10月4日に召集された秋の 臨時国会は、12月9日、閉会しました。会期中、在任期間が憲政史上、最長となった安倍総理大臣は、悲願の憲法改正に向けて、実質的な中身の議論に入りたいところでしたが、「桜を見る会」などの問題を指摘され、実現しませんでした。この国会で浮き彫りになった問題や、今後の展望について、考えてみたいと思います。
【今国会での与野党の狙いと結果】
この国会で、政府・与党は、日米の新たな貿易協定を承認する議案と、憲法改正のための国民投票法改正案を最重要法案に位置付けました。提出する法案の数を絞り込み、憲法改正の中身の議論に入れる環境づくりを目指しましたが、相次ぐ閣僚の辞任と、「桜を見る会」の問題で批判を招き、国民投票法改正案の成立は見送らざるをえませんでした。
一方、野党は、新しい日米貿易協定は日本が譲歩しすぎているとして問題点を指摘するとともに、関西電力の経営幹部が多額の金品を受け取っていた問題も追及するとしていました。その後、「桜を見る会」への批判の広がりをみて、追及をこの問題に絞りましたが、決定的な突破口を見出すことはできませんでした。
【相次ぐ閣僚の辞任】
まず、政府・与党の動きを詳しく見ていこうと思います。
参議院選挙に勝利した安倍総理大臣は、9月、内閣改造を行い、政権基盤のさらなる強化を図ろうとしました。そして、憲法改正に着手すべく、この臨時国会に臨みましたが、その狙いは出足からつまずきます。
初めての入閣となる菅原経済産業大臣と河井法務大臣が、政治とカネの問題を報じられ、開会から1か月もたたない内に相次いで辞任しました。
安倍総理大臣は、疑惑をかけられた政治家はみずから説明すべきだとする一方、慰留することはせず、国会の委員会で本格的な追及が始まる前に、辞任を受け入れる決断をしました。説明責任が果たされていないという批判はありますが、政権運営という面からみれば、第1次政権の際、閣僚の辞任が相次ぎ、政権の体力が奪われた経験を生かした形です。
【桜を見る会】
政府・与党は、「桜を見る会」でも強い批判を受けました。
ことしの「桜を見る会」は、主に何が問題とされたのでしょうか。
1つ目は招待者をめぐる問題です。
「桜を見る会」は、各界で功績や功労のあった人たちを慰労することを目的とした内閣の公的行事です。
安倍政権の下で、招待者の数や支出額は増える傾向にあり、ことしの招待者は1万5000人あまりでした。その内訳は、▼安倍総理大臣からの推薦が1000人程度、▼副総理、官房長官、官房副長官から、あわせて1000人程度、▼自民党関係者からおよそ6000人などとなっています。半数を超える人たちが、安倍総理大臣や自民党関係者の推薦だったことになります。
安倍総理大臣は、みずからの推薦者について、地元の自治会やPTA活動などで功績があったとしていますが、NHKが安倍総理大臣の地元で入手した案内文は、事務所が地元関係者に参加を募る内容になっていました。
安倍総理大臣は、「桜を見る会」の会場で、「皆さんとともに政権を奪還してから7回目の桜を見る会になった」とあいさつしたことからも、内閣の公的行事という色彩があいまいになっていたとみられ、公私混同との批判を招きました。
もう1つは、招待者の名簿などの文書やデータの廃棄の問題です。
「桜を見る会」は、各省庁や総理大臣などからの推薦を、内閣官房と内閣府がとりまとめ、招待者の名簿が作られます。招待者の名簿について、推薦を取りまとめた内閣府は、「保存期間1年未満」の文書だとして、サーバーに保存されていた電子データとともに、すべて廃棄したとしています。
内閣府は、「会が終わって必要性がなくなったので、遅滞なく廃棄した」と説明していますが、廃棄は、共産党の議員が資料を請求したのと同じ5月9日でした。政府の公文書管理のガイドラインでは、後々、検証に必要になる行政文書は、原則として1年以上、保存することが定められていて、整合性が問われています。
指摘を受けて、政府は、来年の「桜を見る会」の開催は中止し、招待者の基準を明確にするとともに、予算や招待者の数を削減することを含め、全般的に見直すとしています。
ただ、ことしの会についていえば、一連の答弁から浮かび上がる政府の態度は、「反省すべき点はあるが、今となっては、誰が誰に招待されたのか、何もわからない」ということです。
【憲法改正の動き】
相次ぐ閣僚の辞任と、「桜を見る会」の問題の影響で、政府・与党が最重要法案と位置付けていた、憲法改正の是非を問う国民投票法の改正案は成立が見送られました。
安倍総理大臣の総裁任期が2年を切る中、閉会日(12月9日)の会見でも意欲を示した憲法改正の中身の議論にこの国会では入れなかったことで、与党内からも、安倍総理大臣の今の任期中の憲法改正は極めて難しくなったとの見方が出始めています。
【政府・与党の対応への評価】
今国会での政府・与党の対応を振り返ると、閣僚の疑惑が指摘された問題をめぐっては、本人が説明責任を果たしておらず、今後も課題として残ることになりそうです。
「桜を見る会」への対応でも、政府・与党は、来年の開催中止をすばやく決めたり、安倍総理大臣の国会での説明を、原稿を読み上げる形の本会議に絞り、一問一答形式となる委員会での質疑を避けたりするなど、政権のダメージコントロールを優先させた形です。
しかし、わずか8か月前の「桜を見る会」のことが何もわからないという政府の態度は理解が得られにくく、12月のNHKの世論調査では、安倍総理大臣の説明に「納得できない」と答えた人は71%に達しています。公平性や適切な文書管理といった行政の原則が揺らいでいないか、国民に誠実に向き合っているのか、安倍政権に厳しい目が注がれています。
【野党連携の動き】
一方、野党側は、この国会に臨むにあたって、立憲民主党や国民民主党など4党派が、国会での会派を合流させました。
その結果、2人の閣僚を辞任に追い込んだほか、大学入学共通テストへの英語の民間検定試験についても、萩生田文部科学大臣の「身の丈」発言をきっかけに批判を強め、導入が延期されるなど、一定の成果を出せたとしています。
「桜を見る会」の問題では、途中から集中して追及の矛先を向け、高い関心を集めましたが、政府を追い詰めるには至らなかったほか、ほかにも議論すべきテーマがあるとの指摘もあります。
ただ、この問題では、野党側が協力して事実関係の調査などを行うなど、野党連携が進み、この流れを受けて、立憲民主党の枝野代表は、国民民主党や社民党などに合流に向けた協議を呼びかけました。
立憲民主党と国民民主党の間には、先の参議院選挙のしこりから、依然として合流に慎重な意見があるほか、憲法改正や原発政策など基本政策をめぐって意見の隔たりがあるのが現状ですが、衆議院の任期が折り返しを迎えたなか、今後、動きが活発化することが予想されます。
【まとめ】
この国会で、野党側は、一定の存在感を示しましたが、今後は、国会対応に加え、政策面でもすり合わせを行い、自民党に代わる勢力としてアピールできるかが焦点となります。
一方、安倍総理大臣は、この国会の会期中、在任期間が、憲政史上、最長を迎えました。
先月(11月)、死去した中曽根元総理大臣は、生前、「政治家の人生は、成し得た結果を歴史という法廷で裁かれることによってのみ、評価される」と述べていました。後世からの評価を、「歴史法廷で裁かれる」と表現したところに、並々ならぬ責任感と緊張感が感じられます。
安倍総理大臣は、後世、どのような総理大臣として、人々の心に記憶されるのでしょうか。重視する社会保障や外交での課題への取り組みにあたっても、国民の理解と信頼を得る一層の努力が求められています。
(梶原 崇幹 解説委員)
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