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「安倍外交、波乱の幕開け~中東、日中、日米は」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員

2020年は、中東情勢の緊迫化で幕を開けました。中東3か国を訪問している安倍総理大臣は、出発をぎりぎりまで見極めるなど、安倍外交にとっても波乱のスタートとなりました。ことしの日本の外交は、国際秩序を維持するためにも、より積極的に主張することを求められる場面が増えそうです。中東地域への対応、日中・日米関係の行方について考えてみたいと思います。

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【イラン情勢】

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1月3日、アメリカは、トランプ大統領の指示で、イランの革命防衛隊のソレイマニ司令官への攻撃を実施し、殺害しました。イランが報復を宣言するに至って、事態は極度に緊迫しました。1月8日、イランは、隣国イラクに駐留するアメリカ軍を狙って16発の弾道ミサイルを発射しましたが、アメリカ人兵士らに死傷者はいませんでした。アメリカメディアによりますと、アメリカは、攻撃の数時間前にイラクを通じて警告を受け取っていたということで、トランプ大統領も反撃を控える考えを示したことから、本格的な軍事衝突に発展する事態は避けられたとの見方が大勢です。
関係者によりますと、一連の状況の中で、日本政府は、アメリカとイランの双方から事態のエスカレートは避けたいとのメッセージを相手側に伝えるよう要請されるなど、一定の役割を果たしました。

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河野防衛大臣は、1月10日、中東地域で、日本に関係する船舶の安全確保に必要な情報を収集するため、自衛隊の派遣を命令しました。野党側は、事態が緊迫し、派遣を閣議決定した時とは状況が変わったとして、取りやめるよう求めています。
こうした状況を受けて、安倍総理大臣は、歴訪しているサウジアラビア、UAE=アラブ首長国連邦、オマーンの中東3か国でも自衛隊派遣の目的を説明し、理解を求めています。
日本は中東地域に原油の大部分を依存し、多くの関係船舶が航行しているだけに、日本政府は、護衛艦や哨戒機による情報収集に努めるとともに、アメリカ軍を中心とする有志連合との情報の共有を図り、日本に関係する船舶の安全を確保したい考えです。
軍事衝突は避けられたものの、日本政府は、今後の情勢を楽観していません。アメリカとイランとの対話はほぼ不可能となり、トランプ大統領が目指していた、イランの核兵器開発をさせない新たな枠組みの構築はより一層難しくなったとみているからです。政府は、アメリカ・イラン両国に自制を求めるとともに、双方から話を聞き、要請があれば、相手側にメッセージを伝える役割を積極的に果たしたいとしています。

【習近平国家主席 訪日】
では、中東以外の外交は、ことし、どう展開されるのでしょうか。

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最大の外交行事の1つとみられるのが、春に予定されている、中国の習近平国家主席の国賓としての訪日です。国賓として招くことには、自民党内を中心に根強い反対があります。
実現すれば、1998年の江沢民主席、2008年の胡錦涛主席に続くもので、この際には、それぞれ政治文書がまとめられ、その後の両国関係を方向づけてきました。今回も、政治文書をとりまとめるかが、焦点の1つとなっています。

安倍総理大臣は、去年(2019年)12月、北京で習主席と会談し、この中で「習主席の国賓としての日本訪問を極めて重視している。『日中新時代』にふさわしい日中関係を築き上げるため準備を進めたい」と述べました。

今回、話し合われる「日中新時代」にふさわしい関係とは、どのようなものなのでしょうか。

日中関係は、2010年に沖縄県の尖閣諸島沖で起きた中国漁船による衝突事件や、2012年に日本政府が尖閣諸島を国有化したことなどをめぐって悪化しました。その後、両政府は、国際会議の機会などを利用して首脳会談を積み重ねたほか、中国への圧力を強めるアメリカをけん制する中国側の狙いもあり、関係は徐々に改善に向かい、両政府は、「関係は正常な軌道に戻った」としています。
こうした中、実現する習主席の訪日では、改善の流れを確かなものとするため、前向きな連携を打ち出したいところです。日本政府は、WTO=世界貿易機関の改革加速や、RCEP=東アジア地域包括的経済連携の早期妥結への協力、日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃などで成果を上げたいとしています。

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ただ、「日中新時代」という言葉に込められた意味は、前向きのものだけではありません。
外務省幹部は、この言葉は、友好さえ唱えていればいい時代は終わり、地域の大国同士として、関係を再定義する意味だと指摘しています。

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これは両国のGDPの推移を表したものです。江沢民主席が来日した1998年には、中国のGDPは日本の26%、胡錦涛主席が来日した2008年は91%でした。しかし、2018年には、中国は、日本の2.7倍ほどに伸びています。
もとより国力は、経済規模だけで測れるものではありませんが、今回、日本は、中国が自信をつける中で、習主席を迎えることになります。関係者によりますと、中国は、政治文書の協議にあたって、中国の優位を前提にしたい意向が垣間見えるなど、強気の姿勢が目立つということです。
日本政府は、会談の中で、中国に、大国として、責任あるふるまいを求めることにしています。
まず念頭にあるのは、中国の海洋進出の動きです。

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これは、沖縄県の尖閣諸島周辺の接続水域で確認された中国公船の数の推移です。第2次安倍内閣が発足した2012年12月以降も、継続的に確認され、その日数も、去年は282日にのぼりました。日本政府は、東シナ海や南シナ海での、力による現状変更のこころみをやめるよう、中国に強く求めることにしています。
さらに、拘束されている日本人の早期帰国を求めるとともに、抗議活動が続く香港情勢や、新疆ウイグル自治区の人権状況について、懸念を伝えることにしています。
安倍総理大臣としては、強固な日米同盟もてこにしながら、日本側の考えを伝え、政治文書をまとめるにしても、中国側の主張に配慮するだけでなく、国際秩序の維持に資するような、新たな両国関係を打ち出したい考えです。

【日米関係の行方】
では、日中関係を築くうえでも、北朝鮮に対応するうえでも、重要な日米関係の見通しは、どうでしょうか。

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ことしは、アメリカで大統領選挙が行われることから、首脳どうしの顔合わせは、アメリカで開かれるG7サミットが主なものとなりそうです。そして、ことしは、在日アメリカ軍の駐留経費の日本側負担の協定交渉が焦点となる見通しです。この交渉は、通常は実務的なものですが、今回は事情が異なります。
アメリカが大幅な増額を求めてくるという見方が出ていて、トランプ大統領は、去年(2019年)12月、「友人の安倍総理大臣には、『日本はお金持ちの国だから、いっぱいお金を出して助けてくれ』と言っている」と述べています。
日本に先立って行われている、韓国に駐留するアメリカ軍の経費をめぐる米韓の協議は難航しています。その原因について、韓国メディアは、アメリカ側が、新たに韓国への兵員の輸送経費や訓練費も含めて、5倍ともいわれる大幅増額を求めているためだと報じています。
日本は、今年度予算に、駐留関連経費として、4000憶円を超える予算を計上しています。日本の負担割合や支出額は、ほかのアメリカの同盟国と比べても突出して高く、上積みできる余地はほとんどないことから、こうした事情を説明することにしています。さらに、政府内からは、自衛隊の能力を向上させ、地域の安定に一層、取り組んでいく方針を説明し、理解をえるべきだという意見が出ています。交渉が、両国関係にさざ波を起こす事態を避け、むしろ両国の役割について意見を交わし、同盟深化につなげられるかが課題です。

【まとめ】
ペルシャ湾で緊張が続く中、シーレーンの安全をどう確保していくのか。力を背景に主張を強める中国とどう向き合っていくのか。内向きとなるアメリカとの同盟関係をどう維持していくのか。安全保障環境が変化する中、国際秩序を守るためにも、積極的に主張し、働きかけていく外交力が問われることになりそうです。

(梶原 崇幹 解説委員)

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