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「共通テスト英語問題 拡大する反発」(時論公論)

西川 龍一  解説委員

来年度から始まる大学入学共通テストに導入される英語の民間検定試験を巡る混乱が続いています。4月の試験開始が迫る中、未だに試験の日程や会場が確定しないことに加え、試験結果の利用を明らかにしていない大学が多くあるためです。高校側の不安は大きく、全国高等学校長協会は民間試験導入の延期と制度の見直しを文部科学省に要望する異例の事態です。
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大学入学共通テストは今の大学入試センター試験にかわって来年度から導入されます。1回目のテストは、2021年1月に実施されます。導入の目的は、1点刻みの入試問題ではなく、知識を活用し自ら判断する力を測ることとされてきました。そのためにセンター試験と違う形式で行われることになったのが、▽国語と数学にマークシートに加えて記述式の問題を導入すること、▽英語で「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能を評価することの2つの大きな改革点です。具体的には、国語と数学にはそれぞれ3題の記述式問題を出す。そして英語の4技能を測るのは6つの民間事業者による検定試験を利用する。ただし、共通テストの中で「読む」「聞く」の2技能に特化したマークシートの試験も当面残し、大学の判断でどちらを課すか決められるようにしました。
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しかし、そもそも2つの大改革には双方に実施に向けて大きな課題が残されているとの指摘が当初からありました。とりわけ今、高校や最初の受験年次となる今の高校2年生から不安や不満の声が広がっているのが英語を巡る混乱です。どういうことなのか。
大学入学共通テストに向けた英語の民間試験は、すでに持っている級などとは関係なく新たに受ける必要があります。実施年度初めの4月から12月にかけて行われる試験を2回まで受け、そのいずれかの結果をもとに換算されたスコアを、大学入試センターを通して大学に提供する仕組みです。つまり、1回目の共通テストを受ける場合の民間試験の実施時期は来年4月から。すでに開始まで半年を切っているのです。それにも関わらず、いずれの民間試験も試験の日程や会場がいまだに確定していません。大学入試センターと事業者側との協定の締結に予想以上の時間がかかったためです。
さらに文部科学省が先月末の時点で、全国1068の大学や短大に調査した結果、民間試験の結果を活用するところは561校と率にして52%あまりでした。増える可能性はありますが、学部によって使う使わないはまちまちなど、複雑です。
進学を希望している生徒にしてみれば、志望する大学のために自分が受けなければならない民間試験そのものが確定しないうえ、その試験をいつどこで受けられるのかもわからないという異常事態です。これでは、不安や不満が高まるのも無理はありません。
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そもそもなぜ、英語は民間試験が使われることになったのでしょうか。今回の大学入試改革では、大学入試を変えることで高校の授業を変え、学力の底抜けを防ぐということが声高に言われてきました。こうした中で英語に関しては「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能の重要性が改めて指摘されました。今の高校の学習指導要領では、英語の授業は基本的に英語で行うことになっています。しかし、そうした授業を行っていない高校が少なくないという実態があります。生徒1人1人に英語の4技能が身につくような授業を行うためには、大学入試で4技能を適正に評価することが必要という結論になったのです。とはいえ50万人が一斉に同じ問題に取り組むセンター試験で、「話す」技能を測ることは今の技術では不可能です。そこで高校生にも馴染みがある民間試験を利用することになったわけです。あるものは活用するという発想ですが、公式に入試に組み込む際の制度設計は可能なのかという議論が後回しにされたことが、今の混乱につながった形です。こうした流れは、政府の教育再生実行会議の提言を受けて行われた文部科学省の有識者会議で決められた経緯があります。文部科学省には不安や不満を収める大きな責任があります。
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文部科学省は、8月になってホームページ上に特設のサイトを開き、こうした情報の提供を始めました。「不安解消のため、大学に対して結果の活用について速やかに報告を求め、一刻も早い公表に努めていきたい」としていますが、遅れの原因はどこにあるのでしょうか。萩生田文部科学大臣は、今月1日の記者会見で高校生が民間検定試験導入を念頭にすでに準備を進めていることを理由に「当初の予定通り2020年度から導入する」考えを示しました。一方で、「初年度はいわば精度向上期間だ。」とも述べました。この発言には「お試し期間で利用させるのか」という当事者からの反発の声も聞かれます。高校生にとっては受験年度を自由に選ぶことは難しいだけに、切実な問題です。
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一方で、民間の検定試験には国が制度として入試に使うとする以上、守られなければならないことがあります。公平公正の担保です。この点はどうなっているのでしょうか。
まずは、公平面です。受験機会の公平さをどう確保するのか。受験料がかさむことになることや地域によっては交通費の負担も大きな問題です。ある検定試験は全国180エリアに複数の会場を設置するとしています。それでも地域によってばらつきが残る上、都市部以外では試験会場を展開しないとする事業者もあります。
試験の最中に何らかのトラブルが発生したり、地震などによって会場にたどり着けなかったりした場合の救済策の問題もあります。文部科学省は一義的には実施団体に委ねるという立場ですが、入試という位置付けである以上、一定の救済策は必要です。
まだ予定が決まっていない部活の大会などが申し込み後に決まった場合や、地方から県大会、全国大会への勝ち進んで受けられなくなってキャンセルせざるを得ない場合はどう対処するか。学校行事ともからみ、高校生活最後の1年間が民間試験に振り回されることへの懸念もあります。
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公正面はどうでしょう。民間の検定試験は、これまで高校の教室を会場として教職員が試験の監督や採点業務を担うケースが多くありました。これでは入試の公正が保てないため、文部科学省はこの点には待ったをかけています。そうなると事業者は自前で監督や採点者を確保しなければなりません。文部科学省は事業者が大学入試センターと交わした協定の中で、採点の質の確保のための研修等を徹底することになっていると言います。責任を丸投げした形です。
さらに試験を行う一部の事業者の中には本番対策として模擬テストを実施したり対策本を出版したりするなど学校現場に試験対策の営業活動をする動きもあります。文部科学省は、事業者側は担当部署を分けるといった対応をしていて問題はないという立場ですが、大学入試の公共性という観点から疑問視する専門家もいます。
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以上、指摘しただけでも英語はこれだけの課題を抱えています。大学入試が大きく変わる場合には2年程度前には予告を公表することが原則とされてきました。ある高校の校長は、「今この時点で英語の検定試験をやめることになれば混乱は避けられないが、このままの状態で本番を迎えればさらに大混乱となることは目に見えている」と指摘しています。今こそ受験生ファーストの対応が求められています。

(西川 龍一 解説委員)

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