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「COP25からパリ協定へ 『排出ゼロ』への道筋は」(時論公論)

土屋 敏之  解説委員

 2020年以降の温暖化対策の枠組み「パリ協定」の本格的なスタートが、いよいよ来年に迫っています。温暖化が影響すると見られる深刻な災害が既に世界的にも相次いでいる中、「気温上昇を産業革命前に比べ2℃より十分低く、1.5℃に抑えることをめざす」とするパリ協定の目標を実現できるのかは、環境問題の枠に留まらず世界の経済や多くの人の命にも関わる問題です。
 そこで、今月開かれたCOP25の結果も踏まえ、2020年からの温暖化対策がどこに向かうのか?「COP25の成果は」「石炭と日本」、そして「“排出ゼロ”への道筋は?」という3つのポイントから考えます。

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 15日までスペインで開かれていた国連の会議COP25。その大きな議題は実施期間を目前に控えたパリ協定の具体的なルールを詰めることでした。しかし、「市場メカニズム」と呼ばれる先進国と途上国が共同で排出削減を行う仕組みなどのルール作りでは、各国の折り合いがつかず、会期を2日も延長したにも関わらず妥結できませんでした。来年のCOP26へ先送りされることになります。
 とは言え、これでパリ協定がスタートできないわけではありません。こうした共同での排出削減に頼らなくても、各国が自ら削減するためのルールは既に出来ているからです。

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 一方でCOP25にはもうひとつ大きな注目点がありました。パリ協定では来年2月までに各国が2030年までの削減目標を更新することが求められており、それに向けて削減の強化をどれだけ明確に打ち出せるかというものでした。
 気温上昇を産業革命前に比べ1.5度までに抑えるためには、2030年には温室効果ガスの排出を45%減らし、2050年までには世界全体で排出を実質ゼロにする必要があると見積もられています。そして、UNEP・国連環境計画はCOP25を前に、現在各国が提出している削減目標が全て達成されても気温は3.2℃上昇してしまうと発表。大幅な削減強化の必要性が示されていました。
 そこで、各国の「削減目標の引き上げ」を成果文書に盛り込むことが提案されましたが、表現の強さを巡って意見が対立。結局、『削減目標は各国の事情に応じて前進』させ『可能な限り高い野心を示す』という曖昧な表現になりました。
 かろうじて対策強化の方向性は合意できたことを評価する声もありますが、各国に「2050年排出ゼロ」に向けた具体的な行動を求めてきた、国連のグテーレス事務総長は「結果にはがっかりした」とツイッターに投稿。「しかし、我々はあきらめてはいけない、私もあきらめない」と続けました。

 このように難航を極めたCOP25で日本の評判は芳しくありませんでした。最大の原因はやはり「石炭」です。
 日本では東日本大震災後、原発の代わりに火力発電が急増し、中でもコストの安い石炭火力は発電量の3割以上を占めます。中東の石油への依存を抑えたいとするエネルギーの安定供給の面からも重視されてきました。

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 しかし、COP25を前にUNEPが日本に対しCO2の排出が多い石炭火力発電所の新設をやめるなど廃止へ向かうよう促していた中で、梶山経済産業大臣が「石炭火力などの選択肢は残したい」と発言し、COP25に出席した小泉環境大臣も「石炭火力に関する新たな政策をこの場で共有することは残念ながらできない」と表明したことで、各国からも「残念だ」とする声が挙がりました。先進国では日本だけが今も石炭火力の新設をハイペースで続けているのに加え途上国への輸出も推進しています。今回、環境省は海外での石炭火力の建設支援に対する規制を模索したものの政府内で調整がつかなかったと言います。
 しかし、石炭火力は「高効率」とされるものでさえ、同じ化石燃料である天然ガスの2倍近いCO2を出します。このままでは到底「排出ゼロ」にはできません。建設すれば何十年も使われる石炭火力発電所を途上国に建てればその国も排出ゼロにできなくなるわけで、国際的な批判は避けられません。せめていつまでに脱石炭を進めるのかなどの道筋を示すべきではないでしょうか。

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 その上で、排出ゼロの実現に向けては何から手を着ければよいのでしょう?日本でCO2の直接の排出量が最も多いのは、やはり発電所など「エネルギー転換」と呼ばれる部門です。先月、それにも関わりがある新たな動きがありました。

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 北海道苫小牧沖の海底で行われている「CCS」、すなわちCO2を地下に封じ込める実証試験で予定していた30万トンのCO2の圧入が完了したと発表されたのです。CCSは火力発電所などから出るCO2を大気中に出さずに封じ込めるのにも使えます。
 ただし、多額のコストがかかるため、火力発電所に付けると電気代の安さという長所が損なわれる他、CO2が長期間漏れ出さないかなども今後の検証が必要です。そして、火力発電からは毎年数億トンものCO2が出ていますから、それを貯留する施設を増設し続けるのは非現実的で、CCSがあるからと言って火力発電をずっと続けられるわけではありません。ただ、再生可能エネルギーがさらに普及するまで、大気中のCO2の増加を少しでも遅らせる過渡期の手段としては使えるかもしれません。

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 そういう意味で、やはり本命はCO2を出さないエネルギーへの転換です。これが大変な道のりなのは言うまでもありませんが、発電所や産業に次いでCO2の直接排出量が多い自動車などの「運輸」部門でも身近な所でひとつの動きがあります。

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 それは、再生可能エネルギーとエコカーのバッテリーを組み合わせ、いわば家庭用の蓄電池として使う方法です。この秋の東京モーターショーでは、複数のメーカーが電気自動車やプラグインハイブリッドなど大容量のバッテリーを持つ車を家や太陽光パネルと結ぶアイデアを発表していました。日中は太陽光で発電した電気の余剰分を車にためておき、夜間などは車から家に戻して使えるシステムにすることで電気の自給自足も目指せると言います。しかも災害などで停電が起きても家と車が無事なら電気を使えるため、台風による大規模な停電が相次いだこの秋、来場者の高い関心を集めていました。
 このように大容量バッテリーを持つエコカーが各家庭で蓄電池として機能するようになれば、再エネの弱点とされる発電量の不安定さも吸収できます。また、地域分散型の電源が普及することで、災害に強い地域社会を作れるというメリットもあります。
 欧米で自動車の環境規制が強化される中、メーカーは今後さらにエコカーの開発・販売に力を入れる必要がありますし、国内では固定価格買取制度が終了する世帯が今後増え、再エネの電力の使い道を探っています。こうした中で日本の実情にもあった排出ゼロへのひとつの道筋となりうるもので、政策的にこうした変化をもっと後押しすることも出来るのではないでしょうか。

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 今や温暖化の被害が目に見えるようになり、最もその被害を受けることになる世界の若者たちが大きな声を上げるようになったのと裏腹に、COP25では日本をはじめ各国は期待にこたえられたとは言えません。目前に迫ったパリ協定の本格スタート、そして来年2月までに求められている削減目標の更新に向けて、日本は何を打ち出せるのかが問われています。

(土屋 敏之 解説委員)

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