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「新型コロナウイルス 世界経済の『危機』にどう立ち向かうか」(時論公論)

櫻井 玲子  解説委員

新型コロナウィルスの感染拡大が、日本をはじめ世界経済に与える影響に、今、懸念が高まっています。
OECD・経済協力開発機構は「世界経済はリーマンショック以来最大の危機に直面している」と警告。
G7・主要7か国は日本時間の昨夜、緊急電話会議を開くなど、緊迫した状況が続いています。
日本および世界経済への影響は、どこまで広がるのか。
そして今後の課題はなにかを考えます。

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金融市場の緊張感が一気に高まったのは先週(2月24日の週)はじめのことでした。
▼中国以外の国でも、感染者が急激に増え、新型コロナウィルスが「アジアの問題」から「世界の問題」になったとの受けとめが広がったこと。
▼中国があす(3月)5日に行われる予定だった全人代を次の日程を決めずに延期したこと。
そして▼比較的好調だったアメリカ企業の業績の見通しにまで影響が出始め、事態の深刻さが認識されたことが背景にあります。
東京市場では一時、千円以上の値下がりを記録する日が続いたほか、NYでもダウ平均株価が先週一週間で12パーセントも下落しました。
WHO・世界保健機関がどう定義するかはともあれ、金融市場では「世界経済を蝕むパンデミックの恐れが高まった」という見方が、広がったのです。

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こうした事態を受け、G7・主要7か国の財務大臣と中央銀行総裁は日本時間の3日夜、
「世界経済の下振れリスクに対応するため、すべての適切な政策手段をとる」
とする共同声明を発表しました。
またアメリカの中央銀行にあたるFRB・連邦準備制度理事会も、再来週の金融政策決定会合を待たずに、一気に0.5%も政策金利を引き下げると決め、景気の失速を防ぐ姿勢をみせました。
しかし市場の動揺は続き、(3日の)NY市場・ダウ平均株価は前日にくらべて、一時1000ドル近い値下がりを記録しました。

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G7の共同声明が内容に乏しいと受けとめられたことや、FRBとともに協調緩和に動くかもしれないとみられたヨーロッパ中央銀行が今回は具体的な動きを見送ったことに対する失望を受けた形です。

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こうした市場の動揺がおさまらない背景には、先行きの見通しの暗さがあります。
OECDは最新の世界経済見通しで、
▼中国国内で感染拡大のピークを今月中に迎えるという、比較的楽観的な想定でも、ことしの世界全体の経済成長率は去年の2.9%から、2.4%にまで減速すると予想。
好不況の境目とされる3パーセントという数字を、大きく割り込む形です。
日本の成長率は3か月前の予想より0.4ポイント低い0.2%に、中国は0.8ポイント低い4.9%に、見通しが下方修正されました。
▼また、「ドミノ」のように感染が先進各国に拡大し、打撃がさらに深刻になった場合には、世界の成長率は1.5パーセント前後と、去年のおよそ半分にまで落ち込むとしています。日本やユーロ圏はその場合、景気後退に陥る、としています。

では実際、日本および世界経済への影響はどこまで広がるのでしょうか。
まず肝心の日本経済については、ここにきて、アナリストたちから、
「新型コロナウィルスの震源地・中国以上に、影響が心配だ」という声が、相次いでいます。

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▼まずは、訪日観光客の減少による影響です。
中国人旅行者だけで年間135万人、訪日客全体で300万人以上減るという試算もあり、地方経済への打撃も心配です。
▼次に中国での生産停止による影響。
自動車部品、液晶パネル、センサーなどの生産が滞り、日本国内の工場の操業にも支障がでています。
▼さらに輸出も、世界各地に感染が広がっていることから、予想以上の輸出の落ち込みが心配されます。
▼人の行き来にも滞りがでています。
中国をはじめ、各国の水際対策の強化で、日系企業からは「出張もできず、帰国もできない状況に陥っている」といった悲鳴もあがっています。

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▼そして今、最大の問題となってきたのが、消費の冷え込みではないでしょうか。
国内旅行の需要の減少に加え、大規模なイベントの延期・中止や一斉休校で、外食・運輸・宿泊など幅広い業種における影響が予想されます。
大和総研によれば、東日本大震災後の数字を目安に試算すると、2月から5月までの4か月間で3兆8千億円程度、消費が抑制される見通しだということです。
震災のときにくらべ、今回は各地で影響が広がり、消費への影響も、当時の1.5倍近くになるのでは、という分析です。
消費増税や台風の影響で、GDP・国内総生産がマイナス6%以上の落ち込みとなった去年10月から12月までの四半期に続き、2期連続のマイナス成長は避けられない、との見方も出ています。

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一方、世界全体をみても、欧米や中東での感染拡大が広がっていることや、アップルやマイクロソフトといったアメリカ企業がこのところ、売上げ見通しを下方修正していることから、懸念が高まっています。
アメリカの調査会社は、2020年のスマートフォンの世界出荷台数がプラス予想から一転、前年割れになるとしています。
また、IATA・国際航空運送協会は、ことしのアジア太平洋地域の旅客需要は13パーセント減り、航空会社は日本円にして3兆円以上の損失を被ることになるだろうということです。「コロナ不況」があらゆる形で、世界経済の体力を奪っていくと、みられています。

では今後、日本そして各国は、どうこの「危機」に対応していけばよいのでしょうか?

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まずは各国が連携・協調して対応にあたることが重要だと思います。
12年前のリーマンショック・世界的な金融危機の際は、各国が足並みを揃えて協調利下げを行うなど、金融それに財政の両面で世界経済を支える姿勢を示した結果、市場は落ち着きを取り戻し、その後の回復につなげることができました。

もちろん今回は、状況がかなり違います。新型コロナウィルスの感染を巡る実情が国によって異なること。
マイナス金利政策をとる日本とヨーロッパなどをはじめ各国に、財政面でも金融政策面でも以前ほど、政策の余地が残されていない、という難しい面があります。
また金利の引き下げなど経済政策を実施すれば、新型コロナウィルスの感染拡大を防止できるわけでもなく、いわば援護射撃になるにすぎません。

ただ、先月下旬に開かれたG20の財務相中央銀行総裁会議には、中国のトップが出席せず、国際協調が果たして機能するのか、疑念を抱かせる形となりました。
また昨夜のG7の共同声明についても、先進7か国が協調する「姿勢」を示すことは、できたものの、具体的に各国の連携がどのような形で実行されるかが、問われているといえます。

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さらに、感染拡大防止策と、経済政策を、迅速に、表裏一体で行っていくことも必要です。
新型コロナウィルスの感染拡大を防ぐことを最優先にすれば、国民の生活にも少なからぬダメージが及ぶだけに、重要な政策決定とあわせて、経済面での支援策を打ち出していくことが大切です。
日本政府は近く、2700億円の予備費を活用した緊急対応策をまとめますが、経済活動が縮小する中、資金繰りに困る企業、相次ぐキャンセルに泣く宿泊施設、一斉休校で悲鳴をあげている酪農業者など、待ったなしの支援を必要としている人たちがいます。
感染拡大の見通しや最新状況を把握した上での、適切なタイミングや方法で、過不足なく、経済政策が打ち出されるべきだと考えます。

新型コロナウィルス拡大がいつ収束するかがみえない中、とにかく「走りながら考える」状況が今後も続くことが予想されます。
国民の命も、暮らしも、守るために、いかに機動的な経済政策を打ち出せるかが、問われていると思います。

(櫻井 玲子 解説委員)

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