NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「臨時国会召集 論戦の焦点は」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員

10月4日、第200臨時国会が召集されました。
安倍総理大臣にとっては、自民党総裁の残る任期が2年を切る中で、迎える国会となり、野党側にとっては、衆議院の任期の折り返しを迎え、衆議院選挙を意識する中での国会です。
今国会の焦点について考えてみたいと思います。

j191004_01.jpg

【安倍首相 任期最長に】

j191004_02.jpg

安倍総理大臣は、冒頭の所信表明演説で、「現状に甘んずることなく、教育、働き方、社会保障、我が国の社会システム全般を改革していく」と決意を示しました。

j191004_03.jpg

安倍総理大臣の在任期間は、11月20日、桂太郎・元総理大臣を抜いて、憲政史上、最長となります。このまま、任期満了となる再来年の9月30日まで務めれば、在任期間は、3500日を超え、前人未到の長期政権となります。
戦後、在任期間が長かった総理大臣を見てみますと、沖縄返還を実現したほか、ノーベル平和賞を受賞した佐藤栄作氏。サンフランシスコ平和条約と日米安全保障条約を締結し、終戦後の日本を国際社会に復帰させた吉田茂氏。北朝鮮を訪問して、拉致被害者の帰国を実現したほか、郵政民営化を推し進めた小泉純一郎氏。国鉄や電電公社の民営化など行政改革で大きな足跡を残した中曽根康弘氏などです。
安倍総理大臣は、今後、否応なしに、後世からの実績の評価を意識しながらの政権運営を迫られることになり、今回の国会は、こうした状況で幕をあけたことになります。

【臨時国会 焦点】

j191004_04.jpg

では、与野党は、それぞれ、この国会にどう臨もうとしているのでしょうか。
国会の会期は12月9日までの67日間です。
与党側が重要視しているのは、さきに合意に達した日米貿易協定を承認する議案と、憲法改正のための国民投票法改正案の2つで、特に、この国会で、憲法改正論議がどこまで進むのかが焦点です。
一方、立憲民主党や国民民主党などは、国会の会派を合流させてこの国会に臨んでいて、野党側が存在感を示すことができるかが焦点です。
では、それぞれについて、見ていきたいと思います。

【日米貿易協定 承認は】

j191004_05.jpg

政府・与党が重視している、日米貿易協定の承認を求める議案は、9月、両国の間で最終合意に達したもので、日本が農産品の市場開放に応じる一方、アメリカは、協定の履行中は日本車への追加関税を発動しないことなどを主な内容としています。

j191004_06.jpg

協定をめぐって、政府は、農業分野では、交渉の防衛ラインと位置付けていた関税の引き下げ幅をTPPの水準に抑えることができたとしています。さらに、自動車の関税をめぐっても、アメリカ政府との間で、追加関税を発動しないことを確認できたとしています。ただ、こうした説明に対して、アメリカは追加関税というカードは手放しておらず、日本に譲歩を迫ってくるおそれも残っているという指摘があります。国会では、野党側がこうした点をただすことになりそうです。

j191004_07.jpg

政府が、この国会で承認を目指すのは、協定を早期に発効させ、アメリカのトランプ大統領が、年明けから始まる大統領選挙で、市場開放を実績としてアピールできるようにするためといわれています。
アメリカの事情に配慮するあまり、曖昧な決着になっていないのかという疑問に、政府が説得力をもって答えられるかがポイントです。

【北朝鮮情勢】
さらに外交面では、北朝鮮情勢もテーマとなる見通しです。

j191004_08.jpg

北朝鮮は、10月2日、弾道ミサイルを発射し、日本の排他的経済水域内に着弾しました。それにも関わらず、アメリカのトランプ大統領は、非難せず、北朝鮮と協議を行う考えを示しました。これでは、北朝鮮に、アメリカが弾道ミサイルの発射を容認したと受け取られかねません。弾道ミサイルはアメリカにとっても安全保障上の脅威です。米朝の協議が進もうとしている中、安倍総理大臣が、トランプ大統領をどう説得し足並みをそろえていくかも、国会審議で問われるものとみられます。

【憲法論議の行方】
そして、与党側が、この国会で最も重視する法案は、去年から継続審議となっている国民投票法改正案です。憲法改正の是非を問う国民投票の利便性を高めるため、投票所を駅の構内などに設置できるようにすることなどを内容としています。

j191004_09.jpg

自民党は、この国民投票法改正案を成立させたうえで、党がまとめた、「自衛隊の明記」など4項目の条文案を提示したい考えです。
これに対し、野党側は、立憲民主党と国民民主党が、国民投票に伴うテレビ広告の規制の議論を優先すべきだという立場で、安倍総理大臣の下での憲法改正に警戒しています。
また、日本維新の会は、憲法改正に前向きですが、共産党は、憲法改正に強く反対しています。

自民党が、いまの国会で、改正の中身の議論まで行いたいとするのは、今後の政治日程が背景にあります。

j191004_10.jpg

総裁任期を迎える再来年・2021年には、夏に、連立を組む公明党が重視する東京都議会議員選挙が予定されています。公明党は、その準備のために、憲法改正の国民投票を再来年に行うのは避けたいのが本音です。
安倍総理大臣が、いまの任期の中で憲法改正を実現させようとすれば、勝負の年は来年ということになります。
実際に発議が行われれば、国民が憲法に関して初めて投票で意思を示すことになる、憲政史に残る出来事です。
改正案のとりまとめは数国会かけるべきだという意見もあることから、安倍総理大臣としては、是が非でも、今の国会で足掛かりをつくっておきたいところです。
それに向けて安倍総理大臣は、衆議院の憲法審査会長に、野党側とのパイプがある佐藤勉・元国会対策委員長を、また党の憲法改正推進本部長に、公明党とパイプがある細田博之・元幹事長を起用しました。
今の国会で、自民党が、実質的な議論まで、こぎつけることができるのか、憲法審査会の運営をめぐる与野党の攻防が注目されます。

【野党4党派 会派合流】
一方、野党側では、立憲民主党や国民民主党など4党派が、会派を合流させ、臨時国会に臨むことになりました。これによって、衆議院では120人、参議院では61人の会派となり、ようやく政権に対峙できる布陣を整えたことになります。

j191004_11.jpg

立憲民主党は、ことし7月の参議院選挙で、比例代表の得票が、2年前の衆議院選挙から、およそ300万票減りました。ほかの野党と手を結ぶことを決断した背景には、野党側がまとまって、安倍政権に対峙していかなければ、国民の期待が離れ、次の衆議院選挙は戦えないという危機感があったものとみられます。

j191004_12.jpg

野党側は、事前に質問内容をすり合わせて、軽減税率の導入によって、混乱が生じていないかや、台風15号の被害をめぐり、政府の初動対応に問題はなかったのかなどについて、政府を追及していくことにしています。また、関西電力の経営幹部が多額の金品を受け取っていた問題についても質疑が行われる見通しです。
ただ、両党は、参議院のポストをめぐる協議が整わず、開会初日、参議院側は、本会議を前に別々に議員総会を開くなど、早くも内輪もめが露呈しています。まとまって「安倍1強」と言われる政治状況に風穴をあけることができるのか、野党側の動きにも注目したいと思います。

【まとめ】
安倍総理大臣は、この国会で、在任期間が最長を迎えます。
これまで進めてきたアベノミクスは成功したと評価するべきなのか。ロシアとの関係で打ち出した新しいアプローチはどのような効果があったのか。憲法改正に向けた国民の機運は高まっているのか。
安倍総理大臣が、さらに政策を進めていくためにも、この節目の国会では、法案審議に加えて、こうした、より俯瞰した議論も求められていると思います。

(梶原 崇幹 解説委員)

キーワード

関連記事