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「原発 初の『強制停止』 その意味は」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

福島の事故から9年、原発の運転が原子力規制委員会によって事実上強制的に停止。
鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機がきのう運転を停止。
テロ対策施設の建設が間に合わず、原発の新基準に適合しなくなったため。
すでに再稼働した原発の多くも、今後同じように運転停止に追い込まれる見込み。
今回規制委は猶予を求める電力会社を一蹴する厳しい判断。
その背景には何があるのか。水野倫之解説委員の解説。

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九州電力はきのう午後1時過ぎに、川内原発1号機の運転を止めた。
今年11月まで運転ができるはずだったがテロ対策施設の設置が、期限のきょうまでに間に合わなくなった。
規制委は原発の新しい規制基準を満たしていないと認定。
事実上強制的に運転が停止させられることとなった。
原発が規制当局によって停止させられるのはこれが初めて。
運転停止は少なくとも9か月に及ぶ見込み。
また2号機も間に合わず停止となる見込みで、九州電力は2基分の電力を火力発電で賄うことにしており、毎月80億円のコストアップになるという。

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テロ対策施設は、新基準で義務づけ。
原発の中央制御室から100m以上離れた場所に、予備の制御室や電源、ポンプなどを備えることで、航空機を衝突させるようなテロでも遠隔で原子炉を冷却して放射性物質の大量放出を抑えようと。

アメリカの対策を参考にした施設でさらなる信頼性向上のための追加の安全対策と位置づけられ、設置には猶予期間。認可から5年以内に設置することとされ、川内原発1号機の場合その期限がきょうだった。

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しかし九州電力は期限まで1年を切った去年春になって、突然規制委員会に対して設置が間に合わないと報告、設置期限の延長、運転継続を求めた。
ほかにも再稼働した原発のうち関西電力の4基と四国電力の1基も間に合わない見込みで、3社がそろって延長を求めた。
「実際にやってみると固い岩盤をくりぬいたり山を切り開くなど難しい工事であることがわかった」というのが理由。
工事の遅れに対して危機感を持たず、遅れている状況を規制委員会へ報告もしないまま、ギリギリになって横並びで訴えてきた電力会社の姿勢は事故前と変わっておらず、不信感を持たざるを得ない。

規制委の更田委員長も、「工事の見通しが甘い。訴えれば何とかなると思われたとしたら大間違いだ」と電力会社の対応を批判。5人の委員全員一致で延長は認めず、運転の停止命令をだすことを決定。
これを受けて九州電力は期限前日のきのう、運転を止めた。

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今回規制委が運転停止という厳しい対応を打ち出した背景にあるのは、事故で地に落ちた原子力規制への信頼。
福島の事故前、電力会社は原発の規制の先送りを働きかけ続け、規制当局も毅然と対応しなかった。
福島第一では東電内部で巨大津波の可能性が指摘されたが、規制当局が具体的な指示をすることはなく、結果として大事故に。

当時原発に関する専門性は電力会社の方が高く、規制当局は電力会社に取り込まれていた、と指摘されるなど原発の安全監視体制は事実上崩壊。
これを教訓に国家行政組織法3条に基づく独立性の高い組織として発足したのが規制委。
今回再び、電力会社の事情を考慮して延期を認めてしまえば、福島の教訓を何も学んでいないことになり、原子力規制に対する国民の信頼がさらに失われかねないとして、延長は認めなかった。

これに対しては、「原発の停止は電力会社の収益に大きな影響がある。5年の期限にどんな意味があるのか、きのうときょうでリスクが変わるわけではない。」という意見も。
しかし、あと少し、を繰り返して、新基準の運用が電力会社の意向でどうにでもなるなら、原子力規制は事故前に戻ってしまい、原発の継続的な安全性の向上は一向に実現しない。
今回の運転停止は規制委員会として当然の対応で、妥当な判断。

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実は今回以外にも、規制委は、すでに再稼働した原発に追加の安全対策を次々と要求。
これは事故を教訓に導入された、追加規制の制度に基づくもの。
安全神話がまかり通っていた事故以前は、一旦許可が出た原発は絶対安全だとされ、追加の安全対策を電力会社に強制できなかった。
しかし事故後は、新たな知見が得られた場合には、規制委が基準を改定し、電力会社に強制力を持って対策を要求できるようになった。

例えば去年、規制委は高浜原発にあらたな津波対策を要求。インドネシアで火山噴火で、津波警報が発表されないまま津波が発生したから。高浜は警報を受けて防潮ゲートを閉めることになっていたため、警報が発表されない場合の対策を要求。潮位計が設置されることに。

ほかにも使用済み核燃料プールの水漏れ対策など、追加規制は12件に上り、今後地震対策についても規制をより厳しくする方向。

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このように追加規制の制度は、原発の安全性を高める方向に機能し始めているようにも見える。ただ追加対策に消極的な電力会社の姿勢が問題。
テロ対策施設にとどまらない。
去年、規制委が鳥取県の火山の噴火で高浜、大飯、美浜の3原発で想定を超える火山灰のおそれがあるとして関電に追加対策を要求するも関電は必要ないと消極的な姿勢に終始、規制委は審査の受け直しを命令。

また追加規制は電力会社から提案できるが、これまではすべて規制委からの提案によるもので、電力会社からのきちんとした提案はほとんどないということ。

その背景のひとつには増え続ける原発の安全対策費。
東電や関電は再稼働を進める原発にそれぞれ1兆円のコストがかかる見通し。ほかの原発でも1基あたり1000億円以上見込まれており、電力会社としてはこれ以上のコストをかけたくないという思いがあるとみられる。

しかし原発の経済性が安全よりも優先されることはあってはならない。
基準を満たすのは最低限のことで、電力会社自らが自主的に安全性を向上させる姿勢が極めて重要。
電力もメーカーとともに安全対策を立案する組織を発足させてはいるが、その活動はまだ不十分。
福島の事故から9年、原発の安全に対する国民の不安は払拭されてない。規制委や電力はこのことを肝に銘じて、常に安全性向上に取り組んでいかなければ。

(水野 倫之 解説委員)

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