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「成長維持へ経済対策~背景と課題」(時論公論)

神子田 章博  解説委員

日本の経済は力強さに欠ける。きょう発表された日本の今年7月から9月までの経済成長率は、消費税引き上げ前の駆けこみ需要があったにも関わらず低い伸びにとどまりました。こうした中政府は、新たな経済対策の取りまとめと、今年度の補正予算案の編成を進めようとしています。きょうはこの問題をとりあげます。

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政府は経済対策を打ち出した理由として、世界経済の見通しが不透明なことと、台風など自然災害による地域経済への影響を上げていますが、私はこれに加えて、消費税を引き上げたマイナスの影響についても考えていく必要があると思います。
解説のポイントは3つです。

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前半で、日本経済、そして世界経済のリスクを点検します。そのうえで後半は、経済対策の中身について、迅速さを要するものと、じっくり熟慮して進めるべきものとを分けて考える必要性についてみていきたいと思います。

1) 日本経済の現状と消費税の栄養
まず日本経済です。

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今年7月から9月の経済成長率はプラス0.1%年率に換算して0.2%と、4期連続でプラスとなったものの低い伸びにとどまりました。内訳をみますと、「個人消費」は、消費税引き上げ前の駆け込み需要による押し上げ効果があったにも関わらずプラス0.4%と伸び悩みました。一方「企業の設備投資」は、人手不足に対応するための省力化投資でプラス0.9%の伸びとなりましたが、輸出は米中貿易摩擦を背景に中国向けの生産用機械が振るわなかったことなどから、マイナス0.7%となりました。総じていえば力強さに欠ける日本経済の状況が改めて浮き彫りになった形です。

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さらに今後心配なのが、先月からの消費税率引き上げの影響です。政府は、消費税による個人消費への影響は、前回ほどではなかっとみられるとしています。しかし先週発表された家計調査では、ことし9月に家計が消費に使ったお金は、去年の同じ月を9.5%上回り、比較できる2001年1月以来、最大の伸びとなりました。冷蔵庫やエアコン、テレビといった価格の高い家電製品や、鉄道の定期券など、消費税引き上げを目前にした駆け込み需要で一時的に大きく支出が増えたものとみられています。その反動で、先月以降家電量販店やデパートの売り上げが減少していて、今後も注意深くみていく必要があるでしょう。

2)世界経済の新たな懸念材料
次に海外経済のリスクについて考えます。
最も大きなリスクは長引く米中貿易摩擦が、世界各国で企業の設備投資や輸出を落ち込ませ、成長の伸びを鈍らせていることです。

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今年7月から9月の各国の成長率を見ると、米中摩擦の当事者のアメリカが前の3か月の伸びを下回り、中国も1992年以降で最も低い数字となりました。
さらにここへきて新たな世界経済のリスク要因となりそうなのが、ヨーロッパ経済です。日本時間のきょう夕方発表された今年7月から9月のドイツの経済成長率は、前の期に比べてプラス0.1%と、年率に換算するとおよそ0.3%と、マイナス成長だった4月から6月に比べて大幅な回復は果たせず、落ち込みが続いています。

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 ドイツは欧州各国の中でも、経済の輸出に対する依存度が大きく、米中摩擦による中国向けの輸出の減少が響いています。さらに主要産業の自動車メーカーも、環境規制の強化に対する対応の遅れから業績が落ち込んでいます。ドイツ経済の不振は、欧州経済全体にマイナスの影響をもたらすことが懸念されています。
さらに懸念されるのは、欧州の政策当局が景気の下支えに有効な手を打てないのではないかとみられていることです。ECBヨーロッパ中央銀行は、今年9月、目先のリスクに備えるため、政策金利をマイナス0.4%からさらに引き下げてマイナス0.5%としました。これに対し、各国からは銀行への経営に対する影響が大きすぎるとして、強く反発する声があがっています。このため、これ以上の金融緩和で経済を支えるのは難しく、財政が比較的健全なドイツなどが財政支出を増やして景気を支えることに期待が高まっています。しかしドイツとしては、リーマンショックのような危機が起こった場合は別として、景気の落ち込みに財政出動で対応する必要はないという考えが根強く、大規模な経済対策はのぞみ薄です。このため、欧州経済の不振が今後も長引き、世界経済の新たなリスクになるという懸念が強まっているのです。

3)経済対策の内容熟考を!
このように内外のリスクを抱える中で、日本政府は、新たな経済対策をとりまとめようとしています。ここからは、この対策の内容について考えていきたいと思います。

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今回の対策は、▼下振れリスクに対応して景気を下えるための中小企業や農林水産業への重点的な支援策や、▼次世代の通信規格5G導入後を見据えた技術開発の支援など成長力を強化するための対策。そして▼台風などの災害で被災した人たちの生活や仕事を再建するための支援策など復旧復興や、▼防災や減災に向けた河川の堤防などのインフラ対策といった自然災害関連からなっています。

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補正予算の規模をめぐっては「4兆円から5兆円は必要だ」という声が与党内から聞こえてきます。しかし、政府の財政はすでに極度に悪化しています。対策の財源が潤沢にあるというわけではない中で、個々の対策をめぐっては、その必要性についてしっかりと見極める必要があると思います。

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まず景気を下支えするための対策の規模を決めるにあたっては、消費税引き上げの影響に加えて、海外のリスクとりわけ米中貿易摩擦の行方を見極める必要があります。トランプ大統領は米中の合意は近いと発言しており、仮に協議が一定の合意に至り、大幅に引き上げられた関税が部分的にでも元に戻れば、日本経済に影を落としていた不透明感が薄らぐことになるでしょう。景気の落ち込みが小さければ、それほど大規模な予算を使わなくてもよいということになります。対策の規模は最初に数字ありきではなく、最新の経済状況に応じて必要最小限に抑えることが必要だと思います。

次に対策のもうひとつの柱となる「災害関連」についてです。

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このうち、被災者の生活支援や、今回の災害で壊れた堤防の本格的な復旧を来年の大雨のシーズンまでに終わらせなければならない工事などについては、予算化を急がなくてはなりません。その一方でむしろじっくりと時間をかけていった方がのちのちより大きな政策効果が期待できるものもあると思います。例えば、河川の氾濫対策に関しては、今回の災害で堤防の決壊が起きた原因をきっちりと究明したり、堤防やダムや遊水池といったインフラ施設が河川の氾濫を防ぐのにどういう効果があったか、あるいはどのような問題があったかなどしっかりと検証することが求められています。そのうえで、今後災害を防いだり被害を減らすにはどのようなインフラが必要か、各事業にどう優先順位をつけて整備を進めていくかなど、長期的な計画の策定が求められます。政府は防災減災対策に必要な補正予算を来月中にもとりまとめるとしていますが、過去にない豪雨が続くという新たな事態に対応してゆくには、これまでのような考え方でインフラを整備していくということでよいのか、ハード面とソフト面の対策をどう組み合わせていくのかなど、じっくりと検討していくことも必要ではないでしょうか。

内外の経済リスクに加えて、広範な被害をもたらした自然災害に見舞われた今年。例年にない規模の歳出は避けられないという声が強まっています。ただそうであるとしても、くれぐれも災害対策に名を借りた予算のばらまきといわれることのないようにしてもらいたいと思います。

(神子田 章博 解説委員)

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