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「伊方原発再び停止へ 高裁決定の意味」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

愛媛県にある四国電力伊方原発3号機について、広島高等裁判所は「活断層や火山噴火の影響を否定できず原子力規制委員会の判断は誤りだ」と指摘し、運転を認めた地裁の決定を取り消し、運転停止を命じる仮処分を、先週、決定。
3号機は当面運転できない見通しで、四国電力は来週にも異議申し立てをする方針。
司法が伊方原発に運転停止を命じるのはこれで2回目、原発を重要電源と位置づける国のエネルギー政策にも大きな影響。
高裁の決定のポイントやわれる司法判断、さらに原子力政策にどんな影響があるのか。水野倫之解説委員の解説。

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まず今回の決定に電力業界は大きな衝撃。

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四国電力は「世界最高の基準をクリアしている。到底承服できない。」と強い不満を表明。
3号機は定期検査終了後の4月以降も運転再開は困難で、その分火力発電で補うと1か月あたり35億円のコストがかかることが不満の理由。
決定取り消しを求めて、来週にも広島高裁に異議申し立てをする方針。

また電気事業連合会の勝野会長も「安定供給や温暖化へ原子力の役割は大きいだけに極めて残念」とコメント。
福島の事故後、大手電力はどこも1基あたり数千億円の多額の投資をして再稼働を進めてきたが、司法によって停止に追い込まれる経営上のリスクが原発にまだあることを再認識させられたわけで、業界全体が大きな衝撃。

その衝撃を与えた今回の仮処分の争点は二つ。

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一つ目は四国から近畿にかけて伸びる断層帯「中央構造線」が引き起こす地震。
四国電力は音波探査などの結果、中央構造線は原発から8キロ離れており影響はないと結論づけ、規制委員会もこれを認めた。
これに対して広島高裁は敷地から2㌔に活断層が否定出来ないと判断。四国電力の調査は十分ではなく、規制委員会の判断にも誤りや欠落があったと指摘。

2つ目の争点は原発から130キロの熊本県の阿蘇山の噴火の影響。
噴火で火砕流に襲われたり火山灰で冷却装置が目詰まりすれば事故にいたるおそれ。
阿蘇山は過去に壊滅的被害をもたらす巨大噴火を起こしているが、広島高裁はその可能性は低いとしながらも、その一歩手前の噴火による火山灰は四国電力の見込みの最大5倍に上り、想定が過小で、規制委員会の判断も不合理だと指摘。3号機の運転停止を命じたわけ。

でも原発の運転を認めるかどうかについて司法の判断はわれている。
福島の事故以降の主な司法判断30件のうち、運転停止を命じたのは5件。

このうち伊方原発については最も多い9件の判断が示され、今回含めいずれも広島高裁が2回、運転を認めない判断。

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2017年3月には広島地裁が、「地震のリスクは多角的に検討され、巨大噴火が発生する根拠も示されたといえない」として運転を認めた。
これに対して広島高裁は、「巨大噴火による火砕流が到達する可能性が小さいとは言えない」として運転停止を命じた。
仮処分の場合はすぐに最高裁に行くのではなく、異議申し立てをすると高裁の別の裁判長がもう一度審理する仕組み。
そしてその異議審で広島高裁の別の裁判長は、「巨大噴火は原発の安全性には問題ないとするのが社会通念だ」として、運転停止を取り消していた。
そしてさらに今回、別の仮処分で広島高裁が地震と火山噴火の影響を根拠に、運転停止を命じたわけ。

判断がわれるのは福島の事故を受け、原発のリスクをどこまで容認するのか、裁判官の考え方の違いがあるということではないか。

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これまでに運転を認めた判断の多くは、「社会通念上リスクが無視できるほど小さければ再稼働は認められる」という考え方。

これに対して今回広島高裁が決定の中で、「福島のような事故は絶対起こさないという高度な安全性を要求する理念は尊重すべき」と述べているように、運転を認めない判断は「重大事故のリスクが少しでもあれば再稼働は認められない」とする考え方。
福島の被害を見て、「司法も積極的に判断しなければならない」と感じている裁判官が、一定割合はいるということ。

つまり司法の判断は今後もわれる可能性は十分あるわけで、原発再稼働や原子力政策にも大きな影響。

でも審査を担当する規制委員会は当初、「当事者ではなくコメントは差し控える」と。

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ただ更田委員長が今週会見で自らの考えを述べ、「裁判所が指摘した地盤のデータも議論しており、耐震性に影響はない」。また噴火についても「想定超える火山灰が降っても非常用冷却装置で冷却でき過小評価とは思わない」と。
決定に対する自らの考えを示した点は評価。
ただ、高裁の決定で安全性に不安を感じる住民もいる。
地盤に関して具体的にどんな議論をしたのかや、新基準の考え方を示した規定を見直す必要はないのかなど、決定に対する見解を、一般にもわかりやすく丁寧に説明していく必要。

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また政府は、梶山経済産業大臣が会見で、「当事者でなくコメントは差し控える。独立した規制委が世界で最も厳しいレベルの新基準に適合すると判断した原発の再稼働を進める方針に変わりはない」と述べるにとどまっている。

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政府は2030年にCO2を26%削減する目標。その実現に向けてCO2を出さず、24時間安定して運転出来る原発を重要電源と位置付け、2030年に全電源に占める原発の割合を20%から22%に高めて、その分CO2を多く出す火力の割合を引き下げる目標。
この目標達成のためには、30基以上再稼働させる必要。しかしこれまで再稼働できたのは9基。それに加えて今回原発には司法判断一つで運転が止まるリスクがあることを、政府はあらためて思い知らされたわけ。もはや原発は安定電源とは言いきれないわけで、目標達成は困難になりつつあるのでは。
政府はこのまま原発に頼る今の計画を変える必要はないのかどうか考え方を示していかなければならない。

(水野 倫之 解説委員)


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