台風19号の豪雨災害からあすで1ヵ月になります。7万棟が浸水したこの災害では大量の土砂や災害廃棄物の撤去にボランティアが大きな役割を果たしています。しかし被害が非常に広い範囲に及んでいるため支援にばらつきがあるほか、現地では今後、ボランティアが減ってしまうことを心配する声があがっています。継続的な支援のために何が必要かを考えます。
【ボランティア、NPO、行政の連携の取り組み】
台風19号などの被災地では延べ13万人を超えるボランティアが活動を行ってきました。災害からの復旧・復興のためにボランティアの存在は欠かせないものになっていますが、今回、ボランティアとNPO、そして行政が連携してこれまでよりも踏み込んだ取り組みが行われた地域があり、取材しました。
千曲川の堤防が決壊して1500棟近くが浸水した長野市の豊野・長沼地区(とよの・ながぬま)です。狭い道路沿いに住宅が立ち並ぶ地区で、大量の土砂や災害廃棄物を一時置いておく場所も少なく、除去と搬出が大きな問題になりました。
ここでは災害専門のNPOが発生直後に駆けつけ、社会福祉協議会や県、市、自衛隊などと連携して搬出するスキームをいち早く確立しました。
「ワンナガノ」と名付けられた、その仕組みです。まず土砂や廃棄物は家の前や近くの空き地などに出されます。次に軽トラックで、それを地区の2か所に設けられた広い仮置き場まで運びます。そこから先は自衛隊が地区の外に運びだすという流れです。
土砂や廃棄物を近くの空き地に運んだり、軽トラックに積み込んだりするのはボランティアと住民があたります。それを地区内2カ所の広い仮置き場まで運ぶのは軽トラックに乗って集まったボランティアで、多い日は160台が稼働しました。道が狭いため道路は一方通行にしました。
狭い地区内で作業を効率的に行うため時間帯も工夫しました。住民とボランティアの活動は日中。夜になると自衛隊が大きな重機やトラックで続々とやってきて2つの仮置き場から地区外のさらに大きな集積場所にいっきに運び出しました。
最も多い日で3000人を超えるボランティアが活動し、一日で500トン以上の廃棄物を搬出するなど速いペースで処理が進みました。
【3者連携はなぜ、うまくいった】
このスキームは災害が専門のNPOが行政側にアドバイスをして作られました。NPOやNGOと行政との連携は最近の災害で常に課題になってきました。多くの災害で経験を積んで廃棄物の処理や避難所の運営など高い専門性を持ったNPOなどが育っていますが、行政側に知られていないため、現場に駆けつけてもすぐに力を発揮できないことがしばしばあります。
今回、素早い体制づくりができた背景には、長野県が災害支援を受ける計画=受援計画を作り、国やほかの自治体、ボランティアの支援をどう受けるのか、ボランティア側もまじえて事前に話し合っていたことがあります。そして実際に今回の災害の発生した後、県と市、国の各省庁、そしてNPOなどが頻繁に情報共有会議を開いたほか、県庁内にボランティア団体の活動拠点も設けて協力して対応を進めています。内閣府の担当者は「発生直後から本格的な連携が行われた初めてのケースと言えるだろう」と話しています。
災害NPO「結」の代表の前原土武さんは「ボランティアの皆さんの協力で撤去が進んできましたが、今後も農地の土砂の除去などに多くの人手が必要です。ボランティアの人たちに“リピーター”になってもらえるように取り組みたい」と話しています。
【今求められている支援】
被災地でいま求められているのは廃棄物などの搬出のほか、浸水した家を住めるようにする支援です。先週、取材した宮城県丸森町では災害専門のNPOが住民への助言の活動を行っていました。
浸水した住宅で床や壁を掃除しただけで住み続けると、あとでカビが大量に発生してしまいます。このため床や壁板をはがして床下に入り込んだ泥や、水を含んだ断熱材を取り除く必要があります。NPOのボランティア人たちが地域をまわって作業の進め方を指導していました。また一般のボランティアの人たちが土砂の除去や清掃などの作業をしている家もありました。
このように被災地では、まだまだ膨大な支援ニーズがあります。
全国社会福祉協議会によりますと、きょう現在で岩手県から長野県にかけての35地域でボランティアが必要とされ、特に宮城県丸森町と福島県いわき市、長野市では多くのボランティアの支援が求められています。
例えばいわき市では5000棟の住宅が床上浸水したのに対してボランティアを派遣できたのは600軒余り。このうち清掃などを終えたのは260軒にとどまっています。しかし発生から1ヵ月がたってボランティアが減り始め、本格的な雪の時期までにどれだけ作業が進むのか、支援にあたっているNPOの人たちは強い危機感を訴えています。
【ボランティア支援を継続・強化するために】
ボランティアの人たちに来てもらい、支援を継続していくためには何が必要なのでしょうか。
ボランティアをしたいけれども遠くて行けないという声もあります。全国の30近くの社会福祉協議会などが今週以降、被災地へのボランティアバスの運行を予定しています。こうした移動を支援する取り組みを広げる必要があります。一方、兵庫県はボランティアの交通費や宿泊費を補助する制度を作り、今回の台風19号で初めて適用しました。これまでに29団体が申請をして活動することになっています。財源はふるさと納税をあてるという工夫をした制度です。国レベルでもこうした仕組みづくりを検討すべきでしょう。
次に企業のボランティア休暇の活用と普及です。ボランティア休暇制度を持つ企業は4.5パーセントしかありません。しかし東京で開かれたボランティア団体による報告会を取材すると、多くの企業の担当者が参加し、どのような支援が求められているのか熱心に情報収集にあたっていました。経済界としてボランティア休暇の一層の拡大に取り組むことが期待されます。
もちろんボランティアに頼るばかりでなく、国や自治体がきめ細かい支援を手掛けていく必要があります。住宅地内の土砂やがれきを公費で除去する制度はありますが、現実的には専門業者が確保できないためあまり使われていません。またNPO側からは「自衛隊との協力をさらに進めたい」という声を聞きます。台風15号のあとには住宅の屋根にブルーシートを張る方法をNPOが助言し、自衛隊が作業を行ったところもあります。
自衛隊の活動は被災地で高く評価されています。「公助」には限界がありますが、NPO・ボランティアとのさらなる連携や支援範囲のあり方を検討する必要はあると思います。
【まとめ】
被災地では冷え込みが厳しくなるなか、いまも2800人が避難所での生活を強いられていて、仮設住宅やみなし仮設住宅の用意を急がれます。また1階が浸水して使えなくなり、2階で不自由な生活を続いている被災者が多くいますが、全体像は把握できていません。ボランティアの力も借りながら、国や自治体は自らの責任で、被災者の支援、生活再建への後押しに全力をあげてほしいと思います。
(松本 浩司 解説委員)
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