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「関電金品受領問題 今後の調査の焦点は」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

関西電力幹部が原発の地元有力者から多額の金品を受け取っていた問題で、第三者委員会が今週初会合を開き、本格的な調査を開始。
この問題では先週、八木会長らが引責辞任に追い込まれたが、辞任で幕引きというわけにはいかない。
金品のやり取りは20年以上前からあったことが明らかになるなど問題の根はかなり深い。今後の調査の焦点について水野倫之解説委員の解説。

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第三者委員会は元検事総長の但木敬一氏を委員長に4人。関電の社内調査のメンバーは半数が関電の役員で、調査の甘さが指摘。
これに対し今回は4人とも検察官などを経験した社外の弁護士で、独立性という意味では高まったといえる。
今週非公開で初会合を開き、但木委員長は「徹底した真相究明から出発しようということで一致した」とのコメントを発表。

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その調査の焦点は大きく2つ。
関電から地元業者への便宜供与が本当になかったのか。
どこまで根深い問題なのか。の2点。

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1点めの便宜供与。
この問題では八木前会長と岩根社長ら20人が、高浜原発のある福井県高浜町の森山元助役から3億2000万円の金品を受け取っていた。
資金の出どころは関電から原発関連の工事を請け負っていた町内の建設会社で、元助役に3億円が渡り、元助役はこれを原資に関電の幹部らに金品を渡していたことが税務調査で判明。原発マネーが還流し、業者への便宜供与があったのではないか。
関電はこれまで、儀礼の範囲以外は森山氏に返そうとしたが、恫喝されるなどしたため返せなかったと釈明。なので金品は受け取ったのではなくあくまで預かったものだと、関電は被害者だと言うような主張を展開。
ところがこの主張は崩れる。

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金品の中には儀礼の範囲とは言えない1着50万円のスーツの仕立券も含まれていたが、八木前会長を含め受け取って仕立てていたケースが多くあった。
森山氏は助役時代に高浜3、4号機の誘致や建設に大きな役割を果たしたとされており、関電にとってみればお世話になった恩人。このためその後も原発の稼働などで協力を得たいと考えたとしても不思議ではない。
また関電の報告書が指摘するように元助役にとってみれば関電幹部との関係を続けることで自らの力を誇示することもできるわけで、お互い持ちつ持たれつの構図が。

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ほかにも便宜供与を疑わせる事実。
幹部が建設会社から直接金品を受け取っていた。
福島の事故以降は原発再稼働が経営の最重要課題。
関電はこの間の6年で、地元の建設会社に、64億円余りの原発関連工事を発注。関電は「発注プロセスは社内ルールにのっとっており違法性はない」と便宜供与を否定。ただその後原子力本部の幹部を務めた豊松元副社長ら3人の幹部が、元助役からではなくこの建設会社から直接、一着50万円のスーツ仕立券などを受け取っていた。
その提供の場には元助役も。
元助役には工事の概算額が事前に提供されていたこともわかっており、建設会社が直接渡した金品はその見返りだった とも考えられる。

原発再稼働には地元の了解が必要。しかし関電にとってみれば、地元の理解を得ることイコール、地域の有力者頼みで進めることだったのではないか。
今回本当に業者に便宜を図ったことがなかったのか、調査の最大の焦点。

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焦点の2つ目。
関電の社内調査は多くが税務調査と同じ過去7年分。
ところが調査対象とならなかった原子力部門の元幹部が、1990年代に元助役から金品を受け取っていた。
また高浜町の隣町にある大飯原発でも元幹部が1990年代に元助役から20万円分の商品券を渡されていた。この元幹部は商品券に2割ほど上乗せし返したというが、その後大飯原発の工事で自身が関係する高浜町の建設会社の受注回数を増やすよう暗に求めてきたということで、拒んだものの恫喝された。
このように金品のやりとりが20年以上前から複数の原発を舞台に行われていたことがはっきりしたわけで、いつから始まりどこまで広がっていたのか明らかにできるかも注目点。
ただ第三者委員会に強制的な権限はない。しかし今回の金品は、もとをただせば消費者が払った電気料金なわけで、ことの重大さを考えれば関電の社員やOBは当然、工事を請け負った建設会社も含め、関係者全員が調査に真摯に応じなければ。

さらに今回のような問題が本当に関電だけの問題なのか、原発を所有するほかの大手電力はどうなのかこの際はっきりさせておかなければならない。

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というのも今のところ再稼働した原発は3社の9基ですが、ほかのすべての大手電力と日本原子力発電、それに電源開発が、再稼働や稼働を目指しているから。
特に今回のように電力会社と特定の業者の間に特別な関係ができてしまうと、例えばその業者の技術レベルに問題が見つかったとしてもその関係を断ち切れず、ずるずると契約を続けて、結果として原発の安全性を損なうことも考えられる。
これまでに全ての電力会社が、似たような事例はなかったというが、例えば九州電力では調査対象は現役の幹部社員にとどまっているなど、多くの電力会社で調査の範囲は限定的。
政府はまずは各社に対し、過去に原子力本部にいた社員やOBまで範囲を広げた調査を行わせて、その内容を政府としてしっかりチェックしていかなければ。
また経済産業省からも職員が高浜町に出向していた。経産省自身もこうした職員が元助役と面識があったのか、今回の問題を把握していなかったのかを調査しなければ。

(水野 倫之 解説委員)


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