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「日本経済『最悪』の落ち込み~長期戦にどう備える」(時論公論)  

神子田 章博  解説委員

きょう発表された今年1月から3月までのGDP国内総生産は、新型コロナウイルスの影響で、二期連続のマイナス成長となりました。感染防止の取り組みが長期戦と化す中で、経済政策はどうあるべきか。この問題について考えます。

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解説のポイントは三つです。
1) コロナ不況の谷深し
2) 支援策 間に合わぬケースも
3) 資本注入の方法と課題

(1) コロナ不況の谷深し
まず経済の現状を見てみます。

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日本のGDPは、去年10月から消費税を引き上げた影響で、12月までの3か月に年率に換算してマイナス7.3%と落ち込んでいました。このため、1月からの数字について当初は、反動による増加が期待されていました。しかし新型コロナウイルスの影響で、外出の自粛がひろがるにつれて飲食・宿泊などサービス産業にも深刻な影響が及び、1月から3月の数字もマイナス3.4%と大幅な減少となりました。

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そして4月以降も、全国に緊急事態宣言がだされ、様々な産業で、自治体の要請にもとづく休業の動きが広がり、不要不急の耐久消費財などの販売も落ち込みました。観光のかきいれ時の大型連休も、国内の航空便の利用客が去年の4%にとどまるなど個人消費は大幅に落ち込んでいます。こうした中、先週アパレル大手のレナウンが、上場企業で初めて経営破綻するなど、コロナ関連で倒産する企業は今日までに156社に上りました。民間のエコノミストは、外出自粛のマイナス効果で62万7000人が失業すると試算しています。
さらに外需も期待できません。アメリカでは先月、2050万人もの雇用が減少。失業率は14.7%と、1948年以来最悪の水準に陥っています。FRBのパウエル議長はアメリカ経済は前例のない不況に陥っているとしたうえで、「急速に悪化した雇用情勢がなお景気の重石になる」という厳しい認識を示しています。一方、中国も、先月は工業生産がプラスに転じたものの、小売業の売上高は7.5%と大幅なマイナスのままで厳しい状況が続いています。こうした中、先月から6月までの3か月の成長率が、20%以上のマイナスと“リーマンショック後”を超える落ち込みになるという見方が強まっています。未知のウイルスがもたらした景気の谷は極めて深いものとなっています。

(2)支援策間に合わぬケースも
さて、緊急事態宣言が一部解除されましたが、感染拡大の防止に引き続き取り組まなければならない中で、経済活動は低空飛行を余儀なくされる状況が続きます。こうした中で、欠かせないのが、苦境に陥った企業の支援策の拡充です。

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政府は、中小企業向けに最大で200万円の給付金を支給するなどの、持続化給付金の支給をすでに始めています。
さらに企業が従業員を解雇せずに休業させた場合の助成金を現在の一日あたり8330円から特例的に15000円まで増やす方針が打ち出されました。さらに売り上げが大幅に減った企業に原則半年間、家賃の3分の2を補助する支援策のほか、自治体が休業要請に応じた企業に協力金を支払う際の財源としても使える国からの交付金の増額などが、追加の経済対策に盛り込まれることになっています。
ただ企業の間からは、これまでの支援策について、申請の手続きが煩雑で、実際の給付を受けるまでに時間がかかっていると不満の声があがっています。さらに、追加の支援策のための予算が国会で承認され、実際に給付が始まるのは来月以降となります。政府に対しては、引き続き迅速な支給が求められています。さらに、外出自粛や休業要請の動きがひろがってすでにかなりの時間が立つ中で、企業の中には、すでに限界を超えたとして、廃業するケースも出てきています。支援のお金が間に合わず心ならずも廃業の道を選ばざるを得なかった経営者のために、改めて事業を立ち上げる再チャレンジを後押しする政策が、検討されてもよいのではないでしょうか。

3)資本注入の方法と課題
最後に、新型コロナウイルスとの戦いが長期化することも予想される中で、どのような支援策が必要となるのか考えていきたいと思います。

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企業は、いま、売り上げが減る一方で家賃や人件費の支払いに追われ、過去の蓄えを切り崩している状況です。そこで中小の企業には、給付金の支給や無利子無担保の融資で、企業が資金繰りにゆきづまって経営破たんすることのないよう支援を行っています。しかし、こうした対策は一時的な延命策にすぎません。給付金や家賃の補助には上限額が設けられており、多くの事業所を抱える企業にとっては不十分という声があがっています。無利子融資にしても、長期にわたって売り上げが回復する見通しが立たない中で、多額の借金は追いたくないという声も聞かれます。さらに企業の規模に関わらず、このまま大幅な赤字が続けば、やがては資本を食いつぶし債務超過で経営破たんということになりかねません。そこでいま検討されているのは、資本注入によって、経営基盤を抜本的に強化し、事態の長期化に備えようというものです。

まず大企業・中堅企業に対する支援策です。

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政府系金融機関が、苦境に陥った企業の議決権のない優先株などの購入し、財務基盤の強化をはかることが検討されています。想定される業種の一つが、人の往来制限の直撃を受け、今年1月から3月に数百億円規模の最終赤字を記録した大手航空会社です。航空会社は人件費に加えて航空機のリース料など巨額の固定費の支払いに追われています。いまのところ各社とも銀行の借り入れなどを通じて必要な資金を工面し、苦境を乗り切る構えですが、いまの状況が来年以降にまで長期化していけば、資本不足に陥る恐れもあるだけに、支援策の検討を進めておく必要があるでしょう。

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さらに政府は、地方の中核的な役割を果す中規模の企業を念頭に、地域経済の後押しを目的として設立された官民ファンドと地域の金融機関が共同で出資する支援策を検討しています。
最大1兆円の出資枠がありますが、中小企業を幅広く支援していくには、これでもまだ不十分だとして、資金を追加的に確保する必要性が指摘されています。

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 そこで、重要な資本注入の手段として検討されているのが、劣後債や劣後ローンの活用です。具体的には、政府系や民間の金融機関が、企業が発行した劣後債券を購入したり、融資をすることで、まとまった資金が企業の手にわたります。劣後とは、返済される順位が低いという意味で、簡単に言えば、元本部分を10年以上など、長期間にわたって返さないですむ借金です。このため、実質的に資本を増強するのと同じ効果が期待され、金融機関の資本増強にも利用されてきました。この債権、貸す側にとっては、元本が返済されないリスクが強まるため、通常であれば、金利も高く設定されます。けれど今回は、苦境に陥った企業が対象となるので、当初の数年間は金利をゼロにするなど政策的に金利を低く抑える必要があります。そうすれば、企業は将来コロナ問題が終息し売り上げが回復するのを待って、利息の支払いから始め、最終的に経営が安定したところで元本を返済すれば良いということになります。今後こうした支援の仕組みをどれだけ広い範囲の企業に広げていくことになるかが、焦点の一つとなります。

 新型コロナウイルスへの対応は緊急事態宣言が一部解除され、新たな段階に入りました。景気を回復に導くには、経済を動かしながら感染拡大を抑えていくことが欠かせません。それでも、第二の感染の波が来ることが予想されるなど、事態が長期化する恐れもある中で、打つべき手を早めに考え、万全の体制を整えていくことが求められています。

(神子田 章博 解説委員)

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