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「『世界的リスク』新型肺炎 感染拡大を防ぐために」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

感染の拡大を防ぐために、何が必要なのでしょうか。
中国・武漢を中心に患者が広がっている新型コロナウイルスによる肺炎は、2020年1月27日現在、患者が2700人を超えました。中国では81人が死亡しました。日本でも中国からの観光客など4人の感染が見つかっています。WHO=世界保健機関は、「世界的に大きなリスクである」と警戒しています。

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解説のポイントです。

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▽ここ数日で急増した新型ウイルス肺炎の感染の状況を見た上で、
▽中国や日本などで進められている感染対策の現状、
▽感染拡大を抑えるために、いま必要なことを考えます。

まず、感染の状況を見てみます。下の図は、1月27日現在の感染の広がりを示したものです。

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感染者は、中国でも武漢を中心に広がり、中国本土では感染者は2700人あまりにのぼっています。さらに、日本、タイ、アメリカなど13の国と地域に広がり、感染者は59人で、多くが武漢から訪れた人です。死亡した人は、中国で81人になります。
日本では、中国からの観光客など、武漢に滞在歴のある4人の感染が確認されています。
中国本土の感染者の数の累計は、今月20日ころから急増しています。

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武漢の市場で売られていた野生の動物が、ウイルスに感染していて、その動物からヒトに感染、ヒトからヒトへ感染、その感染者の一部が世界各国でみつかっているものとみられています。
感染の拡大を地域で見ると、大きく「武漢」「中国国内」そして「世界各国」と3つの段階が考えられます。当初は武漢中心でしたが、その後、武漢のある湖北省、さらに広東省や北京などにも広がっていて、地域は中国国内の段階へと移りつつあるように見えます。
世界各国ではヒトからヒトへの感染は、ベトナムで親子の間で感染した例はありましたが、現状は、世界の国々で広がっている段階ではないとみられます。
感染を、中国の中の一定の地域に封じ込められるのか、あるいは、このまま中国の広い範囲、さらには世界各国へと広がるのか、その重要な局面にあると思います。
中国が旧正月の春節に合わせた連休に入ったことで、この感染の段階が進んでしまうのではないかと心配されています。

そうした中、感染を抑える対策は、どのように進められているのでしょうか。

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中国は、武漢で現地を離れる航空機や鉄道の運行を当面停止するなど、人口1000万人を超える武漢を事実上の「封鎖状態」にしました。また、中国の旅行会社は、海外への団体旅行を中止することになりました。
しかし、異例の措置であるだけに、どこまで感染拡大を抑えられるのか、その状況を注意深く見ていく必要があります。

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一方、日本の対策はどうでしょうか。
水際対策です。空港や港では、入国する際に、サーモグラフィーで熱がないかチェックしています。しかし、これまで日本で感染が確認された4人は水際を通り抜けていました。
水際対策は、そもそも感染者の入国を完全に止めることはできません。
新型コロナウイルスには、潜伏期間が10日ほど、長いと14日程度とされています。この間であれば、感染していても熱などの症状もなく、本人も気づかないまま入国することになるからです。

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ただ、水際対策の狙いは、健康状態に異常がある人を見つけるだけではありません。
入国の後、体調に異常が起きたときの対応方法を知ってもらい、感染を広げない適切な行動をとってもらうことにあるのです。日本は、中国から日本に到着するすべての航空便やクルーズ船の乗客に「健康カード」を配布しています。
▽入国後14日間は毎日、体温を測るなど健康状態をチェックし、
▽37.5度以上の発熱やせきなどの症状があれば、保健所などに相談。さらに、医療機関側が受け入れ態勢を整えられるよう、必ず事前に病院に連絡して、マスクをして受診する、こうしたことを求めています。
さらに、国は、全国の医療機関に対し、診察のときは特殊なマスクを使うなど、感染の疑いのある人への対応方法を示しています。

新型ウイルス肺炎について、国は同じコロナウイルスのSARSやMERSのときと同様に、「指定感染症」にする方針です。指定感染症になると、感染が確認された人に対して、入院を勧告するなどの法律に基づいた強制的な措置が可能になり、対策しやすくなります。
ただ、対策の徹底には入国する人の協力が不可欠で、これは日本に限らず、世界各国で必要になっています。
一般の私たちができる予防策としては、咳エチケットや手洗い、マスクといったこの時期のインフルエンザ対策が勧められています。

感染拡大を抑えるために、今求められること。

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それは、
▽感染源の動物が何なのか
▽ヒトからヒトへの感染がどの程度起きているのか
という点の解明です。

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このうち、感染源がわかれば、その動物に近づかないことで、動物からヒトへうつる段階で感染を抑えることができます。感染源は、武漢の市場で売られていた野生の動物の中にいるのではないかと指摘されています。
ただ、SARSのときには、ウイルスを持った動物がなかなか見つからず、感染源特定に長い期間がかかったということで、中国当局の徹底した調査が必要です。
ヒトからヒトへの感染については、家族など一緒に生活する時間の長い人、あるいは治療にあたった医療関係者など、いわゆる「濃厚接触者」にとどまっているとする見方があります。
一方で、専門家の中からは、感染の広がり方を見ると、ヒトからヒトさらにヒトへといった感染が起きているのではないかという指摘も聞かれます。
さらに、SARSやMERSでは、特定の1人の患者が大勢にうつしてしまうことがあり、感染が広がってしまいました。なぜこのような人がいるのか詳しいことはわかっていませんが、特別に感染を広げる人、「スーパー・スプレッダー」と呼ばれています。新型ウイルス肺炎では、これまでのところ確認されていませんが、本当にいないのか。SARSやMERSで感染を広げてしまった経験を考えると、こうした患者がいることを前提に対応することも必要だと専門家は話しています。

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このように、ヒトからヒトへの感染が繰り返し起きていると、感染対策の範囲を濃厚接触者以外にも広げるなどの強化が必要になります。

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いま必要なこと。それは、感染が起こったとき重症の患者、あるいは死亡する人を出さないようにすることです。
新型ウイルス肺炎で、死亡した人については、糖尿病などの持病のある人や60歳以上の高齢者が多いことが報告されています。病院は、こうした人が多いため、新型ウイルスの院内感染が起きると、患者の重症化や死亡につながりやすいのです。

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SARSやMERSの際も、院内感染で死亡した例が多くありました。専門家は、院内感染対策に万全を期す必要があると指摘しています。

今後、感染がどこまで広がるかわかりません。それだけに、感染を抑えられなかったときを見据えて、各国、そして医療機関が、対策強化の準備を進め、私たち一人一人も対策に必要な心構えを持つことが必要になっています。

(中村 幸司 解説委員)       

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