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「ヤフー LINE 経営統合 その先にあるもの」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

きのうの敵は、きょうの友、ということでしょうか?
激しいライバル合戦を展開していた、IT業界を代表する大手2社が
ガッチリ手を組んで、ワンチームを目指すことになりました。
検索大手ヤフーと、無料通信アプリ LINEが
経営統合で基本合意したことをきのう発表しました。

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【 何が焦点か? 】

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① 目指すのは、消費者の囲い込み。“スーパーアプリ”です。
② その背景にあるのは、GAFAなどの巨大IT企業への強い危機感です。
③ そして、のべ1億人規模となる個人情報の行方はどうなるのか?
以上、3点について考えます。

【 経営統合が目指すもの 】

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まず、両社の現状です。
ヤフーはインターネット検索サービスの大手で、利用者は5000万人。
LINEは無料通信アプリの大手で、利用者は8200万人。
合わせると利用者は、1憶3000万人、
売り上げも、1兆円を超えるという、巨大企業の誕生です。

経営統合は、来年10月を目指します。
それぞれの親会社が共同で新会社を作り、
この新会社が、両社を子会社にする、という形をとります。

経営統合が目指すもの。
それは、“スーパーアプリ”を作ること。
つまり、消費者の囲い込みです。

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スーパーアプリとはスマホの中の、
たった一つのアプリを入口にして、
日常生活に必要なあらゆるサービスを
提供するという究極のスマホアプリです。
これまでのように
サービスごとに別のアプリを入れたり、
複数のアプリを操作するというわずらわしさはなくなります。

すでにこうしたアプリを提供しているのが、
中国のアリババやテンセントで、
一つのアプリで消費者を囲い込み、
巨大な経済圏を作ることに成功しています。

ヤフーとLINEも、
買い物や、金融、決済、音楽・ゲーム、動画に株式など、
さまざまなサービスを手掛けていまして、
両社のサービスを合わせれば、
日本版のスーパーアプリの姿も見えてきます。

【 第三極を目指す 】
ただ、両社は今でも、重要なサービス分野で
激しいライバル競争を展開しています。
特にスマホ決済の、ペイペイ と LINEペイは
双方とも、多額のポイント還元で
体力をすり減らしながら、激しく競い合っています。
それがなぜ、今、経営統合でガッチリ握手なのか?

その背景には、
今や世界を二分する勢いのアメリカと中国、
それぞれの巨大IT企業の存在があります。

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アメリカでは
グーグル、アップル、フェイスブック、そしてアマゾン。
頭文字をとって、「GAFA(ガーファ)」と呼ばれています。

また、中国では、
バイドゥ、アリババ、テンセント、
同じく頭文字をとってBATと呼ばれています。

今や、こうした巨大IT企業が
インターネットを使って
国境を越えた様々なサービスや事業を展開し
世界のネット市場を席捲しています。
実際、企業の規模や価値を示す、
世界の時価総額トップ10を見ても
その大半を、GAFAとBATが占めています。

このままでは日本勢は埋没してしまう。
対抗するためには、まず、両社が統合して
足場を固める必要がある。
そう判断したものとみられます。

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LINEの出澤剛社長は(いでざわ・たけし)
「これまではライバルとして切磋琢磨する関係だったが、
今後は手を取り合って、さらなる高みを目指したい」と会見で述べました。
またヤフーを運営するZホールディングスの
川邊健太郎社長は(かわべ・けんたろう)
「東アジアから第三極を目指したい」と意気込みを語りました。

ただ、第三極、とはいってみても
両社を合わせた時価総額はおよそ3兆円。
ごらんのように、米中の巨大IT企業は、100兆円超から数十兆円規模。
文字通りケタ違いの大きな開きがあります。

では第三極は、夢なんでしょうか?
ここで両社が期待するのが、LINEのアジアでの強さです。

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LINEは特に、台湾、タイ、インドネシアで
多数のユーザーを持っています。
台湾とタイではシェアトップ、インドネシアでもシェア第二位と、
圧倒的な強さを誇ります。
これから成長するのはアジアです。
アジアの高い成長力をどうやって取り込むかが課題です。

【 利用者への影響は? 】
このように今回の経営統合は、外に目を向けると大きな挑戦です。
しかし、国内に目を向けると、ネット企業で最大の企業が
誕生することを意味します。
これは消費者からすると、
様々なサービスが利用しやすくなる可能性がありますが、
反面、取引業者の人たちからすると、
思わぬシワ寄せを受ける懸念が出てきます。

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というのも、公正取引員会が大手ネット通販をめぐって
取引先企業に聞いたところ、
手数料を上げられたり、契約を一方的に変更されたという苦情が
最も多かったのが、楽天で93%、次いでアマゾンの73%、
そして、今回のヤフーも50%、などとなっています。
今後、ネット企業の側の支配力がさらに強まれば、
取引先企業の人たちは厳しい立場を強いられことになるかもしれません。

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今回の経営統合について高市総務大臣は、
「多数の利用者を持つ事業者の統合は、
国民生活に影響を与える可能性がある」と述べて
両社の取り組みを今後注意深く見ていく考えを示しています。

【 個人情報の行方 】
そして、最後に、気になるのは、やはり個人情報の保護です。
今回の経営統合で、のべ1億人規模の個人情報が
両社が手掛ける様々なサービスに紐づけられる可能性があります。
便利な反面、自分の情報がどんな使われ方をしているのか、
不安になる人もいるのではないでしょうか。

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実は、公正取引委員会は現在、
巨大IT企業を規制するための新たなルール案を検討中です。
今回の経営統合は、その大きな試金石になる、とみられます。
難しい判断になりそうです。
というのも、これまで公正取引委員会は、
経営統合を認めるかどうかについては、
それぞれの会社の製品やサービスの販売シェアがどれだけあるのか、
そして、それが合わさると、市場の独占や
自由な競争の阻害になるかどうかを見て判断しています。

ところが、巨大IT企業が経営統合で狙うのは、
膨大な個人情報の取り込みや囲い込みです。
つまり、どれだけ個人データを集めれば
市場で支配的、とみなされるのか、
どのような場合に、ライバル社の自由な競争を阻害することになるのか?
前例がないだけに難しい判断になるのは避けられない、とみられます。

きのう行われた経営統合の記者会見で、印象的だったコトバがあります。
それは、ヤフーを運営するZホールディングスの川邊社長が、
記者から、GAFAの何が脅威なのか、と問われたのに対し、
「最大の脅威は、ユーザーから支持されていることだ」と答えたことです。
まさにここに、巨大IT企業の強さの秘密があります。

ぜひ、今後、両社も
アジアのユーザーや取引業者から広く、支持されるような
新たな仕組みを開発してほしいと思います。

(竹田 忠 解説委員)


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