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「大規模停電から災害弱者を守れ」(時論公論)

松本 浩司  解説委員

大規模な停電を引き起こした台風15号の上陸からまもなく1ヵ月になります。この災害では長期間の停電で特に病院や高齢者施設などが厳しい状況に追い込まれ、熱中症によると見られる犠牲者も出てしまいました。災害による大規模停電が繰り返されるなか、入院患者や施設の高齢者などの命を守るにはどうしたらよいのかを考えます。

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解説のポイントは
▼停電で命が脅かされた状況と
▼患者・入所者をどう支えたのかを見たうえで
▼停電災害への備えを考えます。

【停電で脅かされた命】
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先月9日の台風15号による記録的な強風で千葉県を中心に2200棟以上が全半壊し93万戸が停電する大きな被害がでました。電柱など送電施設が広い範囲で被害を受けたため復旧に時間がかかり、ほぼ解消するまでの日数は、去年の北海道のブラックアウトが2日、関西を直撃した台風21号が5日だったのに対し、今回は12日もかかり、影響が長期間に及びました。

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特に深刻な影響を受けたのは病院や高齢者施設などです。厚生労働省によりますと64の病院、155の高齢者施設などが停電しました。施設内のポンプが止まり断水が起きたほか、浄水場が停止して災害拠点病院に水が送られてこなくなるという想定外の事態も起きました。非常用自家発電設備がなかったり、あっても備蓄燃料が少なかったりした施設では電気で命をつないでいる患者が危機に瀕したほか、多くの施設でエアコンが使えなくなり熱中症の症状を訴える人が相次ぎました。

【患者・入所者をどう支えたのか】
病院や施設への支援はどう行われたのでしょうか。
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医療機関への支援は国の災害派遣医療チーム=DMATが中心にあたりました。DMATは病院ごとに医師や看護師など5人前後でチームを作り災害時に派遣されるもので、今回は135チームが活動しました。
千葉県庁に本部、県内4カ所に活動拠点を設け、さまざまな医療団体や専門ボランティアも加わりました。被災地の病院に応援の医師や看護師、コーディネーターを派遣したほか、停電と断水で危険な状態になった2つの病院の入院患者などおよそ200人を、自衛隊の協力も受けて被災地域の外の病院に避難させました。

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DMATが今回、特に力を入れたのが情報収集と電源車などの手配でした。連絡が取れない病院にはスタッフを派遣して発生当日のうちにほぼすべての病院の状況を把握しました。そして電源車や燃料などが必要な病院の優先順位をつけたリストを作り、国などに派遣を要請しました。その結果、25の病院で電源車が必要とされましたが、台風から4日目までには必要な車や燃料が届けられました。入院患者の受け入れ先の調整など課題もありましたが、病院で犠牲者は出ませんでした。

一方で高齢者施設などについては組織的に支援をする仕組みがなく、対応が遅れました。

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千葉県君津市の特別養護老人ホームでは停電と断水になりエアコンも使えなくなりました。厳しい暑さが3日間続き、職員たちは湧き水をポリタンクに汲んで3階まで上り下りを繰り返しました。濡れたタオルでお年寄りの体を冷やすほか、水分を摂ることを控えないようトイレの水を確保するためです。それでも熱中症の症状で熱を出すお年寄りが相次ぎ、このうち82歳の女性が救急搬送先の病院で亡くなりました。

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高齢者施設などの情報は市町村や県が情報を集めて国に電源車を要請しましたが、通信が途絶して時間がかかったほか、東京電力が当初、「短期間で停電が解消する」と発表したため電源車の要請が遅れたケースが少なくありませんでした。
国が全体像を把握できたのは4日目。56施設が電源車を必要としていましたが、確保できたのは14台だけでした。君津市の特別養護老人ホームも電源車を要請していましたが届いておらず、5日目に入所者が亡くなりました。結局、電源車が行き渡ったのは8日目のことでした。

【停電災害にどう備える】
台風や豪雨、地震で大規模な停電が発生するケースが相次いでいて、気象現象は温暖化でさらに激しくなると指摘されています。どう備えたらよいのでしょうか。

電柱の地中化をはじめ停電を起こさないことが重要ですが、そうした抜本対策には時間がかかります。今回、復旧になぜ、こんなに時間がかかったのか、電源車の配備やそもそも保有台数などは適切だったのか、国と電力会社には検証と体制強化が求められます。

一方、利用者の側、特に弱者を預かる病院や社会福祉施設なども自家発電設備など自衛策を考える必要があるでしょう。

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災害のときに中核になる災害拠点病院には自家発電設備の設置が義務付けられていて全国736の病院すべてが備えています。しかし求められる3日分の燃料の確保ができていない病院が125ありました。
一方、病院全体で見ると自家発電設備などを持っていない病院が全体の7パーセントにあたる500余りあります。
さらに高齢者施設については自家発電設備などのない施設が34%を占めています。
国は自家発電設備への補助を高齢者施設などに続き一般病院にも広げる方針で、整備を急ぐ必要があります。

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また災害のときには燃料の確保が大きな問題になります。多くの都道府県が石油事業者に組合などと協定を結んでいますが、横浜市は特に市内の医療機関に最優先に燃料をまわしてもらうよう組合と具体的に取り決めています。複数の入手ルートを確保し訓練をしている病院もあります。燃料を確保する工夫と準備が求められています。

一方、今回の大規模停電では在宅で人工呼吸器を使っている難病患者への支援の問題点も浮かび上がりました。
千葉県いすみ市に住むデビッド・マークさんは全身の筋肉が次第に動かなくなる難病を患い、人工呼吸器で命を守られています。今回の台風による停電で妻のひろみさんが往復2時間半かけて病院から発電機を借りて命をつないでいました。しかし燃料がなくなって買いに行ったところガソリンスタンドには車の長い列ができていました。なんとか手に入れて家に戻ったときバッテリーはわずか3時間しか残っていませんでした。デビッドさんは「死を覚悟した」と言います。

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災害が起きたときに病院が非常用の発電機を貸し出す仕組みが一般的ですが、普段から貸与している市もあり取り組みを広げるべきだと思います。
また厚生労働省の検討会は在宅で人工呼吸器を利用している難病患者について市町村が個別の支援計画をつくることを求めていますが、計画づくりは進んでいません。専門家は「個別支援計画づくりを急ぎ、長期の停電も想定した燃料の確保や病院への事前の避難など対応を見直す必要がある」と話しています。

【まとめ】
最近の災害では直接被害に加えて、大規模停電で社会の脆弱性、弱いところがあぶりだされています。さらに今回はこれまでになく長期にわたったことから課題がより明瞭に浮かび上がるかたちになりました。停電リスクの軽減はもとより、非常電源と燃料の確保や広域的な救援体制のあり方など、弱い立場の入院患者や高齢者、在宅難病患者などの命を守るための備えを点検し、一層推し進めることが求められています。

(松本 浩司 解説委員)

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