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「進路指導は 苦悩する高校」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の延長によって、29の都道府県の公立高校が5月末まで休校する見通しとなりました。長いところでは休校が3か月間にわたることになり、格差が広がる中、進路指導をどう進めるのかが目の前の大きな課題としてのしかかっています。

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▽高校の休校状況は
▽広がる格差への懸念
▽3年生の進路をどうするのか
以上を中心にこの問題について考えます。

まずは、全国の公立高校の状況を見てみましょう。NHKが先週末、各地の放送局などを通じてまとめたところ、今月末まで公立高校を休校とする都道府県は、ご覧の赤い地域、全国で29に上りました。今後、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が今月末の期限を待たずに解除されるところでは、高校の再開も再検討されると見られますが、長いところは休校が3か月間にわたるという状況です。夏休みの短縮や土曜日に授業を行うといった措置を取っても本来の授業日数を補いきれない可能性が現実味を帯びています。
一方で、感染者が確認されていない岩手県は、大型連休の期間中は休校にしたものの、先月の新学期から高校を再開しています。感染者が少ない青森県や鳥取県は、予防対策を講じた上で今月7日から再開するなど、同じ公立高校でも地域によって大きく対応が分かれる結果となりました。

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これによって懸念されるのが、教育格差の広がりです。休校期間の差は最大で2か月以上になります。このため各地の高校が取り組むのがパソコンやタブレットなどの情報端末を使ったオンライン授業です。東京都立日比谷高校は、今月末まで休校を続けることが決まっていますが、今月7日から3学年24クラスすべてを対象に、オンライン授業を始めています。ネット上で会議ができるソフトを使い、1コマあたりの授業時間は通常より短い30分としましたが、時間割通りの授業を行っています。普段の教室での授業では発言が少なかった生徒が、オンライン授業では積極的に発言するといった思わぬ効果も見られるといい、自宅学習が続くことに対する生徒の不安を払拭するため、仮に休校期間が6月以降も続いた場合も想定した見通しを示しているということです。

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ただ、日比谷高校のような例は、公立高校では少数派です。多くの高校は、2月末の安倍総理大臣の突然の全国一斉の休校要請によって、休校中の学習活動について準備や指示を十分行えないまま休みに入りました。これに加え、休校期間の突然の延長や多くの教員が在宅勤務をせざるを得ない状況になったことなどから、計画的な指導が難しいというのが実状です。

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さらにオンライン授業そのものへの思わぬ支障が明らかになっています。
ある都立高校がオンライン授業の実施にあたって生徒と保護者にアンケート調査を行いました。その結果、パソコンやタブレットを持っている生徒は、50%程度で、半分の生徒はオンライン授業に参加するには、スマホを利用するしかなく、読み込めるデータが限られることがわかりました。このほか、大学生の兄や姉が同じ時間帯にオンライン授業を受けているため、授業時間に端末を1人で自由に使えないケースや、さらに親の在宅勤務が拡がったことで同時に回線を利用することになり、障害が出るおそれがあるなど、想定外のケースが生じていました。学校によっては急きょ校内にある端末を貸し出したり、モバイルルーターを手配して対応したりするところもありますが、各校任せでは限界があります。各教育委員会は、早急に現状を把握し、対策を講じる必要があります。

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こうした中で、高校側がもっとも頭を悩ませているのが、進路指導です。進学の場合は大学入試への対応があります。大学入試と言うと、年明けの1月以降のイメージが強いと思いますが、今の大学入試は、例年ですとAO入試と呼ばれる総合型選抜が9月に、校長の推薦に基づいて行う学校推薦型選抜が11月に始まります。これらの入試で、大学の定員の4割程度が決まることになっていますから、まさに入試は目の前に迫っている形です。
このうち、もっとも早い総合型選抜は、生徒自身が高校時代の部活動といった活動記録などを記入するエントリーシートを作成し、学ぶ意欲や目的意識をアピールする形で選考が進められます。ところが新型コロナウイルスの感染拡大で、春以降は運動部だけでなく文化系の部活動の催しや大会などもほとんどが中止を余儀なくされ、活動実績のアピールの場が失われた形です。英検などの資格試験を活用して推薦を得ようと考えていた生徒も、資格試験そのものが実施されない状況が続き、再開のめどが立たない中で、進路相談そのものが開けない高校も多いのが実状です。

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これについて、文部科学省は、学校の様々な活動が少ない状況の中で、AO入試や推薦入試で特定の生徒が不利益を被らないよう大学に周知していくことや、入試全体のスケジュールについて例年にとらわれずに対応する考えを示しています。
文部科学省は毎年6月初旬に大学入試のルールなどを定めた実施要項を都道府県教育委員会や国公私立大学の学長などに通知することになっています。新型コロナウイルスの感染拡大は、いったん収まったように見えても、第2波、第3波と繰り返すおそれも指摘されています。特例としてスケジュールを遅らせるにせよ、あらゆる事態を想定しておく必要があります。その際、高校の休校状況によって大学入試全体の実施時期を何か月遅らせるといった具体的な目安を示さなければ、高校も生徒も安心して準備に臨むことはできないと思います。
高校生の進路は、進学だけではありません。半分近くの生徒は高校卒業後、就職や専門学校などに進みます。その高校生の就職活動は、7月ごろから求人票が動き始めるのが通常のパターンですが、感染拡大は、経済にも大きな影を落としている形です。入試の問題にとどまらず、高校3年生全体の将来を見据えた施策が必要です。

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こうした中、政府で検討が始まったのが、学校の入学や始業の時期を一斉に9月にずらす「9月入学」です。大阪の高校3年生がSNSに投稿したことをきっかけに、教育の遅れを一律に取り戻せることや、留学がしやすくなるといった利点をあげて、複数の知事が賛同したり、導入を求めたりしています。9月入学の制度そのものの利点は以前から指摘され続けてきました。しかし、本格的な実施には、社会システム全体を大きく変える必要があります。制度として実施するとなれば、学校が再開している子も含め、今の学年を1年5か月続けることになります。そもそも新型コロナウイルス感染拡大の収束の見込みも立たない状況の中、9月入学が問題の解決策なのかという根本的な疑問もあります。むしろ今、重要なのは、目の前で困っている子どもたちの学ぶ権利をどう確保するのかに集中的に取り組むことではないでしょうか。

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今の高校3年生は、大学入試センター試験にかわって始まる大学入学共通テストの最初の受験年度となり、いったん決まった国語と数学の記述式試験や英語の民間検定試験の導入が見送られるなど、不安な状況が続く中で、新型コロナウイルスの感染拡大という新たな不安材料が積み重なる状況となっています。生徒たちが準備不足のまま進路の選択に挑むことのないようにするのは、国の大きな責務だということを指摘しておきたいと思います。

(西川 龍一 解説委員)

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