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「ことしの政局 解散・総選挙は?」(時論公論)

伊藤 雅之  解説委員

令和2年の日本の政治は、安倍総理大臣が衆議院の解散・総選挙に打って出るかどうかが最大の焦点です。何がその判断材料となりうるのか、ことしの政治の流れを展望します。

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衆議院の解散・総選挙について、解散権を持つ安倍総理は、先月の記者会見で、「国民の負託に応えていくうえで、国民の信を問うべき時がきたと考えれば、衆議院の解散・総選挙を断行することに、ちゅうちょはない」と述べました。

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これまで解散について、「頭の片隅にもない」などとしてきた発言からは一変しました。
これは、自民党総裁としての任期が2年を切る中で、解散という強力なカードを温存し、政局の主導権を手放さないと強調する狙いもあるように思います。

解散を考えるうえで、重要なのは具体的に何を国民に問うのかですが、ことしの政治日程を見るとタイミングは絞られてきます。

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政界では、3つのタイミング、通常国会の冒頭、4月後半以降、そして東京オリンピック・パラリンピック後の3つが取りざたされています。

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最も早い時期は、今月20日に召集される見通しの通常国会冒頭で、今年度の補正予算案を可決・成立させた後のタイミングです。野党の選挙態勢が整っていないというメリットは、あるでしょう。
ただ、政権にとっては、消費税率を去年引き上げ後だけに、経済の下振れリスクに備えた経済対策を盛り込んだ補正予算案と新年度予算案を早期に可決・成立させることが至上命題です。また、通常国会に向けて、新たな論点が浮上してきています。
去年から引き継がれた形の総理大臣主催の「桜を見る会」をめぐる問題に加えて、IR=統合型リゾート施設に関連した汚職事件。誘致を目指す自治体は、IRを運営する事業者を選定し、整備計画を策定する段階に入ろうとしています。今回の事件を機に、改めて、成長戦略としての必要性、依存症対策や不正を排除する仕組みは妥当かどうかが論点になりそうです。
また、アメリカとイランの間で緊張が高まる中東情勢にどう対応していくのか。日本に関係する船舶の安全確保のための自衛隊の派遣について、派遣の根拠やアメリカ軍との関係、自衛隊員の安全確保などは、昨年末の閣議決定以降、国会で議論されていません。
こうした課題をめぐる議論を行わないまま、衆議院の解散・総選挙に踏み切れば、「政権は説明責任を放棄した」という批判を招きかねないこともあり、政界では、解散が間近という緊迫感は薄れています。

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次のタイミングは、予算を成立させたうえで、秋篠宮さまが、皇位継承順位1位を意味する「皇嗣」になれたことを内外に知らしめる「立皇嗣の礼」を終えた後、7月5日に投票が行われる東京都知事選挙に合わせるというものです。問題は、都知事選挙の構図がはっきりしていないことです。現職の小池知事は、態度を表明していませんが、立候補するというのが大方の見方です。自民党は、二階幹事長が、立候補すれば小池知事を支持する考えを示しているのに対し、自民党東京都連は独自候補を擁立する方針です。また、公明党は、幹部が「都政の継続性」を重視するとして、小池知事支援をにじませています。与党が結束して対応できるのか。また、立憲民主党などが共闘して候補者を擁立できるか、野党側の動向も焦点です。そもそも、この時期は、東京オリンピックが目前。政権にとっては、大会を成功に導くために万全を期すことが重要課題です。各地で聖火リレーが行われている中で、事実上の選挙戦に入ることに理解を得るのは難しいかもしれません。

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こうしたことから、年内に解散・総選挙があるなら有力だという見方が出ているのが、9月初めのパラリンピック閉会以降です。ただ、不安材料は経済です。消費税率引き上げ対策のうち、期限付きのものの多くが終了していきます。米中の貿易摩擦など世界経済の先行きは不透明で、景気が大きく落ち込めば、解散できる環境が整わない可能性もあります。もうひとつ事態を複雑にするのは、この時期の解散になれば、安倍総理の自民党総裁としての任期満了まで、ほぼ1年。自民党総裁の「4選」が絡んでくる可能性があることです。安倍総理は「4選」を否定していますが、麻生副総理や二階幹事長は、「4選」に理解を示しています。「ポスト安倍」候補はどう動くのか、「4選のための解散」という色合いが強まった場合、国民世論が、それをどう受け止めるのか、今の段階では読み切れません

こうしてみてくると、解散を判断するうえで重要なのは、やはり何のために解散するのかという「解散の大義」にあることがわかります。
何がそれにあたるのか、いくつか考えられます。

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一つは、安倍総理が「内閣の最大のチャレンジ」と位置付ける「全世代型社会保障制度」の実現です。政府の検討会議は、ことしの夏に最終報告をとりまとめることにしています。負担と給付の見直しを含め、社会保障制度に対する国民の不安を払拭し、将来の国民の暮らしを大きく変えるところまで踏み込めるのかが、解散のテーマになりうるかどうかを左右することになるでしょう。
もう一つは、外交です。戦後外交の総決算を掲げる政権にとって、北方領土問題を含めたロシアとの平和条約交渉、拉致問題を含めた日朝関係は、国民に信を問うべき課題になりうるでしょう。そのためには、今後、水面下も含め交渉を進展させられるかがポイントになりますが、相手の出方があるだけに難しい面があります。
さらに、安倍総理が「自らの手でかならずや成し遂げたい」と強い意欲を示す「憲法改正」があります。憲法審査会で具体的な改憲案の議論が進まない事態を打開するため、憲法論議を進めることの是非を問うために衆議院を解散するのではないかという見方は根強くあります。しかし、そもそも憲法改正を発議するかどうかは国会が決めるもので、総理大臣が憲法改正を理由に解散するのは筋が違うという批判もあります。また、参議院では、去年の選挙で、与党と憲法改正に前向きな改憲勢力が発議に必要な3分の2の勢力を失い、公明党は、「憲法改正は国民世論で優先順位は高くはない」と慎重な立場ですから、道のりは険しいと言わざるを得ません。

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もうひとつ、解散をにらんで、ことしの政局に大きな影響を与えるのが、野党の立憲民主党と国民民主党などの合流の行方です。両党の幹事長レベルでは合流の方向性を確認していますが、枝野代表が、「政権奪取のため立憲民主党への合流」を呼びかけているのに対し、玉木代表は、「対等な立場で新党」を主張し、温度差があります。政策や理念、人事など、合流によって、どのような日本の将来を描き、それをどのような手順と態勢で実現していくのか、いわば「合流の大義」が問われます。
また、合流が不調に終わった場合、共産党などを含めた野党の国会や選挙での協力関係に乱れはでないか。野党の動向も、安倍総理が解散に踏み切るかどうかの判断に影響するものとみられます。

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では、年内に安倍総理が解散しない場合は、どうなるのか。安倍総理が否定しているように自民党総裁の「4選」がなければ、解散は、次の総裁の手に委ねられるという見方が一般的です。これは安倍総理が、解散・総選挙に政治的なエネルギーを割き、リスクをおかすより、現状の衆参の安定した勢力のもと、任期内で政策の実現に集中すると判断することを意味します。11月のアメリカ大統領選挙の結果によっては、これまでのアメリカへのアプローチの仕方を見直す必要にも迫られることも予想されます。また、来年は、自民党総裁の任期満了から衆議院議員の任期満了まで1か月しかありません。解散を次の総裁に委ねるならば、総裁選挙の時期を前倒しするかどうかなども焦点になるでしょう。

第二次政権の発足から8年目に入ることしの日本政治は、「安倍1強」の政治状況が変化していくかどうか、日本が直面する内外の課題への対応と「ポスト安倍」や野党の動向などが複雑に絡み合って展開していくものと見られます。そして、衆議院の解散・総選挙をにらんでいるだけに、節目節目の国民世論が、その流れを決定づけていくことになりそうです。

(伊藤 雅之 解説委員)

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