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「新型ウイルス肺炎 感染拡大にどう対応する」(時論公論)

中村 幸司  解説委員

新型のウイルスの感染を広げないために、何が必要なのでしょうか。
中国、湖北省武漢で広がった新型コロナウイルスによるとみられる肺炎では、患者の数は、2020年1月20日現在、200人を超えたと報告されています。
日本でも1月15日に感染者が1人確認されました。これまでのところ、日本ではこの患者以外に感染は広がっていません。
冷静な対応が求められていますが、中国では、1月24日から旧正月の「春節」にあわせた大型連休が始まることから、感染の拡大を心配する声も聞かれます。

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解説のポイントです。

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▽新型ウイルスの肺炎について、どういったことが起きているのか。これまでの感染拡大の経緯を見たうえで、
▽この肺炎の感染力など、わかっていること、
▽今後について、関係機関や専門家が注視する点と感染対策でどのようなことが求められるのか考えます。

まず、感染拡大の経緯を見てみます。

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新型のコロナウイルスによるとみられる肺炎で、患者が中国で最初に見つかったのは、2019年12月8日のことでした。
その後、中国の武漢を中心に、およそ200人が感染しました。このうち、3人が死亡しました。武漢では、44人が重症と報告されています。(1月20日現在)
1月15日には、日本でも武漢から帰ってきた1人の感染が確認されました。

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タイや韓国の感染者は武漢から入国した人で、中国国内の北京などで見つかった人も武漢に滞在していました。こうしたことから、感染は武漢を中心に起きているものとみられています。
日本で見つかった患者は、神奈川県に住む中国籍の30代の男性です。
武漢に滞在中に熱が出たということで、日本に帰ってきた1月6日、いったん医療機関を受診しました。その後、39度の熱を出し、10日に入院、15日の夜になって、新型コロナウイルスの感染が分かりました。
すでに症状は治まって退院しています。これまでのところ、家族など周囲の人に感染は広がっていないということです。

この新型ウイルスについて、感染力などの性質はどこまでわかっているのでしょうか。
今回の肺炎は、新型のコロナウイルスによるとみられています。

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コロナウイルスは、50種類以上報告されています。主に哺乳類や鳥に感染するウイルスが様々に見つかっています。
ヒトに感染するコロナウイルスは6種類です。
▽このうち4種類は、感染しても普段は「かぜ」と診断されています。
▽残る2種類は、重症の肺炎を引き起こすとして、過去に問題になったものです。
ひとつは「SARS」、もうひとつが「MERS」です。

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SARSは、中国南部に生息するコウモリのコロナウイルスが、ハクビシンを介してヒトに感染するようになったものと考えられています。MERSは、中東のヒトコブラクダのコロナウイルスがヒトに感染するようになったとされています。SARSやMERSは、ヒトからヒトに感染して、拡大しました。

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今回のウイルスは、SARS、MERSに続く、新型のコロナウイルスとなります。
今回の感染者は、武漢の市場の利用者や従業員などいった関係者が多いということです。市場は、1月初めに閉鎖されましたが、ここでは野生の動物が売られていたということです。このため、その動物の中に感染源がいる可能性がありますが、まだわかっていません。

今回のウイルスの感染力は、過去の新型コロナウイルスであるSARSやMERSと同様に、比較的低いのではないかと考えられています。

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患者1人からウイルスが何人にうつるかを示す指数を見てみると、
▽はしかが、患者1人から12人ないし18人にうつる、
▽インフルエンザが1人から2~3人とされているのに対して、
▽SARSやMERSは、感染力が低いことを示す「1未満」です。

新型ウイルスについては、ヒトからヒトに感染する場合、その相手はこれまでのところ、一緒に暮らしている家族など、いわゆる「濃厚接触者」とされています。

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感染地域が市場のある武漢が中心と限られていて、ヒトからヒトへの感染が現段階では“限定的”と考えられることから、「過剰に反応する必要はない」とされています。

ただ、まだ情報が少ない段階です。
今後、中国はじめ、関係機関や専門家が注視していかなければならないことが、2点あります。
一つは、ヒトからヒトへの感染が繰り返し起こるようなことにならないのかという点です。

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同じコロナウイルスのSARSやMERSの経験から心配されていることがあります。それは、「特定の感染者1人が大勢にうつしてしまう」という現象でSARSやMERSで起きていたのです。なぜ、このような人がいるのか詳しいことはわかっていませんが、その感染者は特別に感染を広げる人「スーパー・スプレッダー」と呼ばれています。

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2015年に韓国でMERS広がったときは、中東から帰ってきた人がスーパー・スプレッダーで、治療を受けた病院で医療スタッフや患者などに次々と感染を拡大させたと考えられています。
今回の新型ウイルスで、「スーパー・スプレッダー」は確認されていません。

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ヒトからヒトへの感染が濃厚接触者に限られたものなのか、慎重に見極めていく必要があります。

注視する点のもう一つは、まだわかっていない感染源です。

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2002年に確認されたSARSは、翌2003年に感染の終息が宣言されました。これに対して、MERSは継続的に感染が報告されています。
感染源のヒトコブラクダが、中東では身近な動物で、現地でラクダからヒトへの感染を抑えるのが難しいことが理由の一つに挙げられています。

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今回、仮に新型ウイルスの感染源が身近な動物だった場合、感染が終息せず、長く継続することも考えていかなければならなくなります。

こうしたことを踏まえて、今後日本で対策を進めるために、どのようなことが重要になってくるのでしょうか。

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感染地域が武漢中心ですので、
▽武漢を訪れた人、
▽武漢に滞在歴があって熱などの症状がある人と接触した人、
こうした人は、2週間程度は健康状態の変化に注意することが必要です。
そして、37.5度以上の熱が出るなど体調に異常があれば、保健所や医療機関などに連絡して、指示のもと診断を受けるようにしてください。医療機関も受け入れ態勢を整える必要があるので、あらかじめ連絡することが大切です。
この時、「武漢に行っていた」といった情報を必ず告げるなど、感染拡大を抑えるための協力が必要です。

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そして、医療機関側も感染の疑いのある患者を診察する際は、
▽特殊なマスクをするなど感染を抑える装備で対応する、
▽診察や患者を入院させる際は、個室にするなど、
院内感染を防ぐ対策が求められます。

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重症化する人や死亡する人は、SARSやMERSでは多くが持病がある人や高齢者でした。こうした人たちはリスクが高いとされています。
新型ウイルスの患者で中国で死亡した3人のうち、情報がある1人目の患者は肝硬変などの病気がありました。
対策にあたっては、持病のある人や高齢者に感染が広がらないよう重点をおく視点も必要です。
国際化が進む中、今回の新型ウイルスによる肺炎は、海外の感染症が日本に入ってくるリスクが高いことを、あらためて示すものとなりました。
今後、感染源が特定されたり、ヒトからヒトへの感染力が分かったりした場合には、状況に応じて、対策を適切に見直していくことも求められます。
中国当局と日本を含めた感染が報告された国々、WHO=世界保健機関などが情報をリアルタイムで共有し、有効な対策をとっていくことが求められています。

(中村 幸司 解説委員)

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