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新型コロナウイルス 緊急事態宣言延長で何が求められるか

中村 幸司  解説委員

これから私たちに、何が求められるのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言から1か月がたちました。政府は、全国を対象にした緊急事態宣言を2020年5月31日まで延長しました。
これまでに、私たちの行動・生活は、大きく変わり、新たな感染者の数は減少傾向にあるとみられています。しかし、一方で感染者の減少のスピードは、期待していたよりも遅いとされています。
今回は、緊急事態宣言から1か月の状況と、なぜ宣言が延長されたのかをみた上で、感染拡大を抑えるため、今後、何が求められるのか考えます。

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緊急事態宣言は、5月31日まで延長されています。

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重点的に対策を進める必要があるとされた上図の濃い赤の東京都や大阪府など13都道府県について、政府は「これまでと同様の取り組みが必要」としています。
一方、ほかの薄い赤に塗られた県については、いわゆる「3密」を回避した上で、経済活動と両立する取り組みに段階的に移行していくとしています。

全国の感染者の日付ごとの人数の推移を見ています。

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新たに感染が確認された人は、4月半ばをピークに減り始めています。
この状況について政府の専門家会議は、「国民の行動が変わったことで、全国的に減少傾向にあると推測される」と分析しています。
専門家会議は、国民に人との接触を8割減らすよう求めてきました。新型コロナウイルスは、感染者1人が概ね2.5人に感染させると考えられています。接触を「8割減らす」つまり、接触を2割に抑えると、感染者1人がうつす相手は、2.5人の2割に相当する0.5人になる計算です。
0.5人の状態であれば、上のグラフより感染者はもう少し急激に減少し、宣言から1か月の5月7日の前後には、もっと明確に感染者の数が減るとみられていました。
しかし、実際には、それより減少のスピードが遅くなっています。新たな感染者数が十分に減少していない、これが緊急事態宣言を延長した理由の一つです。

延長の理由は、他にもあります。

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そもそも緊急事態宣言の狙いは、
▽ひとつには、新たな感染者を減らすことです。これは重症になって亡くなる人を減らすということにつながります。
▽もう一つは、患者の増加が限界を越えて病院が対応できなくなる「医療崩壊」を防ぐということがあります。
1点目が「減少のスピードが遅かった」とされている上に、2点目についても13都道府県では、重症患者を治療する病院のベッドの多くがふさがって、中には医療現場がひっ迫しているところがあるとされています。そのほかの県でも、今後、一度に多くの人が感染する「集団感染」などが起こり、ベッドが足りなくなる事態に備えておく必要があると指摘されています。

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こうしたことから、すべての都道府県でこれまでの緊急事態宣言をそのまま延長する必要があるとされました。つまり、延長は、感染者を十分減らすという意味と併せて、仮にいったん減った感染者が再び増えて、いわゆる「第2波」が来たとしても、十分対応できる医療態勢の準備・整備をする期間と位置づけられます。

では、緊急事態宣言が出されてきた中で、どのような課題が見えてきたでしょうか。

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一つはこれまでも言われている、PCR検査の数の少なさです。新型コロナウイルスに感染しているかどうかを調べる検査で、早期診断、それに感染者と感染していない人を分けるために、PCR検査の拡充が必要です。
国は、1日、1万6000件以上の検査能力を確保しているとしていますが、実際は、4月末現在、多くても8000件余りにとどまっています。
背景には、日本では、過去のコロナウイルス感染症であるSARSやMERSの流行が国内で起きなかったことなどがあるとされています。
さらに、検査機器はあっても、保健所や地方衛生研究所で検体を採取する人や運搬、検査機器を操作する人など要員の不足、さらに検査の際の防護服やゴーグルといった防護具が足りないなど、検査の様々な段階で態勢が整っていないためとされています。
はたして、要員の不足を速やかに補うことができるのか、対策が求められています。また、東京都などでは医師会が、PCR検査センターで検査を行う新たなシステムを作りましたが、この検査数を拡充していくことも、特に都市部では必要です。

さらに、長引く自粛で、経済をはじめ生活への影響をどう最小限にするかが難しい課題になっています。

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これについて専門家会議では、「新しい生活様式」を取り入れるよう求めています。
密集・密接・密閉のいわゆる「3密」を避け、人との間隔をできるだけ2メートルあける。さらに、家に帰ったら手と顔を洗う、食事は対面ではなく横並びで食べるなどといった実践例があげられています。
いま求められるのは、こうした生活様式を一人一人が「徹底」することです。
また、感染リスクを抑えるこの生活様式を職場や店の営業の仕方に落とし込んで、感染対策と経済活動の両立を図ることが大切です。業種や施設の種類ごとに、業界が「ガイドライン」を作成するよう求めています。
このガイドラインを早期に作成することが必要です。

北海道の現状をみると、この重要性が見えてきます。

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感染が拡大した北海道は、2月28日、知事が独自に「緊急事態宣言」を発表しました。感染を抑えることに成功したかのように見え、宣言は終了されました。

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ただこの時は、当然、新しい生活様式もガイドラインもありません。その後、第1波より大きい第2波がきて、いまもって、その感染拡大を抑えられていません。
せっかく感染者の数を減らしても、対策がいったん緩むと立て直しがいかに難しいかを示しているように感じます。

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一方、5月4日に緊急事態宣言の延長が発表されて以降、薄い赤の34県の中からは、これまで行ってきた休業や外出自粛などの要請を一部取りやめたところが出てきています。ただ、リスクを最小限にするために、こうした生活様式が市民に十分浸透し、業界のガイドラインが作成されていることが大切になります。特に、外出や営業などの自粛要請を取り止める際には、第2波を生まない慎重な判断が必要です。

ウイルスとの闘いは、長期間になるとされています。
知事が自粛要請を取りやめたり、総理大臣による緊急事態宣言が解除されたりしても、私たちは、新型コロナウイルスがまだ知られていなかった2019年12月以前のような生活にすぐに戻ることはできないと考えておかなければなりません。
感染者を減らして、重症の患者に十分な治療ができる医療態勢を維持することが重要です。そのために、全国的に感染者が減少傾向にあり、自粛を緩和する動きが始まった今こそ、私たち一人一人が新型コロナウイルスの感染リスクを少しでも抑えるよう生活を変えていかなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)


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