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「どうなるトランプ再選~2020年アメリカ大統領選挙」(時論公論)

髙橋 祐介  解説委員

来年のアメリカ大統領選挙まで1年を切りました。トランプ大統領がめざす再選への道筋は、どこまで確かなものでしょうか?激しさを増す戦いの行方を展望します。

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ポイントは3つあります。

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▽まず、議会による大統領の弾劾に向けた調査をめぐる攻防で、どんな影響があるか?
▽次に、政権奪還をめざす野党・民主党で、誰がトランプ大統領の挑戦者になりそうか?▽そして、前回3年前の大統領選挙から、今回は何がどう変わるか?です。

「民主党は弾劾に名を借りて国民をペテンにかけている!」そう憤るトランプ大統領は戦闘モード全開です。大統領がウクライナへの軍事援助の見返りに、民主党のバイデン前副大統領と息子を調査するよう求めたとする疑惑をめぐり、共和・民主両党は真っ向から対立。民主党が多数を占める議会下院は、大統領の弾劾に向けた調査に関する決議案を賛成多数で可決しました。アメリカは「政治の季節」に突入したのです。

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各種の世論調査では、弾劾調査を支持する意見が反対を上まわっています。しかし、政党別に見てみると、共和党支持層の圧倒的多数は反対しています。トランプ大統領の支持率と同様に、大統領が弾劾に値するかどうかも、党派の違いで賛否が割れているのです。
大統領の弾劾訴追には下院で過半数、罷免には上院で3分の2の賛同が必要です。このため、民主党が多数を占める下院で、トランプ大統領は弾劾訴追される可能性がありますが、共和党が多数を占める上院で、罷免される可能性はほとんどないでしょう。

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では、ペロシ下院議長ら民主党指導部は、なぜ弾劾を敢えてめざすのか?理由はふたつ考えられます。ひとつは、国民に見せる形で疑惑を追及し、トランプ再選に逆風を吹かせること。もうひとつは、民主党内で大統領の弾劾を求めてきた左派からの突き上げを党勢拡大につなげる狙いがあるのでしょう。

しかし、共和党に話を聞くと、「民主党の目論見とは逆に事態は動く」と主張します。共和党にトランプ離れの兆候はない、むしろ党利党略で政治をかく乱する民主党への反発で結束し、再選に追い風が吹くと言うのです。

似た例は過去にありました。民主党のクリントン元大統領が下院で弾劾訴追され、上院で罷免を免れたケースでは、当時の野党・共和党は、中間選挙で苦戦し、投票日直前に弾劾調査に踏み切った下院の議席を減らしたのです。弾劾は、大統領にふさわしいかを問う選挙ではなく、法律に基づいて大統領を罪に問えるかの裁判です。民主党にとって、トランプ大統領の弾劾は、再選を助けかねない“危険な賭け”になるかも知れません。

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民主党は、ここで攻勢を強め、政権奪還への機運を盛り上げたい事情もあります。誰がトランプ大統領に挑むのか?候補者選びが“本命不在”の混戦だからです。

民主党の「特別代議員」と呼ばれる幹部らは、前回ヒラリー・クリントン氏を予め本命候補とみなしましたが、若い党員らは猛反発。そこで今回から制度を見直し、一般党員による予備選挙の投票で、最も多く得票した人物を、原則として大統領候補に選ぶ仕組みに変えました。このため、緒戦のアイオワ州の党員集会まで3か月を切った今も、突出した候補がいないのです。

目下の支持率トップは、バイデン前副大統領(76)です。民主党内では穏健な中道派、政治キャリアは半世紀近くに及びます。「オバマ前大統領と一緒に、白人労働者や黒人からも支持されたバイデン氏ならトランプ大統領にきっと勝てるはず」そうした期待の声を集めます。ただ、大統領選挙に過去3回挑戦して失敗し、失言癖やセクハラ疑惑、最近はウクライナ疑惑でも、共和党から格好の攻撃の的になっています。

2位で追うウォーレン上院議員(70)は、連邦破産法を専門とするハーバード大学の元教授。党内左派から支持を集めます。「資本主義のゆがみを正す」として、富裕層への増税や巨大IT企業の解体、国民皆保険や高等教育の無償化などを訴えます。大胆ですが左派に偏った主張は、党内の中道派やウォール街の献金者から強く警戒されています。

3位のサンダース上院議員(78)は高齢と健康不安から、前回ほど勢いがみられません。
最年少のインディアナ州サウスベンドのブティジェッジ市長(37)は緒戦のアイオワに照準を絞る“ダークホース”。ハリス上院議員(55)も地元カリフォルニアで逆転を狙いますが、伸びシロは未知数です。

「どの候補も決め手を欠く」として飽き足らず、“完璧なカリスマ登場”を夢見る今の多くの民主党員を、ある民主党幹部は「幸せの青い鳥を探してさまよう童話の主人公のようだ」と評します。そんな民主党を尻目に、トランプ大統領は、現職の強みを活かし、共和党の支持固めを着々と進めています。

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ただ、動かし難い変化の兆しもあります。そのひとつが、有権者の世代交代です。前回の大統領選挙は、長年社会の中枢を担ってきた「ベビーブーマー」とそれ以前の世代が、後の世代を投票数で初めて下まわる歴史的節目でした。両者の差は来年さらに開くでしょう。

とりわけ、21世紀に成人した「ミレニアル」と呼ばれる以降の世代が、来年は有権者の4割を占めるとも予想されています。そうした若者層は、前の世代より政治的にリベラル化する傾向にあります。このため、若者層の投票率次第では、年齢層が高い保守派を支持基盤とするトランプ大統領は、不利になりかねないのです。

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前回トランプ候補は赤色で示した州を制し、人口に応じて州ごとに割り振られた選挙人の数で民主党クリントン候補を上まわりました。きわめて効率的な勝ち方が出来た原動力は、中西部の「ラストベルト」と呼ばれる各州を軒並み競り勝ったことでした。
ところが、去年の中間選挙で共和党は「ラストベルト」の多くの州で苦戦しています。トランプ大統領が来年もすべて再び勝てるか判りません。
                     
しかも、人口が全米2番目に多く、「共和党の牙城」と言われてきた南部テキサスが、来年は激戦州になるかも知れません。経済が著しく成長し、不動産価格や税金も安く、仕事や暮らしやすい環境を求めて、「民主党の牙城」である都市部から移住者が相次いでいるからです。
こうした「サンベルト」と呼ばれる各州は、ヒスパニック系の人口増加もあって、政治的な地殻変動が起きつつあるのです。もしトランプ大統領がテキサス州をひとつ落としたら、それだけで勝敗はひっくり返ります。再選への道筋は、決して楽勝ではありません。

トランプ大統領は、そんな現状の危うさを知っているからこそ、民主党からの攻勢をかわすため、一層なりふり構わない政権運営を進めていくでしょう。トランプ大統領が再選をめざす来年のアメリカ大統領選挙は、波乱含みで始まっています。

(髙橋 祐介 解説委員)

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