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「日本スポーツ界 新たなる潮流」(時論公論)

刈屋 富士雄  解説委員

10月も残りあとわずか、今年のスポーツの秋はラグビーのワールドカップで全国的な盛り上がりを見せ、来年2020年の東京オリンピック・パラリンピックへとつながっていきそうです。
その日本のスポーツ界で、今新しい流れが急速に広まっています。
今日の時論公論は、2020年東京大会を前に、日本スポーツ界で顕著になってきた新しい流れについて考えます。

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解説のポイントですが、
① アーバンスポーツやサーフィンの広がり
② 若者に人気のスポーツで町おこし
③ 「あるなら使おう」

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来年の東京オリンピックの新種目、アーバンスポーツやサーフィンなどの急速な広がりとその特徴について整理します。
アーバンスポーツというのは、スケートボード、スポーツクライミング、自転車のBMXフリースタイルなど若者に人気のある都市型スポーツです。
そのアーバンスポーツなどを中心とした町おこしが、今いろんな所で始まっています。
そして、その新しい潮流が今後確かな流れになるために必要な「あるなら使おう」というキーワードについて考えていきたいと思います。

2020年東京大会の大きな柱の一つに若者参加があります。
その狙いから、若者に人気のアーバンスポーツなどが追加競技や新種目として加わりました。
そのアーバンスポーツを一堂に集めたフェスティバルが、広島で去年から開かれています。自転車でアクロバティックな技を競うBMXフリースタイルや曲芸的な多彩な技を競うスケートボードなどが選手観客一体となった熱気の中で行われました。
第2回の今年の観客は10万3千人。その内10代が29%を占め、女性の比率も41%と、若者や女性の割合が高くなっています。
来年は15万人以上を目標にしています。

このアーバンスポーツの特徴は、これまでの日本のスポーツ界の、部活やスポーツクラブなどをスタートにしたいわゆるピラミッド型に当てはまらないところです。
一人ではじめられる。いつ始めても、いつやめても、いつ再開してもOK。
環境や指導者を自ら選ぶ。他のスポーツとのかけもちが容易。生活の中に溶け込んで、生涯続けられる。頂点はプロまでつながっている。
街中で行う。広いスタジアム、アリーナが要らないなどの特徴を持っていて、2020年以降の日本のスポーツ界の大きな流れの一つになると見られています。

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その特徴に目をつけて、アーバンスポーツやサーフィンを軸に町づくりを進めているところが、全国に続々と出てきました。

神奈川県寒川町(さむかわまち)。周りを茅ヶ崎市、平塚市、藤沢市、海老名市に囲まれ、認知度の向上と若者離れに歯止めをかけることを長年の目標としてきました。そこで若者をターゲットにアーバンスポーツを軸に町づくりをしようと、BMXフリースタイルやスケートボード、ブレイクダンスなど路上で行うスポーツの世界大会を招致しました。3日間で、人口4万8千人の町に2万5千人の観客が訪れました。若者だけではなく年配の夫婦など幅広い年齢層に、町の担当者は驚いたとの事です。

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一方、ひとつの種目に絞って町づくりを始めた例を3つご紹介します。

新潟県村上市が注目したのはスケートボードです。
冬のオリンピック・スノーボードで②大会連続銀メダル、スケートボードでも来年のオリンピックに挑戦する平野歩夢選手の出身地です。
今年の4月、国際大会にも対応できる屋内の「村上市スケートパーク」を建設しスケートボードを軸にした町づくりを始めました。5月には全日本選手権も行われ、週一回の教室も毎回定員40名は満員。土日には、東京や東北からも選手が訪れるということです。

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埼玉県小鹿野町(おがのまち)は、スポーツクライミングを軸に町づくりを始めました。昔から秩父の山並みを利用したロッククライミングの名所でしたが、東京オリンピックの正式種目なったのを機に、プロクライマーを観光大使に招き、来年4月に室内クライミング場をオープン。スポーツクライミングの町としてPRしていく予定です。

サーフィンを軸に町が大きく変わっているところがあります。
千葉県一宮町(いちのみやまち)。東京オリンピックのサーフィンの会場になったのを機に、これまで都心に住んで週末サーフィンに通っていたサーファーに、町に定住して、都心の職場に通うライフスタイルをPR、移住者が増えました。今年の4月から移住してきた家族の中で、アンケートの回答があった112家族の内、実に36,6%が、サーフィンをする為に引っ越してきたと答えました。サーフィンを生活の中心にすえる家族の増加とともに、町が活性化しつつあります。

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これらの町づくりの例に共通することは、手軽に始められて、若者はもちろん生涯スポーツとして幅広い年齢層にアピールするスポーツの中から、町に合った種目を選んでいる点です。

比較的簡単に始められることから、急速に広がりを見せスポーツ界の新たなる潮流となっているわけですが、それが今後確かな流れになるための最大の課題は、持続性です。
2020年に向かって次々と施設が作られ、東京大会が終了するとともに使われなくなってしまうことの無いように。
過去のいくつかのオリンピックで大会後使われない施設は、「負の遺産」とよばれていますが、この新しいスポーツの流れもそうならないように、どう持続させ発展させていくかが大きな問題です。

そのためのキーワードは「あるなら使おう」という精神だと思います。
例えば、これまで閑散としていたスタンドを、新しい発想で熱気あふれる異空間に変えた例があります。

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場所は福井県営陸上競技場。桐生選手が日本人初の9秒台を記録したことを記念して、9.98スタジアムと呼ばれています。
ここで、8月に開かれた「アスリート・ナイト・ゲームズ・イン・フクイ」。
国内のトップアスリートを招いた陸上の競技会ですが、目指したのは選手観客一体となって楽しむライブ感あふれる大会です。
選手への賞金などもネットの寄付で集めました。
その熱気の中で、男子走り幅跳びで27年ぶりに日本記録が更新されました。このスタジアムは記録が生まれるというイメージが定着し、今後益々発展していきそうです。

さらにもう一つ、持っている広大な土地を、スポーツで活性化させ地域に貢献しようと、大規模な開発を進めている例です。

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東京の立川市。立川飛行機を前身とする地元の企業。立川市のど真ん中に、東京ドーム21個分の土地を保有しています。
スポーツを軸にした再開発に取り組み、ドームやアリーナさらに広大な砂地を作り次々とスポーツイベントを招致しました。
しかしここが今最も注目されている理由は、北中南米のアメリカ大陸41の国と地域の国内オリンピック委員会の集合体、パンアメリカンスポーツ機構と契約し、およそ20の国と地域のチームを、東京オリンピックに向けての事前キャンプとして受け入れることです。
この会社を中心に立川市や周辺の大学などと連携して、宿泊先や練習会場などの面倒をみようという大プロジェクトです。
地域の子供たちとの交流や多彩なスポーツイベントの施設など、大きなレガシーを残しそうだと期待を集めています。

今日見てきた日本スポーツ界の新たなる潮流は、「やってみよう、無ければ作ろう」という気軽なスポーツとのかかわり方からスタートし急速に広がっていることです。
これが確かな流れになるためには、「あるなら使おう」という持続性だと思います。

オリンピックの成功例と言われている2000年のシドニー大会は、大会直後郊外に作られたオリンピックパークは、稼働率が低く「負の遺産」と言われました。
しかし、市民が「あるなら使おう、使うなら住もう。」と町が出来ていき、稼働率が上がっていきました。
シドニー大会が誰もが認める成功という評価を得たのは、10年後だったといわれています。

「あるなら使おう」という精神で、新しい潮流が確かな流れとなれば、2020年以降の日本のスポーツ界は、より豊かな文化へと変わっていけると思います。

(刈屋 富士雄 解説委員)

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