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「新型コロナウイルス『市中感染』にどう備える」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

日本での感染拡大は、抑えられるのでしょうか。
新型コロナウイルスに感染した神奈川県の80代の女性が2020年2月13日、死亡しました。新型コロナウイルスの感染者が国内で死亡したのは、初めてです。
新型ウイルスの感染者は、中国ではおよそ6万人に上っています。(以下、数字は2月13日現在) WHO=世界保健機関は2月12日、「この大流行はまだ広がる恐れがある」と述べ、引き続き警戒が必要だという認識を示しました。
日本では、クルーズ船の乗客らへの対応が進められていますが、同時に、国内の街中で感染が拡大する、いわゆる市中感染が起きた場合に備えて、先回りした対策を進める重要な時期にあると思います。
今回は、新型コロナウイルスの市中感染に、日本がどう備えたらいいのか考えます。

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まず、現状についてみてみます。中国では感染者がおよそ6万人で、1367人が死亡しました。一方、それ以外では27の国と地域で500人以上が感染し、日本人1人を含めて3人が死亡しました。

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下の図は、日本で報告された感染者の日付別の人数です。特に1月24日以降は、毎日のように報告されています。

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このうち、青の部分はクルーズ船の乗客・乗員と検疫の担当者が感染した数です。クルーズ船については、船の限られた空間で大勢が過ごすことから、飛沫感染や手すりなどを通じた接触感染が起きやすく、集団感染したものと指摘されています。

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一方でクルーズ船の関連とチャーター便で日本に来た人を除いた人、つまり中国からの観光客、あるいは観光客から感染した人などの事例は、2月5日のあと13日の4人まで、この間、感染者の報告はありませんでした。
この理由については、中国が武漢を封鎖したり、団体旅行を中止したりした対策による一定の効果だとの見方があります。

ここで、感染の段階を整理してみます。

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新型ウイルスは、動物に感染していたウイルスがヒトに感染するようになったとみられています。ヒトから家族など限られた人に感染していた段階。ヒトからヒトに感染するものの、誰から移ったのかルートを追える段階。そして誰からうつったのかルートを追えなくなる「市中感染」という段階です。
中国は武漢のある湖北省で、この市中感染になっているとみられています。

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日本では、ヒトからヒトへの感染が報告されていましたが、感染のルートが概ね追えていると考えられてきました。ただ、死亡した女性など、現段階で感染のルートがはっきりと追えない人がいます。
さらに、新型ウイルスは感染しても80%ほどは症状が軽く、医療機関にかからない感染者が他にもいるかもしれません。日本も一部の地域では「市中感染に近い状態」、あるいは「市中感染が起きている」と考えた方が良い段階に入ったと言えると思います。

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いずれにしても日本は、市中感染を前提に備える必要があると思います。

では、どう備えるのか。
それは、ハイリスクの人、つまり感染して重症になりやすいとされる高齢者や持病のある人を、いかに守るかということだと思います。

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一つは、高齢者施設です。
▽十分な休養や手洗いの徹底、マスクの着用といった一般的な予防策と併せて、施設の中にウイルスが持ち込まれないよう、
▽面会の人数や時間の制限を行う、
▽施設の職員もウイルスを持ち込まないよう健康管理が重要です。
さらに、
▽お年寄りが体調を崩したときにどのように対応するか、日ごろ連携している専門家と確認することが求められます。

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同じようにハイリスクの人が多いのが医療施設です。「SARS」や「MERS」では、院内感染が問題になりました。患者の診察をする病院では、マスクや手袋はもちろん、目を覆うゴーグルや防護服を使うなど医療関係者が感染しない対策とともに、患者を個室に入れて、飛沫や接触による感染が起きないようにするなど徹底した感染対策が必要です。

新型コロナウイルスの市中感染に向けた備えを進めるために、どういったことが必要なのか。

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私は、今後、日本で感染が拡大した時、国がどのようなことを行うのか、国民にはどのようなことが求められるのか、これを「行動計画」と言いますが、この行動計画をあらかじめ示しておくことが必要だと思います。

実は国は、参考になる「行動計画」をすでに作っています。新型コロナウイルスではなく、新型インフルエンザの感染拡大を想定した行動計画です。

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ここには「国内発生早期」、それと「国内感染期」、これは市中感染にあたる時期で、その時々に、国や自治体、医療機関、国民がとる行動が示されています。
例えば、国は早期は、感染者全員を把握しますが、感染期では患者が非常に多くなるため、感染者全員ではなく、死者や重症者の実態把握にうつります。
水際対策を強化して、発生国からの飛行機や船の入る空港や港を限定することもあります。
医療機関は、感染早期では指定医療機関で診察し、感染が分かれば入院させます。感染期では一般の医療機関でも診療を行い、重症の人は入院し、軽症の人は在宅つまり自宅療養してもらうようにします。国民の生活に関連しては、早期・感染期を問わず、手洗いやせきエチケットが推奨されます。
この他、不要不急の外出やコンサートなど人が集まるイベントの自粛を要請されたり、買い占めなどをせずに生活物資の価格の安定を図ることが求められたりします。
この行動計画は、世界的な大流行をする新型インフルエンザを想定していますので、そのまま適用することはできませんが、参考になる部分が多くあります。

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国内発生早期は、新型コロナウイルスでは「今」の状況にあたります。緑で囲った部分は、すでに今回、新型コロナウイルスで実施されています。

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生活物資ついては、書かれていますが、マスクの不足にみられるように対応が遅れた点もあります。
新型コロナウイルスで、今後、患者が大幅に増える市中感染になれば、医療機関の能力を越えないよう、軽症の人は在宅で療養してもらうということが必要だと感染症の専門家は指摘しています。そうであれば、こうしたことをあらかじめ広く呼びかけておく必要があると思います。
新型コロナウイルスは、感染がどこまで広がるのかなど詳しいことはわかっていませんので、詳細な行動計画を作ることは難しいと思います。
しかし、国内で市中感染が進み、患者が大幅に増えた場合を想定して、国は、国民や医療機関、自治体にどのようなことを求める可能性があるのかを示しておくこと、つまり新型コロナウイルス版の行動計画の「青写真」のようなものを示すことが必要だと思います。

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そうすれば、あらかじめ準備や心構えもでき、感染が広がっても混乱を小さく抑え、国内の医療態勢を有効に使うことにつながると思います。

中国では、経済活動が徐々に再開し始めています。今後、日本国内の感染者が再び増えてくることも考えておく必要があります。国内で初めて感染者の死亡が確認され、さらに市中感染が疑われるケースが出てきたことで、対策を次の段階に進めることの必要性も高まっています。
国民はじめ、国や医療機関、自治体などあらゆる関係機関が、今後の対策強化に対応できるよう態勢づくりを進めなければなりません。

(中村 幸司 解説委員)

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