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「新型コロナ 苦悩する大学と学生は」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大は、全国の大学にも大きな影響を与えています。多くの大学が入学式を取りやめたり授業の開始を遅らせたりすることを余儀なくされる中で、前期の授業については本格的に行うことは無理との声も上がり始めています。

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▽大学で何が起きているのか
▽授業再開の決め手と見られたオンライン授業の問題点
▽行き場を失う学生をどうフォローするのか
以上、3点を中心に、この問題について考えます。

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全国の大学は今、どうなっているのでしょうか。緊急事態宣言の中では、多くの大学が休業要請の対象となっています。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、大学側は、宣言が出される前から対応に追われ、多くは入学式を取りやめました。首都圏や近畿地方を中心に、今年度の授業の開始はもとより、学生も教員も学内への立ち入りが禁止となるなど、大学の機能そのものが停止状態というところも少なくないのが現状です。
文部科学省のまとめでは、全国の大学のうち授業の開始を遅らせることを決めたのは、8割に上るということです。政府の緊急事態宣言が全国に拡大されたことで、こうした状況は当面解消される見通しが立たなくなったというのが大学関係者の共通の見立てです。

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こうした厳しい状況の中でも授業を行っている大学もあります。そうした大学が取り組むのが、パソコン等の情報端末を利用したオンライン授業です。いち早く夏休みまでの授業をオンラインに切り替えることを決め、学生に周知する対応を取った大学があります。東京・三鷹市にある国際基督教大学は、入学式は中止したものの、新入生も含め当初の予定通り今月9日から授業をオンラインで始めました。また、秋田市の国際教養大学は、授業の開始は今月20日まで遅らせましたが、すべての学生向けにオンラインでの授業を始めています。ともに先進的にこうした授業に取り組んできたことが功を奏した形です。ほかにも今週からオンラインで授業を始めた大学があります。文部科学省の調査では、全体では8割の大学が何らかの形でオンライン授業の実施を決めたり、実施を検討したりしているということです。ただ、オンライン授業を行うには、大学・学生双方に課題が顕在化しています。

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まずは、大学側の問題です。そもそも日本の大学の中で、こうした授業に取り組んだことがある大学は、25%にとどまるという実状があります。ほとんどの大学は、すべての学生を対象にオンライン授業を行うことは想定していませんから、サーバー自体がそれを前提とした整備がされておらず、容量オーバーでトラブルを起こすことを懸念する声があります。東北大学で、おとといのオンライン授業初日にシステム障害で一部の学生が午前の授業を受けられない事態が起きるなど、情報基盤が恵まれていると見られていた国立大学でも、すでに多くのトラブルが出ています。
教員の対応の問題もあります。大学が閉鎖されて研究室にも入れない状況で、準備もままならないまま、これまで行ったことのない授業に臨む事態が起きる可能性があります。授業をどこから行うのかという問題もあります。文部科学省は、教員が自宅からオンライン授業を行えるよう改めたほか、大学のシステム整備や教員の支援にあてる予算を国の経済対策に盛り込みました。しかし、国の支援には限界があります。

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学内でしかできない授業もあります。実験や実習です。理工系の学部には、実験装置を使わければできない実験があります。医学部では実際の患者に向き合う「臨床実習」が不可欠です。学内ではありませんが、教育実習は受け入れ先の小中学校、高校の休校が続く中で、1学期中の受け入れの目処は立たない状況です。いずれもオンラインでは行うことができません。ほかの授業を先に行うことにも限界があり、早くも答えに行き詰まっています。

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学生側はどうでしょう。ほとんどはスマホなど何らかの情報端末を利用して授業を受けることができると想定されています。問題は通信費でした。自宅にWi-Fiなどの設備がない学生は、スマホのデータ通信を利用するケースが多くなりますが、それには上限があります。国の要請を受けたNTTドコモなど大手3社が25歳以下の学生を対象にデータ通信料を一部無償化するほか、国の経済対策でも自宅に通信設備がない学生向けにモバイルルーターを貸し出すための予算が盛り込まれました。しかし、これだけでは問題は解決しません。
昭和女子大学の学生が、オンライン授業で新学期の授業が始まるのを前に、学生155人にアンケート調査を行いました。その結果、ほとんどの学生が自宅にネットワーク環境はありましたが、36%の学生は通信量に制限があるかどうかを把握していないほか、21%が自宅のネットワークへの接続方法がわからないと回答しました。授業の途中でネットがダウンする可能性があるわけです。このほか、自宅にプリンターがない学生が23%で、教材や課題としてプリントをネットで配布しても印刷できないといった支障が生じる可能性があります。この結果がすべての学生の傾向を示すものではありません。ただ、最近の学生は、必要な時は大学のものを利用しているため、必ずしもパソコンは持たないとの指摘もあり、スマホでは小さな文字や図表は読めないなど、教育環境が学生によって不統一な問題をどうするのか。学生側の課題もつきません。

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さて、学生にとっては、もう一つ、大きな問題があります。3つ目のポイントである「行き場を失う学生」の問題です。生活費を賄おうとアルバイトをせざるを得ない学生も多くいます。ところが、飲食店を中心に肝心のアルバイト自体が少なくなっています。影響が顕著なのは自宅外の学生です。節約のため実家に帰ることは感染拡大のリスクを広めることになると自粛を求められています。学費や生活費は大丈夫なのか不安を抱え、このまま大学へ通っていいのか迷い始めたという学生もいます。
新入生も深刻です。大学は、必要な単位を取得するため、学生自身がカリキュラムを選択するなど、高校までと授業を受けるためのシステムがまったく異なります。そうしたシステムがわからない新入生向けのガイダンスが行えないままの大学も多くなっています。自宅外の新入生の中には、大学の閉鎖で寮に入れなかったり、下宿先の契約をいったん見送ったものの、いつから契約したらいいのかわからなかったりといった戸惑いの声が聞かれます。一方で、早めに大学近辺への引っ越しを済ませた新入生の中には、いったん実家に帰るかどうか迷っているうちに緊急事態宣言が出たことで帰るに帰れず、知人も少ない中で孤立しているケースが少なからずあると見られています。精神的に追い詰められた学生をどう救うのかも含め、大学側はできるだけ細かな情報を学生に示さなければなりません。
そして国には、学生の生活や学習権を損なわないための指針を早急に打ち出すことを求めたいと思います。それには、困窮した学生には、授業料の納付期限を延ばすことや減免措置、今年度から始まった給付型奨学金の対象を広げることを新型コロナウイルス感染拡大対策の一環として盛り込むなどの方法もあるのではないでしょうか。

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多くの課題を抱える大学ですが、今のような事態に普段と同じことはできません。大学ごとに状況が異なるという難しさを抱える中で、知の拠点をどう守っていくのか、知力を結集する必要があります。

(西川 龍一 解説委員)

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