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「米・イラン対立の行方」(時論公論)

出川 展恒  解説委員

■アメリカとイランが国交を断絶するきっかけとなった、アメリカ大使館の占拠事件から、今週、ちょうど40年を迎えました。アメリカのトランプ政権が、「イラン核合意」から一方的に離脱し、イランに対する制裁を強化していることで、両国の関係は悪化の一途をたどっています。そして、イランは、制裁への対抗措置として、きのう、「核合意」の制限を破る形で、ウランの濃縮活動を再開しました。アメリカとイランの対立の行方を考えます。

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■解説のポイントは、▼アメリカとイランの長年の対立の背景。▼イランによる新たな対抗措置の意味。そして、▼両国の対立の行方です。

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■最初のポイントから見てゆきます。
4日、イランの首都テヘランの、かつてのアメリカ大使館の前で、反米集会が開かれました。参加した大勢の群衆が、「アメリカに死を!」などとシュプレヒコールを繰り返し、トランプ大統領を名指しで非難しました。
40年前、1979年2月、アメリカを後ろ盾とするパーレビ国王の独裁体制が、民衆の抗議行動によって倒され、イスラム教シーア派の教えに基づく政教一致の体制に変わりました。「イラン・イスラム革命」です。そして、この年の11月、革命を支持する学生グループが、アメリカ大使館を占拠して、外交官など52人を、444日間、人質にする事件が起きました。この事件をきっかけに、両国は国交を断絶し、今日に至っています。

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トランプ大統領は、国民の心に深く刻み込まれたイランへの不信感や反感に訴える政策で、一定の有権者層から、固い支持を得てきました。そして、イランへの圧力を強めることで、来年の選挙での再選を目指しているのです。
一方、イラン側から見ますと、アメリカへの不信感は、66年前、1953年にさかのぼります。豊富な石油資源の国有化に踏み切ったモサデク首相の政権を、アメリカのCIA・中央情報局などがクーデターによって転覆させ、パーレビ国王の親米独裁体制に置き換えたのです。テヘランのアメリカ大使館は、CIAの秘密工作の拠点でした。
歴史を振り返りますと、両国の対立の背景には、相手への根深い「不信感」とともに、「被害者感情」があるのです。それだけに容易に解決できるものではありません。
イスラム革命後のイランは、アメリカなど外国の「不当な介入」や要求を断固拒否し、抵抗することを、大原則にしてきました。そして、今、トランプ政権がイランに対して行っている制裁や、「核合意」からの一方的離脱は、まさに、「不当な介入」だととらえているのです。
最終的な決定権を握る、最高指導者ハメネイ師は、3日の演説で、イランに敵対的な行動をとり続けるトランプ政権を強く非難したうえで、次のように述べました。
【イラン最高指導者 ハメネイ師】
「一部の人々は、交渉で問題が解決すると考えているが、100%誤りだ。交渉しないことで、介入を防ぐことができる」。
このように、トランプ政権からの交渉の呼びかけを、きっぱりと拒否しました。

■ここからは、イランが打ち出した新たな対抗措置の意味を考えます。
ロウハニ大統領は、5日、イラン中部のフォルドゥにある核施設で、ウラン濃縮活動を再開すると発表し、きのう実施に移しました。この施設は、イランにとって、ナタンズに次ぐ、2つ目のウラン濃縮施設です。敵対するイスラエルなどの空爆で破壊されるのを防ぐため、地下深くに建設され、10年前、欧米の諜報活動で存在が明らかになりました。

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イランは、その後、医療用として、濃縮度20%未満のウラン濃縮活動を行っていましたが、4年前の「核合意」で、フォルドゥの施設でのウラン濃縮は、全面的に禁止されました。
イラン政府は、今回、「核合意」を破る形で、フォルドゥでのウラン濃縮活動を再開し、ナタンズと合わせて2つの施設を稼働させています。ただし、濃縮度は、原発用燃料に相当する4.5%程度とし、IAEA・国際原子力機関による査察も、これまで通り受け入れるとしています。そして、「核合意」に署名したヨーロッパの国々が、合意に基づいてイランが要求している「経済的な利益」を提供するならば、再び合意を守るとも、表明しています。ロウハニ政権は、今年5月以降、「核合意」の制限を段階的に破る対抗措置をとってきましたが、今回は、その「第4弾」にあたります。

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ロウハニ政権の狙いを読み解けば、「核合意」を崩壊させる意図はなく、アメリカ以外の関係国から、核合意が定める「経済的な利益」を最大限引き出すための、いわゆる「瀬戸際外交」を続ける考えと見られます。しかし、このやり方は、イラン自身の首を絞めることにもなりかねません。
フランスのマクロン大統領は、「イランが、初めて核合意から離脱する方針を明確に示した。これは本質的な転換だ」と強い懸念を表明しました。イランとアメリカとの仲介を続けてきたマクロン大統領にも、ロウハニ政権の意図は、十分に理解されていないようです。

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アメリカ・トランプ政権は、イランに対する制裁の強化策を次々と打ち出しており、イランの孤立と核合意の「形骸化」がいっそう進む恐れがあります。各国の企業は、アメリカの制裁の対象となることを恐れて、イランとのビジネスを再開できません。イラン側も、60日ごとに新たな対抗措置を打ち出す構えで、このままでは、「核合意」は維持できなくなるという指摘が現実味を増しています。

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■ここから、アメリカとイランの対立の行方と、日本の対応について考えます。
▼イランに対し、最大限の制裁圧力をかけ、「核合意」にかわる新たな合意を求めるトランプ政権。▼「瀬戸際外交」によって、ヨーロッパの国々から経済的な利益を引き出そうと考えるロウハニ政権。▼「核合意」を守るようイランへの説得を続けるヨーロッパなどの関係国。いずれも、目的達成の見通しは立たず、「手詰まり状態」です。

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トランプ大統領と最高指導者ハメネイ師、妥協を拒む両国のトップが退場するまで、対立と緊張の緩和は期待できないという見方が広がっています。しかし、このまま放置するのは、非常に危険です。

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イラン国内では、制裁によって、人々の暮らしが著しく悪化しています。ロウハニ大統領に代表される「穏健派」の発言力が弱まる一方、最高指導者直属の精鋭部隊である革命防衛隊など「保守強硬派」の発言力が強まっています。
今年5月以降、ペルシャ湾とその周辺で、アメリカとイランの軍事的な緊張が高まっており、誰も意図しない偶発的な形で武力衝突が起きる危険性が指摘されています。すでに起きたような、タンカー、航空機、石油施設などへの攻撃が、大きな衝突に発展する事態だけは、何としても防がなければなりません。
あわせて、「核合意」の崩壊を避けることも重要です。そのためには、イランの指導部や国民に、「核合意」を完全に守らせる十分な動機を与える必要があり、経済の柱である原油の輸出の道を確保することは差し迫った課題です。

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■こうした中、日本政府は、先月、日本の船の安全を確保することを目的に、オマーン湾など中東の海域に自衛隊を派遣する検討に入りました。イランの立場に配慮して、ペルシャ湾、及び、ホルムズ海峡への派遣や、トランプ政権が主導する、いわゆる「有志連合」への参加は見送るとしています。「イラン包囲網」を築く狙いが窺える「有志連合」からは距離を置く判断です。

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もし、ペルシャ湾一帯で、軍事衝突が起きる事態となれば、この地域にエネルギーの大部分を依存する日本の経済は立ち行かなくなります。それだけに、日本としては、革命後も維持してきたイランとの良好な関係を最大限活用して、緊張を和らげ、核合意を守るための外交努力を、粘り強く続けることが大切だと考えます。

(出川 展恒 解説委員)

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