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「2020ロシア除外へ ドーピング問題の核心は」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員
安間 英夫  解説委員

(刈屋)来年の東京オリンピック・パラリンピックでロシアの姿は見られなくなりました。昨日行われた世界アンチドーピング機構WADAの常任理事会で、ロシアの東京大会からの除外が決まりました。
今夜の時論公論では、今回のWADAの処分内容のポイントと今後の問題点などをロシア担当の安間委員とともに見ていきます。

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その処分の主な内容です。

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今後4年間、オリンピック・パラリンピックなどの主要な国際大会からロシアを除外。招致、開催の禁止、決まっている開催権の剥奪。ロシア国旗の使用禁止など厳しい処分となりました。

この結果、オリンピック・パラリンピックは、来年の東京大会はもちろん2022年冬の北京大会も参加できなくなりました。
ただし、ピョンチャン大会と同じ様に、厳しい条件にそって潔白が証明された選手は、個人の資格として参加の道が残されました。

ロシアの反応は?

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(安間)WADAの処分を受けて、ロシアのプーチン大統領は、「違反した個人を罰するべきであり、集団全てを罰してはならない。政治的な決定だ」と批判し、CAS=スポーツ仲裁裁判所に提訴する考えを表明しました。
ロシアは国家ぐるみでドーピングを行ったとは認めていません。
ロシアで東京オリンピックを目指す選手からはロシアの代表として出られず残念だとする声があがっています。

(刈屋)今回のWADAの決定は、これまでとは大きな違いがあります。

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以前はWADAの決定は、勧告として行われ、それを受けたIOCなどの団体が処分を決定していました。

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しかし、2018年4月から新しい規定となり、各国のオリンピック委員会、パラリンピック委員会、各国際競技団体などが世界アンチドーピング規定に署名したことによって強制力を持つことになりました。
違反への制裁は、3段階に分けられ、今回のロシアは最も重い制裁、極めて重大な不履行として処分が出されました。

プーチン大統領がボイコットを決める可能性は?
(安間)今回の処分は、プーチン大統領にとって不本意であることは間違いありません。

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ただ、プーチン大統領は、冷戦時代にアメリカとソビエトがそれぞれオリンピックをボイコットしたことは選手の可能性を閉ざし、失敗だったとして、すべきではないと繰り返し表明してきました。
今後スポーツ仲裁裁判所に訴えつつ、出場の可能性はひきつづき模索していくものと見られます。
プーチン大統領は柔道の有段者で、スキーやアイスホッケーも楽しむ政治家として知られています。
2014年にソチの冬のオリンピック、去年サッカーのワールドカップを誘致し、政治の上でも、ともすれば求心力を失いがちな広大で多様な国家や国民をまとめる手段として、スポーツを活用してきました。
しかし、今回の事態はそうした努力を再び台無しにするもので、スポーツ大国の名声をいっそう厳しい状況に追い込んでいます。

(刈屋)これまでの経緯を簡単に振り返ります。

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2015年11月、ロシアの組織的ドーピングに対し、WADAがロシア・アンチドーピング機構とモスクワの分析機関に資格停止の処分を決め、IOCとIPCにリオ大会からの除外を勧告しました。IOCは、各国際競技団体に判断を委ね、潔白が証明された選手のオリンピックへのロシアとしての参加を認めました。
IPCはロシアパラリンピック委員会を資格停止としパラリンピックへの参加を認めませんでした。

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その後ロシアの組織的なドーピングの実態が明らかになり、IOCもロシアオリンピック委員会を資格停止とし、2018年2月のピョンチャン大会は、オリンピック・パラリンピックともにロシアとしての参加を認めず、個人資格での参加となりました。
その資格停止処分を、最も早く解除したのはIOCでピョンチャン大会の閉会式の3日後に解除しました。
その後WADAが2018年9月に解除し、IPCは今年の2月に解除しました。

解除にあたってロシア・アンチドーピング機構の改革は評価されているようですね
(安間)プーチン政権も手をこまねいていたわけではありません。
2年前、組織立て直しのため、RUSADA=ロシア・アンチドーピング機構のトップを交代させ、独立性を強めるかたちで、改革にあたってきました。
WADAやイギリス、ノルウェーなどから指導を受け、検査実績で日本を上回る世界8位の成果をあげていることが知られるようになっています。

(刈屋)では何故今回の事態となったのか。
問題は、モスクワの分析機関です。
WADAは、2018年9月にロシア・アンチドーピング機構とロシア分析機関の資格停止を解除しましたが、これはWADAの規定が4月に新しくなった為、一度解除してもう一度見直すためのものでした。
その解除の条件は2つ。

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① ロシアが組織的ドーピングの事実を認めること。これは事実上認めたとしてクリアーしましたが、問題は2つ目。
② モスクワ分析機関のデータ提出。
その期限を2018年の年末までとしましたが、提出されず半月後にようやく提出されたわけですが、そのデータが悪質な改ざんなどが多数見つかったことで、今回の処分へとなったわけです。
このデータは日本アンチドーピング機構の関係者によれば2011年から2015年のものようですが、何故改ざんする必要があったのか、ロシアのアンチドーピング機構の関係者からも疑問の声が上がり、この時に関与した政府の関係者や有名選手など、どうしても隠したい人物がいるのではと推測する声も上がっているようですね?

(安間)はい、ずさんとも言えるかたちで改ざんされたデータがどうして提出されたのか、謎は残ります。
RUSADAは、モスクワの分析機関がロシア政府や治安機関の管理下にあり、改革が進んでいないと指摘。データの改ざんなどの責任は治安機関などにあると非難しています。
・治安機関には、冷戦時代の流れをくみ、欧米や国際社会との協力に反対する強硬派もいて、そうした勢力が妨げとなっているのではないか、そうした見方も出ています。

ロシア側の今後の焦点は

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(安間)ロシアは今後、3週間以内にスポーツ仲裁裁判所に不服を申し立て、提訴する構えです。
プーチン大統領の説明では、
 ▼ロシアオリンピック委員会自体は問題とされていないこと、
 ▼ドーピングと関係ないはずの若い世代は除外するなど、個人の責任を追及すべきで、国全体を連帯責任にすべきではないことを訴えていくものとみられます。
しかし、今、問われているのは、個々の違反でなく、国としての管理体制のはずです。
RUSADAが指摘しているとおり、モスクワの分析機関を管理下に置く治安機関に対応には疑問が残り、治安機関の出身でもあり強い指導力を持つプーチン大統領こそ、疑惑をはらすため、さらに指導力を発揮していくべきではないでしょうか。

(刈屋)迎える日本は、着々と準備を進めています。

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例えば東京オリンピックに向けては、日本アンチドーピング機構は、WADAやIOC、五大陸の代表や国際競技団体の代表とタスクフォース・課題解決のための特別チームを作り、これまでドーピング違反が多かったハイリスクスポーツやオリンピック予選会、ドーピングをする時期の特定など動きだしています。

又、ドライブラッドスポットという新システムの本格導入を目指しています。特殊な布状のもので少量の血液を吸い取り検査するもので、運びやすく劣化せず長期保存が可能という利点があります。
この5年、ドーピング問題に揺れスポーツの価値も揺らいできた中で、スポーツの未来の為に、その悪い流れを止める期待が東京大会には求められているといえます。

2010年カナダバンクーバーオリンピックで、大惨敗したロシアは、4年後の地元のソチ大会で国の威信を取り戻そうと組織的なドーピングによって今回の事態を招いています。この事態をロシアには重く受け止めて欲しいですね。

(安間)ロシアの対応を見てみますと、スポーツ大国としての権威や若いアスリートの未来よりも不正の隠ぺいを優先する姿勢、ロシアたたきだと責任を欧米になすりつける姿勢が浮かび上がってきます。
今回の自体を契機に抜本的な立て直しを強く望みたいと思います。

(刈屋 富士雄 解説委員・安間 英夫 解説委員)

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