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「凍る世界経済 大不況は避けられるか」(時論公論)

今村 啓一  解説委員長

新型コロナウイルスの感染者は、若者も含めて増え続け、世界で流行が加速しています。
欧米を中心に広がる世界の感染の状況と、人やモノの移動が滞り凍り付く世界経済の行方を考えます。

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① ヨーロッパで感染拡大続く、新たな流行の中心はアメリカか  

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世界の感染者は今日の時点で40万人を上回り、感染拡大に歯止めがかかっていません。
感染者はヨーロッパを中心に今月から急激に増え、先週18日に20万人に達してからほぼ一週間で倍増、拡大の速度が急速に早まっています。亡くなった人の数は、イタリア(7503人)とスペイン(4089人)では、いずれも中国(3287人)を上回る水準で増え続けています。(26日午後9時時点)
ヨーロッパではイタリア、スペイン、フランスを始め各国で外出を制限する措置が取られているにも関わらず、感染拡大の勢いが止まりません。

特に今心配されているのが、アメリカです。感染者5万人に達し、この10日間で13倍に増えました。WHO世界保健機関は、アメリカが、今後、流行の中心になると警告しています。アメリカでも多くの州で食品の買い出しなど必要不可欠の場合を除いて住民の外出を制限する措置がとられています。しかし対策の遅れから感染は全米各地に広がっています。さらなる拡大に備えて、アメリカ軍は病院船を派遣し、野戦病院の準備も進んでいます。

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中でも感染者が増えているのが東部ニューヨーク州です。
クオモ知事は「人工呼吸器が圧倒的に不足していて、このままでは患者の命が救えなくなる」と、連邦政府に支援を強く求めていますが、まだ十分な数を確保できていません。さらにクオモ知事は「ニューヨークは(危機の予兆を知らせる)炭鉱のカナリアだ」と述べて、感染者の爆発的な増加は、今後アメリカ全体に広がる可能性があると警鐘を鳴らしています。

1000万人以上いるといわれる不法移民への感染拡大を懸念する声も広がっています。アメリカの移民当局は、医療施設では取り締まりを行わないという方針を公表し、感染が疑われる不法移民に対して受診を促しています。

② 凍る世界経済

地球上で国境を越えた人の移動がほぼ止まり、都市の封鎖が相次ぐという、第二次世界大戦以来ともいえる異常事態を受け、実体経済にすでに深刻な影響が出始めています。

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消費の急激な落ち込みを受けて、全米各地でレストランやホテルから製造業まで、様々な業種でレイオフ、一時解雇が相次いでいます。3月26日に発表された先週の失業保険の申請件数は328万件と前の週より10倍以上増えました。毎日40万人以上が職を失っていることになり、アメリカは前代未聞の雇用危機に見舞われています。米セントルイス連銀のブラード総裁は最悪の場合、失業率は30%にまで急上昇する恐れがあると警告。経済活動が一気に萎む結果、4月から6月の成長は30%落ち込むという予測も出ています。(米金融大手モルガン・スタンレー)

各国の金融機関が加盟する国際金融協会は、年度後半に景気が回復したとしても、ことし一年間の成長率は、ユーロ圏では、-4、7%、アメリカは、-2、8%、世界全体では-1.5%となり、リーマンショック後の2009年以来11年ぶりにマイナスとなるという見通しを明らかしました。

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景気の急激な落ち込みを何とか支え家計や企業を守ろうと、各国は前例のない規模の経済対策を相次いで打ち出しています。アメリカは25日、リーマンショックの対策を上回る史上最大となる総額220兆円余りの緊急経済対策を議会上院で可決しました。
一人当たり最大1200ドル13万円あまりの現金給付、深刻な打撃を受けている企業への支援、失業保険の拡充が主な柱です。GDPの10%にあたる大規模な景気対策で、経済への衝撃を和らげるとともに社会不安の払しょくに全力を挙げる構えです。

ヨーロッパでは、財政規律を維持してきたドイツが、企業支援など景気対策のために、18兆円余りの赤字国債を新規に発行する、イギリスは、雇用が維持されるよう賃金の80%最大でおよそ33万円を政府が肩代わりすることを決めました。

感染症との闘いを前に、対応が遅れ経済への打撃が決定的になってしまう前に、国民の今の雇用と暮らしを守るためできる限りの対策を打とうとしているのです。

③ 大不況は回避できるか

こうした各国の対策で世界は今回のショックを乗り切ることができるのか。

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11年前のリーマンショックの際に連携して危機を乗り切ったG20各国をみますと、当時とは状況が大きく異なります。リーマンショックの際には特に中国が巨額の景気対策を打ち出して結果として世界経済を支え、いわば救世主になりました。しかし、今回は中国自身が震源地で、経済成長が大きく鈍っており、まず自らの経済の立て直しが優先課題です。

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さらにロシアとサウジアラビアの対立の結果、急落した原油価格が、各国経済の足を一段と引っ張ることが確実です。アメリカではシェール企業の経営が一気に悪化し、これらの企業が発行する債券が大量に投資不適格になって金融不安の火種になる恐れが出ています。加えて国家財政を原油輸出に頼る産油国や新興国も大きな打撃を受けることが避けられません。

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ハーバード大学のラインハート教授は、地元メディアのインタビューで「世界は、先進国と新興国の経済が同時に落ち込むという1930年代の大恐慌以来の危うさを見せている」として強い危機感を示しています。

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世界経済の急激な落ち込みが、オリンピックパラリンピックの延期の影響も懸念される
日本に追い打ちをかけることは必至です。欧米での流行が6月までに終息したとしても
日本のGDPは13兆円余り減少、率にして、2.5%のマイナスとなる、終息が年末まで長引いた場合には、影響は2倍以上に広がるという試算も出ています。(大和総研)
政府は、来月大規模な経済対策を打ち出す方向で具体的な検討を進めています。

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今回の事態は、感染の広がりを防ぐため人の移動を制限し経済活動を抑えながら、雇用や所得を維持するという、いわばアクセルとブレーキを同時に踏むという難しい対応を迫られます。ただ、大不況を避けることができるかどうかは、感染拡大をいかに早く収束させることができるかにかかっています。社会全体で感染の拡大を防ぎつつ、ぎりぎりの厳しい状況に置かれた人々や、経営基盤が弱くても地域や社会にとって欠かせない企業を守るため、早急に大胆な対策を講じることができるかが、今、問われています。

(今村 啓一 解説委員長)

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