡大防止の課題」(時論公論)

竹内 哲哉  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための緊急事態宣言が39県で解除されて1週間。感染確認は減少傾向にありますが、感染拡大防止のため、私たちは引き続き、“新しい生活様式”の実践、人と人の距離の確保、マスク着用や手洗いの徹底などが求められています。

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この“新しい生活様式”。感染拡大を防ぐために必要な行動指針ですが、適応するのが難しい人たちがいます。それが障害者です。今日の時論公論は、障害者を感染から守り、くらしを支えるにはどうすればよいか考えます。

<ヘルパーが欠かせない障害者のくらし>

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障害者が暮らしていくには施設でも在宅でもヘルパーのサービスは欠かせません。たとえば食事や入浴、排便など。これらは常に濃厚接触です。なかでも健康維持とウイルスの感染予防の一助となる「歯磨き」は飛沫も飛ぶため、感染リスクの高いサービスです。

また、知的障害者のなかには目に見えないウイルスに対して「予防」するということがなかなか理解できず、「病気じゃない」とマスクを拒んだり、感覚過敏のある障害者はマスクや手洗いを促しても違和感を覚えて拒否するなど、障害特性のために感染リスクを抑えるのが難しい人たちもいます。

<ヘルパーを感染から守ることが障害者を守ることに>
障害者とヘルパーは長時間、密接して過ごしますから、ヘルパーの感染を防ぐことが障害者の感染を防ぐことにつながります。そのために必要なことはなにか。それは福祉現場へのマスクや防護服、ヘアキャップ、グローブといった感染防御資材の確保と支給です。マスクは増えてきていますが、防護服などは依然として医療現場でさえ不足しており、福祉現場までは行き届いていません。

<マスクや防護服不足は工夫で補う>

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では、どうするか。“なければ作る”という発想が必要です。参考になるのは、広島県福山市で病院や特別養護老人ホームを経営する医療機関の取り組みです。コロナの影響で仕事がなくなった技術力の高い地元企業と連携し、ウイルスなどの微細な粒子を通しにくい「不織布」を使ったマスクや、耐久性、防水性があり安価なポリエチレンフィルムの防護服を製造。現場で使用しています。

この医療機関のように資金力のある福祉事業所は多くはありませんので、資金調達には事業所の連携、あるいはクラウドファンディングを使うといった工夫が必要かもしれません。もちろん、国や自治体も民間任せにしてはいけません。資金援助も含め安定的に供給できる仕組みを確立する必要があります。

<取り扱いの教育も>

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そして、もう一つ大切なのが、防護服の取り扱いの教育です。特に脱ぐのは難しく、表面に付着しているウイルスに触れないよう処理するにはトレーニングが必要です。医療従事者と違い、ヘルパーはそうした訓練を受けていませんので、動画などのマニュアルを配布し、使用を徹底することが重要です。

<ヘルパーの感染がもたらす影響>
福祉現場は慢性的な人手不足に悩まされており、感染が起きれば、障害者は福祉サービスを利用できなくなってしまいます。これまでどのくらいヘルパーが感染し、障害者のサービスが滞ったというデータはありませんが、いくつかの福祉施設では集団感染が発生しており、サービスを利用できなくなったということが起きています。

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また、感染の疑いのためにヘルパーが派遣できなくなったという報告もあります。そうなると、家族などに頼らざるを得なくなりますが、介助は重労働です。高齢な親もいますから、毎日となれば肉体的にも精神的にも、とても支え切れるものではありません。また、仕事を休むことが必要になる場合もありますので、金銭的にも厳しくなります。いずれにしても、一家共倒れにもなりかねません。

十分なサービスを受けられなくなると体調が悪化する障害者もいます。これまでは何とか、ヘルパーが踏ん張り、障害者の体調維持に努めてきていますが、「福祉現場の崩壊はいつ起こってもおかしくない」と危惧する関係者は少なくありません。

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こうした事態を防ぐ対策のひとつとして、障害者や高齢者の福祉施設で働く関係者が優先的にPCR検査を受けられるようにという提言を、18道県の知事が国に提出し検討を訴えています。しかしPCR検査には限界があり、すべての感染者が分かるわけではなく、一度陰性だったからといって、その先、感染しないという証明にはなりません。ただ、感染疑いのあるヘルパーが検査を受けることで、陽性であれば障害者の速やかな検査そして支援体制の確立につなげることへの、一助にはなります。

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福祉現場の崩壊は医療現場の崩壊につながります。コロナウイルスの第二波、第三波も危惧されていますので、国や自治体はヘルパーを支える体制を、早急に整える対策を講じる必要があると思います。

<コロナウイルスの影響は障害者の就労にも>
障害者の就労には「一般就労」と「福祉的就労」があります。「一般就労」は企業や公的機関などと労働契約を結んで働く働き方。「福祉的就労」とは、一般就労が難しい人たちが福祉サービスを受けながら働く働き方のことです。

コロナウイルスの影響は、この福祉的就労にも及んでいます。なかでも、全国で月30万人が利用している「就労継続支援B型」と呼ばれる事業所が大きなダメージを受けています。

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この「就労継続支援B型」ですが、比較的障害の程度が重く、雇用関係を結ぶのが難しい人たちが利用しており、「障害者の就労訓練の場」と位置付けられています。そのため、障害者と事業所の間に雇用関係はなく、障害者が休業したとしても雇用調整助成金の支払い対象にはなりません。

仕事は様々で、農作業や食材の下処理、電子部品の組み立てやクリーニングなど、企業からの依頼を受けて「工賃」と呼ばれる収入を得ています。

その工賃が0になってしまったというのが、都内にあるパンの製造・販売を行っている事業所。学校や役所などにパンを販売していましたが、3月の上旬から受注がまったくなくなりました。その結果、月15000円から20000円だった工賃は0になってしまいました。多くの障害者は工賃を生活費に充てているため、厳しい生活を強いられていると事業所の代表者はいいます。こうした受注の減少や事業所の休業により、工賃が受け取れないということが全国で起きています。

<工賃の確保は簡単ではない>

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厚労省は工賃確保のために、在宅就労を行う、あるいはほかの仕事に切り替えて欲しいとしていますが、パソコンがない、あっても使いこなせない、あるいは新たな仕事を覚えることが難しいなど、現実的には厳しいと事業所は口をそろえます。

また厚労省は、事業所を運営するのに得ている給付金、障害者を支える事業所の職員の人件費や光熱費に充てるお金ですが、これを特別措置として工賃に回すことも認めています。しかし、もともと職員の収入は低く、それが減るとなると職員の生活に影響を及ぼします。そうなれば職員は事業所をやめることにもなりかねず、事業所の存続自体が危ぶまれます。

<求められる工賃の支援>

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こうした状況下で、一部の自治体、京都市や鳥取県八頭町は、工賃の減った障害者を救おうと独自の支援策を打ち出しています。八頭町では1人あたり上限3万円を、早ければ来月中旬から支給する予定です。先ほども述べましたが、工賃は障害者の生活を支える上での大事な収入です。国も自治体任せにするのではなく、一刻も早く工賃を支援する施策を打ち出すべきだと考えます。

<まとめ>
コロナウイルスは、“弱者”と呼ばれる人たちを厳しい生活に追い込んでいます。その縮図が、障害者を取り巻く環境です。人手不足、低賃金など、福祉の脆弱さはいまに言われてきたことではありませんが、皮肉にもコロナウイルスによって、そうした課題があぶりだされていると思います。この課題に私たちは一丸となって向き合うことができるのか。適応できない人たちを切り捨てるのではなく、手を携えることができるのか。国民全体が苦境のなかにいる、いまだからこそ求められていると思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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