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「ラグビーワールドカップ アジア初開催の意義」(時論公論)

西川 龍一  解説委員
小澤 正修  解説委員

ラグビーワールドカップ日本大会が始まりました。今月20日に行われた開幕戦で、日本はロシアを破って初戦を勝利で飾りました。今夜は、スポーツ担当の小澤解説委員とともに、ラグビーの強豪国以外で、そしてアジアで初めてとなるラグビーワールドカップ開催の意義について考えます。

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【西川】ラグビーワールドカップは、日本が開幕戦でロシアを破り、4トライ以上で加算されるボーナスポイントも獲得して目標のベストエイト進出に向けて幸先よいスタートを切るなど、きょうまでの5日間で48試合のうち9試合が行われました。私は、この土日、横浜でのニュージーランド対南アフリカなど2試合を観戦しましたが、スタジアムは海外からの観戦客で熱気にあふれ、さながら海外のスタジアムにいるかのような雰囲気でした。
ラグビーワールドカップの第1回大会が行われたのは1987年。今回が9回目です。サッカーに比べるとそれほど歴史がある大会ではありません。それが今や、夏のオリンピック、サッカーワールドカップとともに世界3大スポーツイベントと言われる一大スポーツイベントです。
今回の日本大会は、アジアで初めての開催です。これまでは、イギリスやニュージーランドなど、ラグビー強豪国と言われる国で北半球と南半球で交互に行われてきました。
小澤さん、なぜ今回、強豪国以外での開催が実現したのでしょう?

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【小澤】日本でのラグビーワールドカップの開催は、ラグビーを世界やアジアに広げることに大いに貢献するという考えがラグビーの国際統括団体である「ワールドラグビー」加盟国に受け入れられたことがあります。元々ラグビーの国際試合、いわゆるテストマッチは、国や地域同士がお互いに遠征し合って対戦するのが基本でした。しかし、ワールドカップの開催によって、前回大会では250万人に迫った入場者数や、全世界でのテレビ中継など、興行的な価値が高まるようになり、選手のプロ化も進んだことで、よりマーケットを広げることの重要性が認識されるようになりました。

【西川】それだけに、日本大会が成功裏に終わるのかは世界のラグビー関係者が注目しています。きょうまでに9試合、いずれもスタンドがほぼ埋まったことは、日本大会関係者にとっても朗報です。
小澤さんは今回の大会には、ほかにどんな意義があると考えますか?

【小澤】アジア初開催の意義のひとつに、この競技が社会の多様性を反映するスポーツであることへの理解があげられると思います。ラグビーは、選手たちが激しく体をぶつけながらボールを奪いあう荒々しさがありますが、団体スポーツの中では1チームの人数が非常に多い15人であり、またその中でもポジションごとに求められる能力が異なって、選手に体格差があっても。みずからの能力をいかすことができるスポーツでもあります。また多様性の反映という観点では、選手の国籍に限らず、今現在プレーしている地域はどこか、所属するラグビー協会を基準に、その地域の最高のプレーヤーを集めて代表チームを編成するという「協会主義」と呼ばれるあり方が、最も大きいのではないかと思います。

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【西川】19世紀初めにイギリスで生まれたラグビーで、こうした制度ができたのは、競技の普及のために出身地を離れて、別の国や地域でプレーするイギリス人がいたからだと言われています。継続してその地域に居住し3年以上が経過していることなどが条件になっていますが、世界的にこうした外国出身の選手がいるチームは珍しいことではありませんよね。

【小澤】前回大会ではウェールズやスコットランドといったラグビー発祥の地、イギリスのチームですら10人以上の外国出身選手が代表となるなど、ラグビーでは多くのチームが、多様な文化を背景に持つ選手で構成されています。今大会の日本代表は、31人中、外国出身の選手が15人と、半数近くを占め、過去最多となりました。国別では7つの、いわば多国籍チームです。日本の文化を学ぶことや、経済的に豊かな国でのプレーを希望したことなどを理由に来日し、ラグビーをプレーする中で日本への思いが強くなって、出身国・地域の代表に選ばれなくなることを承知で、日本代表として大舞台に出場することを望んだ選手ばかりです。こうした外国出身の選手たちは、キャプテンのリーチ マイケル選手を中心に、日本の歴史についても、ミーティングで勉強を重ねました。特に日本が古くから外国文化を取り入れて成長していったことをとらえ、「我々のチームも同じだ」として、日本代表を背負う責任や重さを共有したのです。こうして異なる文化を背景に持つ選手どうしがともにプレーし、勝利を目指す歴史を紡いできたのがラグビーです。

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法務省によりますと、日本に住む外国人の数は、去年末で過去最多のおよそ273万人と、第1回のラグビーワールドカップが開かれた32年前から、3倍以上にも増えました。来年の東京オリンピック・パラリンピックでも国籍や人種をこえて多様性を認める共生社会を目指すことがうたわれていますが、まずは今大会で、社会の多様性を反映した日本代表のありかた、そしてラグビーという競技そのものについて理解することが、アジアで初のワールドカップ開催の大きな意義だと思います。

【西川】そのことが、なぜ今、多様性、ダイバーシティが重要なのかを知ることにもつながります。そしてワールドカップは、北海道から九州まで全国12の会場で44日間にわたって試合が行われるため、各国のチームが開催地以外の各地でもキャンプ地として滞在します。こうした地域では、チームと地元の人たちの交流やおもてなしが選手たちの心を捉えることに早くも成功しています。
開幕直前の今月16日、北九州市のスタジアムで行われたヨーロッパの強豪ウェールズの公開練習は、練習にも関わらずスタンドは1万5千人のファンで埋まりました。そして、選手たちの入場に合わせて、ウェールズの応援歌などを歌って歓迎しました。これには、主力選手が「信じられないほど素晴らしいサポートだ」とツイートしたほか、ウェールズラグビー協会が「何よりもこれを見て欲しい」と映像付きでツイッターに投稿しました。

【小澤】こうした歓迎に向けた取り組みは、まさにラグビーという競技の理念につながるものだと思います。ワールドラグビーは、「品位・情熱・結束・規律・尊重」の5つをラグビー憲章として掲げ、ルールブックの最初に記載しています。「品位は誠実さとフェアプレーによって産み出され、文化的、地理的、宗教的な相違を超えた忠誠心へとつながる一体的な精神をもたらし、チームメイト、相手、マッチオフィシャルを尊重することが最も重要」だとしています。ラグビーと言えば「ノーサイドの精神」、つまり試合が終われば互いにたたえ合うということが知られていますが、ひとたび試合会場を離れたら、お互いに交流するというラグビーの伝統は、この競技の柱とも言えます。試合の結果はもちろん大きく注目されますが、大切に守られてきたラグビーの価値を、今大会でより多くの人に理解してもらうことができれば、日本社会に大きな影響を与えるのではないでしょうか。。

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【西川】日本代表は、今度の土曜日28日に世界ランキング2位のアイルランドとの対戦を控えています。ラグビーでは、観客席はひいきチームとは無関係となっているため、会場ではお互いのサポーターが隣り合って応援することになります。その際、相手チームであっても素晴らしいプレーには拍手を送り合うことがラグビー文化とも言われています。このあと40日間の熱戦が日本代表だけでなく、すべてのチームをサポートすることの意義を考えるきっかけとなり、日本のスポーツ文化そのものの発展にもつなげて欲しいと思います。

(西川 龍一 解説委員 / 小澤 正修 解説委員)

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