NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「新型コロナウィルス 中国から日本へ 経済への打撃」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

未知のウィルスによる感染拡大が、中国のみならず日本の経済にも深刻な影響をもたらそうとしています。この問題をとりあげます。

j200214_01.jpg

j200214_02.jpg

解説のポイントは三つです。
1)中国経済にはダブルパンチ
2)大量失業で大型経済対策か 
3)日本経済“悪い時に悪い事が”

まず中国での企業の活動をめぐる動きについてみていきます。

j200214_04.jpg

中国では先月24日から一週間、日本でのお正月にあたる春節の連休となっており、それを前に数億人ものひとが、故郷に里帰りしていました。

j200214_06.jpg

しかしその後、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、上海や広州などの主要都市や20を超える省などが、連休を延長し、業再開を2月10日以降までひかえるよう求めていました。大勢の人が再び移動する時期を遅らせることで、感染の拡大を食い止めようとしたのです。

j200214_08.jpg

そして今週月曜から多くの地域で企業活動が再開されましたが、交通機関が止められていて従業員が戻ってこられなかったり、戻った人に当面自宅で待機するよう求めている地域もあり、本格的な活動再開には程遠い状況です。

さらに感染の拡大は、消費にも打撃を与えています。
人々は感染をおそれて出歩くことが少なくなり、小売りや飲食店から、旅行や映画館などのサービス産業で売り上げが落ち込んでいます。中国の民間のシンクタンクは、こうした損失は春節の期間中だけでも、1兆人民元以上、日本円にしておよそ16兆円を超えると試算。さらに影響は建設や金融まで幅広い範囲に及ぶといいます。

j200214_10.jpg

その一方で中国は、アメリカとの貿易摩擦を抱えています。米中協議の第一段階の合意を受けてきょうから中国製品に対する関税の一部が引き下げられたものの、まだ多くの製品に関税が上乗せされたままで、輸出企業に不利に働いていることに変わりはありません。これに加えて新型コロナウィルスの感染拡大で、中国経済はいわばダブルパンチを受けているのです。

では中国経済への影響の大きさは全体としてどの程度のものとなるでしょうか。

j200214_11.jpg

中国の民間のシンクタンクは今年1月から3月までの成長率について、去年一年間の6点1%から大幅に落ち込み4%程度にとどまるという見方を示しています。影響は、感染の拡大が長引けば長引くほど深刻化していくとみられますが、私が懸念しているのは、製造業が集積し中国の輸出基地となっている沿海部の、とりわけ中小企業への影響です。

j200214_13.jpg

もともと中国の中小企業は、過剰な投資や不良債権の拡大を抑制しようという政府の政策の影響で、金融機関から必要な資金を借りにくい状況となっていました。そのうえ米中摩擦の影響で、とりわけ沿海部の製造業は輸出の減少でダメージを受けています。さらに、沿海部の地域は、感染拡大が最も深刻な湖北省から働きに来ている人が多く、人手が確保できずに生産がままならない状況が続くことが予想されます。いわば三重苦の状況と言え、資金繰りが悪化して経営破たんに追い込まれるおそれが強まっています。こうしたなかで中国の中央銀行に当たる中国人民銀行は、今月3日、金融市場に日本円で18兆円あまりを投入する措置をとりました。銀行が貸し出しに回せる資金を増やすことで、製造業や観光関連産業など苦境におちいった企業の資金繰りを助ける狙いです。しかし感染拡大が長引けば、こうした支援策でも支えきれず、失業者が大量に生まれるおそれは消えていません。

そこでポイントとなるのは、中国政府が、落ち込む経済をテコ入れするために、何か強力な対策を打ち出すかどうかです。

j200214_14.jpg

中国政府は過去の大規模な経済対策が、過剰な投資につながるなど経済を非効率なものにしてきたという反省から、最近では、景気を無理やり押し上げるための巨額の財政出動はしないという方針を徹底してきました。ただ今回の問題をめぐって国民からは、当局の初動対策の遅れがここまで大規模な感染拡大を招いたという非難の声が上がっています。このうえ、景気が大きく落ち込み大量の失業者がでることになれば、習指導部に対する批判が一段と強まることも考えられます。このためいずれ大規模な経済対策をとらざるをないという見方もでており、今後の中国政府の対応が注目されます。

3)日本経済“悪い時に悪い事が”

j200214_15.jpg

次に日本経済への影響についてみていきます。大きく言って3つあります。
一つは中国国内の生産や消費の停滞によるものです。日本企業も自動車メーカーなどが工場の操業を17日以降へ延期することを余儀なくされ、収益への影響が懸念されています。さらに中国の消費の落ち込みは日本からの輸出の減少にもつながります。
二つ目は中国での部品工場の操業停止で日本での生産に支障をきたすことです。日産自動車の九州にある工場は、中国からの部品調達が滞っているとして一時的な生産停止に追い込まれてしまいました。
三つめは中国人観光客が減少することによる国内消費への影響です。去年日本を訪れた中国人旅行客は外国人旅行客全体の3分の1近くを占めていました。それが3月までの間に団体旅行だけで40万人がキャンセルする可能性があり、宿泊や飲食などサービス産業が深刻な打撃を受けることになります。大和総研ではこうした影響について、感染拡大が3か月で収まったとしても日本のGDP・国内総生産の伸び率を0点2%程度、1年続いた場合には、0点9%程度押し下げるという見通しを示しています。

ここで私が指摘しておきたいのは、今回の問題が日本を襲ったタイミングの悪さ、いうなれば悪い時に悪い事が重なってしまった点です。
日本では去年10月に消費税率が引き上げられ、ただでさえその影響が懸念されています。来週月曜日には、去年10月から12月までの経済成長率が発表されますが、民間の調査会社の間では、個人消費の落ち込みから年率でマイナス3点5%からマイナス4点4%と、大幅なマイナス成長に転落するという予測が大勢です。政府は、消費税引き上げの影響は6年前の前回に比べて小さいとしていますが、気になるデータもあります。例えばこのグラフをごらんください。

j200214_16.jpg

これは消費税引き上げ前後のスーパーの売上高の推移をある時点を100とした数字で示したものです。引き上げ3か月前からの推移をみると、確かに前回に比べて駆け込み需要の大きさもその反動も緩やかなものになっています。

j200214_17.jpg

しかし1年さかのぼってみてみると、そもそも消費自体の勢いが大幅に衰えていたことがうかがえます。経済界からは「日本の景気の基調の低迷が起き始めたのではないか」という警戒感も強まっています。

j200214_18.jpg

さらにタイミングが悪いのは、春闘がまさにこれから本番を迎えようとしていることです。企業は比較的高い水準の利益を維持しているものの、未知のウィルスによる感染の拡大がいつまで続くのか、どこまでひろがるのかわからないという不透明感を理由に、賃上げに及び腰になる企業がでてくることも考えられます。賃金が上がらなければ消費を押し上げることも期待できません。そのうえ中国人旅行者によるインバウンド需要にも多くを望めないとなれば消費の低迷につながるおそれも考えられます。

GDPの規模で世界第二の存在となり、日本経済と深く結びつく中国。その経済活動の停滞はあらゆる面で日本に大きな影響をもたらすことになります。感染の拡大に加えて、経済的な影響についても最大限の警戒心をもってみてゆく必要がありそうです。

(神子田 章博 解説委員)

キーワード

関連記事