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「ムン政権はどこに向かうのか」(時論公論)

出石 直  解説委員

韓国のムン・ジェイン大統領はあす(9日)で大統領就任から2年半、任期5年の折り返し点を迎えます。ムン政権のこれまでを総括し、これからを展望します。

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【支持率】

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まずこちらをご覧ください。おととし5月の大統領就任からのムン大統領の支持率の推移です。当初は80%台という非常に高いスタートでした。去年の夏頃からは下がり始めますが、キム・ジョンウン委員長との南北首脳会談を行うたびに回復しています。
しかし、ことしに入ってからは支持と不支持が交錯するようになり、10月には39%と初めて40%を割り込んで最低を記録。きょう発表された最新の数字は45%と、政権発足当初から40ポイント近く下がっています。

スタートは好調だったものの、政権発足から2年半が過ぎて、ムン政権の政策が様々な面で行き詰ってきていることが、このグラフからも読み取れるように思います。
きょうは、「北朝鮮」、「日本」、「経済」、この3つの側面から、ムン・ジェイン政権がこれからどこへ向かおうとしているのか考えてみたいと思います。

【北朝鮮】
まず北朝鮮です。
おととし5月に大統領に就任した当時、朝鮮半島は今にも戦争が始まるかのような緊迫感に包まれていました。北朝鮮は、弾道ミサイルの発射を繰り返し、9月には6回目の核実験を強行、11月にはICBM=大陸間弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表します。トランプ大統領は軍事攻撃の可能性すらちらつかせていました。

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しかしこの緊張状態は、2018年の年明けから一気に緩和に向かいます。ピョンチャンで行われた冬季オリンピックに合わせて北朝鮮の高官が韓国を訪問、開会式では南北の選手団が合同で入場行進を行って融和ムードを盛り上げました。

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去年4月にパンムンジョムで行われた南北首脳会談では、ムン大統領とキム委員長が軍事境界線近くのベンチに腰掛けて2人だけで話し合う場面が見られました。こうした働きかけが6月のシンガポールでの歴史的な米朝首脳会談につながったのです。長く敵対していたアメリカと北朝鮮との橋渡し役を務めたムン大統領、一時はノーベル平和賞候補という声まで聞かれたほどでした。

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しかし、ことし2月のハノイでの米朝首脳会談が物別れに終わり、北朝鮮とアメリカとの間に隙間風が吹き始めると状況は一変します。
韓国は難しい選択を迫られることになったのです。
▽同盟国アメリカとの関係を重視すれば、北朝鮮は韓国から離れていってしまう。
▽南北関係を優先すれば、アメリカとの同盟関係は危機に瀕します。
▽ムン大統領は北朝鮮とアメリカの間で板挟み状態に追い込まれています。
安全保障の観点から考えれば、アメリカとの同盟は軽視できないはずですが、ムン政権は民族主義的な色彩が強いだけに予想外の展開もありうるのではないでしょうか。

【日本】
次に日本との関係です。
一年前の韓国最高裁判所での徴用をめぐる判決以降、日本と韓国との関係は極端に悪化しました。日本政府が韓国向け製品の輸出優遇を強化したことがきっかけとなって日本製品の不買運動が広がり、日本を訪れる韓国人観光客の数も急激に減少しています。

日韓関係をめぐっては、この後、3つの重要な節目が訪れます。

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▽ひとつは11月23日、安全保障上の機密情報を共有するGSOMIAがこの日で失効します。
▽もうひとつは、来月下旬に北京で開催される日中韓サミット。ここで日韓の首脳会談が実現する可能性があります。
▽三つ目は、徴用をめぐる裁判の原告弁護団が差し押さえている日本企業の資産を売却して現金化する期日。当初は年内にもと見られていましたが、原告側の弁護士は手続きの遅れから来年の2月以降になるとの見通しを示しています。

GSOMIAが破棄されれば、アメリカとの同盟関係にも深刻な影響を与えることは確実です。現金化の手続きが終了すれば日本企業に初めて実害が生じることになり、日本政府は厳しい対抗措置を取らざるを得ないでしょう。GSOMIAと輸出管理の問題は、本来まったく別の問題のはずですが、韓国側は日本が韓国向けの輸出管理の強化を撤回すれば、GSOMIAの延長を再検討する用意があるとしています。
この3つの節目にあたってムン政権がどんな対応を取ってくるかで、今後の日韓関係は大きく左右されることになるでしょう。

【経済】
最後に経済です。

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こちらは韓国の四半期ごとの実質経済成長率の推移です。ことしの第一四半期にはついにマイナス成長となり、年率換算では2%台を維持できるかどうか微妙な情勢です。
雇用情勢も深刻です。とりわけ若者の失業率は10%前後と高止まりの状態が続いています。

実はこうした経済の停滞は、ムン政権の対北朝鮮政策、対日政策と密接に関連してます。

ムン政権の対北朝鮮構想は次のようなものでした。
▽まず緊張状態を解消することによって北朝鮮の市場を開拓し、安い労働力を活用して経済の活性化を図る。▽次に中国、ロシア、日本、さらにはユーラシア大陸と朝鮮半島を結ぶ広域的な経済協力を実現する。
しかし、南北協力はいっこうに進まず、ムン大統領の壮大な構想は現時点では絵に描いた餅に終わっています。

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日本との関係でも、日本政府による輸出管理の見直しによって半導体製造装置の日本からの輸入が半減。このままでは韓国経済を支えてきた半導体産業などに深刻な影響が出てくることが懸念されています。

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停滞している経済をどう立て直すか、これは対北朝鮮政策、対日政策とも密接に絡んで、
ムン政権の任期後半の大きな課題となっています。

【まとめ】
ここまでムン・ジェイン政権のこれまでの歩みを、「北朝鮮」、「日本」、そして「経済」という3つの側面から見てきました。では任期5年の折り返し点を迎えるムン・ジェイン政権は、これからどこに向かっていくのでしょうか?

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▽安全保障面では、北朝鮮との融和を優先するのか、それともアメリカとの同盟を重視するのか。

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▽経済面では、北朝鮮との経済協力に活路を見出すのか、あるいは日本との関係改善に乗り出すのか、このあたりがポイントになると思われます。
韓国では来年4月に総選挙が予定されています。これは3年後の大統領選挙で、ムン大統領と同じ革新系の大統領が誕生するのか、あるいは保守陣営が政権交代を果たすのかを占う重要な選挙になります。野党陣営は、ムン政権の対北朝鮮政策、対日政策、経済政策の行き詰まりを厳しく批判し攻勢を強めてくることでしょう。

ムン政権がこれからも北朝鮮との融和にこだわって民族主義的な色彩を一層強めていくのか、それとも自由と民主主義、日米韓を基軸とした国際協調路線へと軌道修正していくのか。残る任期はあと2年半、ムン・ジェイン政権は重大な岐路に立たされているように思います。

(出石 直 解説委員)

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