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「阪神・淡路大震災25年 密集市街地 解消は進んだか」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

阪神・淡路大震災からきょうで25年になりました。6400人を超える人の命を奪った震災は、建物の耐震化と密集市街地の火災対策という重い課題を残しました。国はその後、密集市街地の解消に取り組んできましたが、思うようには進んでおらず、掲げた目標の達成も難しい状況になっています。

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【インデックス】
▼密集市街地の現状と
▼解消が進まない理由を見たうえで
▼地震火災を防ぐために必要なことを考えます。

【危険な密集市街地の現状】
阪神・淡路大震災では神戸市長田区など複数の場所から火が出て燃え広がり、83ヘクタール、7000棟以上が焼失しました。地震火災に対する密集市街地の弱さをまざまざと見せつけられることになりました。

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国は震災後、対策を進めてきましたが解消が進まないため、8年前に、危険な密集市街地の中でも特に危ない地域を「地震時等(とう)に著しく危険な密集市街地」として公表しました。
▼燃えやすい建物の割合と▼避難の難しさを示す数値が一定以上の地域で、17都府県の5,700ヘクタールあまりが指定されました。国は「9年後、つまり来年3月までに概ね解消する」という目標を掲げましたが解消されたのは45パーセントにとどまり、達成は困難な状況です。

【なぜ進まないのか】
解消はなぜ進まないのでしょうか。

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全国で最も多くの密集市街地を抱えているのは大阪府で、2,200クタールあまりのうち解消したのは16パーセントにとどまっています。

このうち大阪市生野区の南部地区を取材しました。

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生野区南部の指定区域はおよそ100ヘクタールあって古い木造住宅が密集しています。戦前に建てられた家も多く残っていて、接する道が狭いため今の法律では建替えができない場所が少なくありません。すぐ近くに活断層があって、ずれ動けば震度6強の揺れが襲うと想定されています。
「危険な密集市街地」に指定される以前から大阪市によって整備事業が続けられていて、買収が終わった空き地があちこちに見られています。

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事業の柱は3つあって、
▼まず地区内に3本の広い道路を通し、火災が燃え広がらないようにします。
▼住宅の撤去に補助を出すほか、特に密集した地区の土地は市が買い上げて公園や避難路などを整備します。
▼そして立ち退いた人のための集合住宅を建設するというものです。

着手から26年がたって用地買収は山を越えましたが、完成した集合住宅は計画の45パーセント、道路は21パーセントにとどまっています。これまでの事業費は320億円あまりにのぼっています。

整備に時間がかかっているのは

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▼土地の所有者と建物の所有者、住人が異なるなど権利関係が複雑で全員の同意を得るのが難しいこと
▼相続でさらに多くの人の同意が必要になるケースもあること
▼また立ち退きに応じない人も、その場所で長年事業を営んでいてほかに移って事業を続けることが難しいなど、それぞれ事情を抱えています。

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地元の連合町会の鬼頭正裕会長は「地区にはまだ燃えやすい建物が数多く連なっていて火災の延焼がとても怖い。一日も早く事業を完成させてほしい」と話し、

大阪市の現場事務所の大西崇浩所長は「ひとりひとりの声を大切にしながら進めているが用地買収に時間がかかり難しさを感じている。完成したときに『いい町になった』と言ってもらえるよう事業を加速したい」と話しています。

【加速した東京のケース】
このように全国的に時間がかかっている中で、解消が大きく進んだのが東京都です。

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1,700ヘクタール近くが指定されていましたが、7年で8割が解消しました。

解消が進んだのは3つの理由があります。
▼まず東京都は「不燃化特区」を定めて助成や税の減免で建替えや撤去を促進する一方、防火の基準を厳しくしました。
▼その効果もあって住民自身による古い住宅の建替えがほかの地域よりは進みました。
▼また民間業者によるマンションなどの開発がさかんになり、古い住宅地の更新が進みました。

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行政による支援で民間業者を呼び込んだのが品川区での再開発事業です。
この地区は0.7ヘクタールの土地に大正時代に建てられたものなどおよそ80棟の老朽木造住宅が立ち並んでいました。

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まず住宅の撤去費用は区が負担し、住民は仮住まいをします。跡地に民間業者が13階建て、195戸のマンションを建設しました。住民は土地の替わりに部屋を所有し、残った部屋は一般に販売して建設費用にあてました。総事業費97億円のうち38億円余りは国と都、区からの助成金が充てられました。

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これによって周辺の道も広くなり、地区全体で燃えやすい建物の割合などが改善しました。

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帰宅困難者を受け入れるスペースや井戸、仮設トイレの設備なども備え、災害時の拠点としての機能も持っています。

税金による手厚い助成と新たな購入者が見込める立地条件があって成立する事業ですが、東京をはじめ大阪、兵庫、沖縄の16カ所で同様の事業が実施され、密集市街地の解消につながっています。

【地震火災を防ぐために】
大地震での密集市街地での火災を防ぐために何が必要なのでしょうか。

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「著しく危険な密集市街地」の解消が目標に遠く及ばないのはほぼ確実で、国や自治体には対策の見直しが求められます。これまでどれくらいの税金が投入されてどう活かされたのか。どこに問題があったのかを検証して、あらたな戦略を立てる必要があります。東京と地方では事情が異なるため、地域の特性を考慮して老朽住宅の建替えを促したり、民間の力を導入する仕組みの一層の工夫が求められます。

また住民の理解を得るための一層の努力が必要です。町づくり協議会や個別訪問を通じて、地域の危険性を伝え安全な町づくりをいっしょに考えてもらうことが大切でしょう。

さらに「著しく危険な密集市街地」だけでなく、それ以外の火災の危険性の高い密集市街地も全国に広く残っています。解消には時間がかかることから。今できる減災対策を進める必要があります。

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地震火災の原因は停電が起きて電気が回復したときに起るなどの「電気火災」が多いことがわかっています。阪神・淡路大震災では原因がわかった火災の6割、東日本大震災では7割を占めています。
このため揺れを感知すると電気を遮断して、通電再開時の火災発生を防ぐ「感震ブレーカー」が有効と考えられていて、多くの自治体が普及に取り組んでいます。
大阪府は感震ブレーカー設置への補助制度を設けて普及を図っていて、「著しく危険な密集市街地」にある町内会で2000ある全世帯への設置を進めているところもあります。また紹介した整備事業に時間がかかっている大阪市生野区南部では住民が消火訓練を重ねるなど自衛の努力を続けています。

【まとめ】
国の想定は首都直下地震が起これば最悪41万棟が、南海トラフ地震では75万棟が焼失するとする一方、対策によって被害を大幅に小さくできるとしています。阪神・淡路大震災のような被害を繰り返さないためには、対策事業が長期化しているところでは漫然と継続するのではなく、進め方を点検して加速化を図ること、同時に今できる対策を着実に進めることが行政にも住民にも求められています。

(松本 浩司 解説委員)

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