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「建国から70年 中国の行方は」(時論公論)

加藤 青延  専門解説委員

中国はきょう、建国から70年の節目を迎え、北京では大掛かりな軍事パレードが行われました。一方、香港ではこれに抗議するデモが行われ、中国が抱える課題の一端も浮き彫りになりました。そこで、建国70年を迎えた中国のこれまでと、今後の展望を考えてみたいと思います。

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【V:軍事パレード】
北京の天安門周辺で行われた軍事パレードには、およそ1万5千人の兵士が参加。過去最大規模になりました。パレードにはアメリカのほぼ全域を射程に収める新型の大陸間弾道ミサイル「東風41」や、極超音速兵器「東風17」などの最新兵器も次々と登場しました。
【V:習近平国家主席演説一言】
「いかなる勢力も偉大な祖国の地位を揺るがすことはできず、中国人民の前進の歩みを妨げることはできない」

習近平主席はこのように述べ、中国の力強い発展に自信をのぞかせました。
確かにこの70年で、中国は、格段に強くそして豊かになったといえるでしょう。しかしその間、中国が歩んできた道は、波乱に満ちていたと言えるのではないかと思います。
中国の過去70年は、大きく分けて3つの区切りに分けられます。

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1949年の建国から最初のおよそ30年は、建国の父、毛沢東氏の時代。権力を巡る政治闘争がさかんでした。集団で大規模農業を行う人民公社の建設や、紅衛兵と呼ばれる若者たちが暴れまわった文化大革命などの大混乱で、経済は低迷しました。その後の30年あまりは、改革開放の時代になりました。「白猫でも黒猫でもネズミを捕るならいい猫だ」と語った現実主義者の鄧小平氏の下で、外資を積極的に導入し、経済の高度成長を成し遂げました。しかし政治面では、中国共産党の独裁体制にこだわり、建国40年目にあたる1989年には、民主化運動を武力弾圧する天安門事件を引き起こしました。
そして2012年、鄧小平氏に指名されていない初のリーダーとして習近平氏がトップの座に就くと、習近平氏は、「中華民族の偉大な復興」を旗印に、「強い中国」を演出。野心的ともいえる成長目標を掲げました。

習近平主席は、自らの統治する時期を、さかんに「新しい時代」と呼ぶようになりました。
つまりそれは、これまではおとなしくしていたが、これからは強気で世界に打って出るという意思表示として受け止められました。実際、中国の国際的な影響力の拡大は近年著しいものがあります。

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例えば、習近平国家主席は、就任直後の2013年に、陸と海のシルクロード、「一帯一路」という巨大な経済圏構想を打ち出しました。当初は、中国とヨーロッパとを結ぶ、ユーラシア大陸横断の経済圏構想と見られた一帯一路も、去年からは、北極海や中南米・カリブ海地域にまで拡大し、自らがイニシアチブを握る、この巨大経済圏構想の版図に組み入れたのです。
習近平政権はまた、影響力拡大の範囲を、宇宙空間やインターネット空間、さらには最先端の技術開発の分野にまで拡大し、そこで新たに生み出した技術や製品を、一帯一路の経済圏に浸透させ始めているのです。
これに強く反発したのがトランプ大統領というのが、今、米中の間でエスカレートしている対立の構図だと言えそうです。

つまり、中国の近年の影響力拡大は、これまで世界を牛耳ってきた超大国アメリカの地位や権益を脅かし、さらには取って代わる勢いを持ち始めたと言えるのです。
では中国は、アメリカを上回り、世界一の超大国になれるのでしょうか。
私は、現在の中国には二つの顔がある。つまり、二つの側面から見なければ正確にその地位をとらえられないのではないかと考えます。

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一つの顔は「強い中国」。日本を抜き世界第二のになった「経済大国」としての中国。新たな移動体通信の技術5Gや中国版GPSなど最先端技術を手にした「技術大国」。そして、今日の軍事パレードでも誇示されたように、着々と増強され実力をつけている「軍事強国」。
習近平政権が一時期盛んにもてはやした「すごいぞ我が国」という宣伝映画のような側面です。
一方、中国にはもう一つの顔、「まずい中国」という側面もあると思います。まず第一に、中国はまだ発展途上国に過ぎない事。確かに経済規模は世界第二位ではありますが、それは14億人も人がいるからにほかなりません。一人あたりのGDPで見るなら、中国はおよそ1万ドル。世界の順位で言えば70位程度にすぎないのです。しかも、習近平政権による中国共産党の事実上一党独裁体制は、近年ますます専制的な色彩を帯びています。言論の自由はもちろん認められず、党や政府を批判した多くの人たちが政治犯として捕まっています。

これは、自由主義の世界から見れば、暗黒政治であるかのように思えてしまいます。そしてもう一つ注目すべきは、中国が抱える人口問題です。

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こちらは、中国の人口の割合を年齢別に積み上げた、いわゆる人口ピラミッドの図です。
建国直後の1950年は、子供の数が非常に多く、年齢が増すごとに次第に数が減る、きれいなピラミッドの形をしていました。

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ところが50年後の2000年になりますと、悪名高い強制的な一人っ子政策もあって、若い年齢の人口は増えず、いわゆる釣鐘のような形になりました。

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そしてここから先は、あくまで予測ですが、このままで行くと、今後30年後の2050年には、俗にいう「棺桶型」になり、非常に多くの高齢者を、少ない若者たちが支える最悪の形になると予想されているのです。

その時には、60歳以上の人口が5億人にもなるとされ、高齢者のケアをどうするのか、予測もつかない事態が待ち構えているのではないでしょうか。そのような将来が今後ひしひしと迫り始める中、果たして、中国の強権支配体制はいつまでも続くのでしょうか?

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現在の習近平政権は、習近平国家主席に全ての権力を集中させ、その習主席を側近が取り巻く専制的な政治体制となっています。国民の暮らしは確かに豊かになっていますが、常に当局によって監視され、中国共産党を公然と批判することは許されません。密告も奨励され、気の知れあった仲間同士でも、うっかり口を滑らせれば何が起こるかわからない。そのような社会に、中国の人々が心底満足しているのかどうかが気がかりです。

言論の自由が保障されている香港では、建国70年の記念日の1日も、中国共産党の支配に反対する抗議デモが起きて、警官隊と激しく衝突しています。
【V:香港デモ】
現地からの情報では、デモの参加者は数万人にのぼり、各地で警官隊と衝突。これまでにデモの参加者51人がケガをし、このうち実弾で撃たれるなどした2人が重体だということです。まさに中国建国の日に起きた悲劇に、香港の人たちの憤りはさらに高まるかもしれません。

習近平政権はいま、対外的には、経済や安全保障をめぐりアメリカと対立する一方、国内では、経済成長の鈍化や香港問題など、まさに内憂外患に直面しています。このあと今月に開催が予定されている中国共産党の中央委員会総会で、全国から集まる中央委員たちが、習主席が進めてきた内政や外交をどう評価するのか、習近平政権にとっては、建国70周年というきょうの節目の後に、もう一山、乗り越えなければならない難しい政治の舞台が待ち構えていると言えます。

(加藤 青延 NHK専門解説委員)

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