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新型コロナウイルス 貧困家庭の子どもに支援を

神子田 章博  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大で法律に基づく緊急事態宣言が出てから2週間。
休業や休校などで経済的に厳しい状態に追い込まれている人たちが急増しています。
中でも、従来からの社会課題がより深刻になって表面化していることの一つが「子どもの貧困」です。いま、貧困家庭の子どもや親たちがどのような状況に追い込まれているのか。
そして、そうした家庭の孤立を防ぎ、生活を守るためにできることは何かを考えます。

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解説のポイントです。
▽いま低所得家庭の子どもたちはどのような状況なのか。
▽政府の対策と課題
▽長引く外出自粛で、増加が懸念されている子どもへの虐待と家庭内暴力の防止策です。

【貧困家庭の子どもたちは今】
新型コロナウイルスの拡大による休校・休園で、いま、経済的に苦しい子育て世帯からは、このままでは生活できなるという声が相次いでいます。
中でも、特に厳しい状況なのがシングルマザー、母子家庭の世帯です。

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いま日本の子どもの貧困率は14%。非正規で働く人の増加で、ふたり親の世帯の貧困の問題もありますが、とりわけ母子家庭の貧困率は50%を超えていて、先進国で突出しています。
もともと貧困世帯が多かった母子家庭。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、より深刻な状況に陥っているのです。
NPOが今月初めに母子家庭を対象に行ったアンケート調査によりますと、
長引く休校などで仕事に行けなかったり、仕事がなくなったりして「収入が減る」と回答した人は半数の49%。「収入がなくなる」と答えた人も6%いました。このNPOによりますと、前の月の調査に比べて、収入が減ったり無くなったりした人の割合が10ポイント以上増えたといいます。
また、子どもの休校で仕事を休まざるを得なくなった人への支援に充てるとして、政府が設けた助成金を受けられたかどうかを尋ねたところ、「受けた」と答えた人は少なく、会社が申請の手続きをしない、もしくは手続きをしてくれるかどうかわからないために、支援を受けられていない人が多いこともわかりました。
そもそも母子家庭は、非正規で働く母親が多いため平均収入は少なく、およそ4割が貯蓄がありません。

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このため支援団体には、学校が休校になって以降、収入が減って政府の支援策も受けられていない人から「学校で給食が食べられなくなり、家ではお米類ばかりしか食べさせてやれず、子どもが必要な栄養が摂れない」という声や、高校生からは「自分のバイト代がなくなって生活費が足りなくなり、これからの生活のために高校を退学しないといけない」といった切実な声、中には「生活費がなくなり、子ども4人を抱えて心中するしかない」という深刻な相談が増えているとのことです。

【政府の対策と課題】
こうした母子家庭を含めて、低所得の子育て世帯をどう支えるのか。
政府もようやく4月20日、次の支援策をまとめました。

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すべての人に「一人当たり10万円」の給付金を早ければ5月中に出す方針を決めた他、中学生以下の子どものいる家庭に出されている児童手当も1万円増額するとしています。「遅すぎる」との批判はありますが、これまで政府の支援策が届いていない家庭やもともと低所得だった人にまで支援が届くようになる点では一定の評価ができると思います。しかし、今後、感染の収束までは時間がかかるとの見方もある中で、とりわけ低所得の家庭から、一度きりの支援ではこの先どう暮らしていけばいいのかと不安な声が出ています。

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神奈川県藤沢市の40代の女性は、軽度の発達障害のある中学生の娘と二人暮らし。病院のパート勤務で先月の収入は11万円でした。学校が休校になって以来、食べ盛りの娘の昼食に加え、感染予防のための消毒液、娘が一人で退屈しないようにと購入した本代、光熱費も増えて、出費は2~3万円増えたといいます。貯金もほとんどありません。女性は、「自分がもし体調を崩せば娘はたちまち生活ができなくなる。こんな非常時に誰にも頼れないのは孤独感を感じる。10万円の給付は大変ありがたいが、生活はこれからもずっと続く。苦しい家庭に寄り添った息の長い支援をしてほしい」と話していました。

さらに、専門家からも、休校で学校というセーフティネットがなくなった上に、全国に広がってきた子ども食堂などの市民のサポートの場の多くが感染拡大の防止のために活動を制限されたことで、従来からの低所得家庭の生活費を支える仕組みが不十分だったことが表面化していると指摘が出ています。

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子どもの貧困問題に詳しい東京都立大学の阿部彩教授は、「政府は、親の就労を促す対策に力を入れてきたが不安定な雇用形態の人が多く、従来から子育て世帯には手当や生活費にあてる公的な支援策をもっと充実させておくべきだった。
そして、緊急時の今は、▼手当のさらなる増額や、▼子どもの学校などを通じて様々な支援の情報を流すこと、▼公共料金が払えなくてもサービスを断ち切らない、家賃が払えなくても家を追い出さないというメッセージをしっかり伝え、安心して食費にお金を回せるようにすることが大切だ」と話しています。

こうした中、一部の自治体からは独自に、児童手当やひとり親世帯に支給される児童扶養手当を増額する動きが出ています。また、経済的に苦しい家庭の子どもに昼食代を支給する自治体も出てきています。民間の支援団体も、企業や個人からの寄付を受け付け、支援金や食品などを提供する活動を続けています。しかし、どの地域であっても、困窮世帯の子どもたちが置き去りにされないよう、国が継続的な支援を早く打ち出す必要があるのではないでしょうか。

【虐待・DV増加への備えを】
そして、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、もう一つ懸念されているのが、貧困問題との関連が深い子どもへの虐待や家庭内暴力(DV・ドメスティックバイオレンス)の増加です。

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子どもへの虐待やDVは、様々な要因が複雑に絡まって起こると言われていますが、経済的な不安が根底にあるケースも多いと指摘されています。
被害者支援を行っているNPOなどには、「夫の事業がうまくいかなくなり、子どもの休校でストレスがたまり、夫が家族に暴力をふるうようになった」という相談や、夫のDVから逃れるために子どもをつれて家を出ようと準備していた女性から、「自宅にいる夫から監視されて避難するのが難しくなった」という相談が寄せられていると言います。

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このため、専門家からは、
親の経済的な不安が和らぐよう支援を拡充することが重要だとした上で、
▼電話やオンラインでの相談窓口を開設し続けること、
▼親から子どもを引き離す「一時保護」を迅速に行えるようにすること、
▼虐待の増加に備えて、一時保護所の代替施設の確保を急ぐ必要があるという指摘が出ています。
しかし、児童相談所の職員は慢性的な人手不足。子どもたちの支援体制の脆弱さが改めて浮き彫りになった形です。こうした中で、どのように子どもたちを受け入れる態勢を整えることができるのでしょうか。

いま、子どもたちの悩みを受け付ける相談窓口には、経済的に苦しい家庭や家に居場所のない子どもからのSOSも相次いでいます。新型コロナウイルスとの闘いが長期化すれば、さらに今後、経済的に困窮する家庭は増加する恐れがあります。そうした家庭の子どもたちが社会から孤立し、未来を閉ざされることが決してないよう、国や自治体には早期に困窮世帯への継続的な支援を打ち出してほしいと思います。

(藤野 優子 解説委員)


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