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「新型コロナウイルス 北海道の『緊急事態宣言』と日本の感染対策に必要なこと」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

「若い世代の人たちが気づかないうちに、感染を広げていると考えられる」。
新型コロナウイルスについて、政府の専門家会議は、こう述べました。国内で新型コロナウイルスの感染が広がる中、北海道知事は2020年2月28日、「緊急事態」を宣言しました。北海道の感染拡大を抑えられるかどうかが、日本全体の対策のカギになりそうです。

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国内では2月下旬、対策がめまぐるしく展開しました。

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政府の専門家会議が「この1~2週間を瀬戸際」と位置付ける「見解」を示し、政府が新型ウイルス対策の「基本方針」発表、大規模なイベントなどの自粛要請、全国一斉の小中学校や高校などの臨時休校要請です。2月28日には、北海道知事が「緊急事態」を宣言し、3月2日、専門家会議が2回目となる「見解」を示しました。

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今回は、その専門家会議の「見解」を踏まえたうえで、
▽北海道の状況の何が緊急事態なのか、
▽全国の感染対策を、どう進めていけばいいのか、
▽今後、日本で対策をする上で何が必要なのか考えます。

下図左は、国内の感染が確認された人の数を都道府県別で示したものです。

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北海道が77人と、全国で突出して多いことがわかります。(人数はいずれも2020年3月2日午後6時時点)
北海道の感染者の状況を居住している地域別に見ると、広い地域に広がっていることがわかります。

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また、北海道で確認された感染者の数を日付別に見てみると、2月18日以降、急増していることが分かります。これが、関係者や専門家の危機感を強めました。そして、鈴木知事は、2月28日、緊急事態を宣言し、週末の外出自粛などを求めました。

なぜ、北海道で急増しているのか。1つの理由として考えられているのが、感染者の集団=「クラスター」の存在です。
北見市の施設では、2月に開かれた展示会で感染が広がり、「クラスター」ができたと考えられています。この会場を訪れた10人の感染が確認されています。

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クラスターは、感染が周囲の人に広がり、感染者の集団ができることです。
対策をしないでいると、クラスターから次のクラスターができ、さらに次と、連鎖が起こり、感染対策が追いつかなくなるおそれがあります。

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北海道で急増しているこの他の理由について、専門家会議は、感染しても症状の軽い若い世代が気づかないうちに感染を広げてしまっていることがあげられるという新たな見解を示しました。北海道などのデータを分析した結果として、こうした人が、感染拡大に重要な役割を果たしてしまっているとしています。

さらに、北海道は中国からの観光客が多いことなどが考えられるとしています。
では、どうすればいいのか。

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クラスターについては、外出やイベントの自粛で人の移動が減れば、連鎖が途切れ、感染の拡大を抑えられると期待されています。若者が広げているということについては、のどの痛みだけといった軽い風邪の症状でも、新型ウイルスに感染していることがあり得るので、外出を控えることが必要だとしています。

全国の感染対策については、どう進めていけばいいのでしょうか。
ひとつはクラスター。

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クラスターは、これまでも東京で屋形船の利用者の間で感染者が見つかったケースなどで指摘されていました。クラスター対策が重要であることを改めて示したのが、2月29日に感染が分かった大阪のライブハウスでコンサートに参加していた人のケースです。同じ会場を訪れていたあわせて4人が感染していたことが確認されています。
クラスターができる要因として、
▽換気が悪く、
▽人が密に集まる空間で、
▽不特定多数が接触する恐れのある場所とされています。
ライブハウスは、まさに、この3つの条件に当てはまります。
厚生労働省は、クラスター対策の専門家を、大阪に派遣して対策を進めることにしています。

ただ、ウイルスの性質がこの対策を難しくしています。

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クラスターがあることが分かるまで、時間がかかる点です。大阪のライブで、クラスターとみられる感染が分かったのが2月29日です。ライブに参加したのは、2月15日。2週間かかっています。新型コロナウイルスは、潜伏期間が、平均で5日から6日、最長2週間ほどあり、加えて、かぜのような症状が1週間ほど続くケースが多いとされています。このため、クラスターが発生する早期に対応することは難しく、それだけ対策も取りにくいと考えられています。
国は、感染が疑われる人の検査を進めて、クラスターを少しでも早く検知することを目指していますが、新型コロナウイルスの性質がそれを難しくしているのです。

では、どうするのか。
クラスターを作らない、つまり集団で感染するリスクを下げる行動をとるということになります。

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その方法を示したのが、厚生労働省が、3月1日に発表した国民に対する呼びかけです。
▽換気が悪く、人が密に集まるようなところに行くことを避けること、
▽イベントの主催者にはクラスター発生のリスクが高い集まりについては、開催の必要性を検討し、開催するときは風通しの悪い空間を作らないこと
などを求めています。
北海道ではもちろん、私たちは、クラスターの連鎖のおそれがなくなったことが見極められるまで、こうした行動を続ける必要があると思います。

今後、日本で感染対策を進めていく中で、何が必要なのでしょうか。

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こちらは、再び2月24日からの動きです。基本方針でイベントの開催について「全国一律に自粛要請は行わない」とした翌日、政府は大規模なスポーツ、文化イベントの自粛を要請し、次の日には、全国の小・中学校、高校、特別支援学校の休校を要請しました。
対策強化のかじをきらなければならないときは、あると思います。
ただ、1日で方向性を変えたり、影響の非常に大きい休校を突然要請したりしたのでは、国民の理解は得られず、また準備も足りず、結局は、効果が上がらないのではないでしょうか。

特に、学校の一斉休校に関しては、医療現場にも影響が出ています。

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子育て世代の医師や看護師が、子どもの面倒を見るために勤務時間を減らす事態になっている例があります。病院にしわ寄せがきて、提供できる医療レベルが下がってしまったのでは、元も子もありません。休校とするのであれば、こうした問題を軽減する措置を示すことが必要で、そうしなければ混乱が大きくなるばかりではないでしょうか。
また、学校を休校にしても「子どもを預ける学童保育で感染が広がるのではないか」と心配する声も聞かれます。こうした施設で集団感染を起さない対策について、必要な指導を行うことが求められると思います。

実は、休校に伴うこうした問題は、「新型インフルエンザ」の発生に備えた対策を検討した際に、議論がなされています。この中では、例えば、医療関係者の子どもについては、預かる施設の確保を関係省庁が連携して検討することを求めています。

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今後、対策を打ち出す際は、こうした議論を参考に、対策の実効性が少しでもあがるよう、そして、国民の不安が広がらないようにするための必要な措置を同時に示すことが大切だと思います。

「この新型コロナウイルスの感染対策は、難しい」、感染症の専門家は、こう話しています。
今後、私たちは生活・仕事など、さまざまに我慢、協力をしなければならない場面が出てくると思います。そのためには、国が国民の知りたい情報、正確な情報を適切なタイミングで提供しなければなりません。
その上で、国と自治体、医療機関、そして国民が連携して、この感染症に立ち向かう態勢を作ることが、いま求められていると思います。

(中村 幸司 解説委員)

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