NHK 解説委員室

これまでの解説記事

「介護保険制度20年目の課題」(時論公論)

堀家 春野  解説委員

時論公論、今回のテーマは、スタートから20年を迎える介護保険制度です。8月末には制度の見直しに向けた議論も始まりました。

j190916_01.jpg

【解説のポイント】。
解説のポイントは3つ。

j190916_02_.jpg

▽介護にかかる費用が増え続ける中その負担をどうするのか。▽深刻な人手不足への処方箋はあるのか。そして、▽介護離職が相次ぐ中待ったなしの介護と仕事の両立について考えます。

【“介護の社会化”目指しスタート】。
2000年にスタートした介護保険制度。多くの民間事業者が参入し、サービスの提供を始めました。それまで家族だけが担っていた介護を社会全体で担う、“介護の社会化”を目指したのです。「これで家族の負担がようやく軽減される」。制度への期待は大きいものでした。

j190916_03.jpg

介護保険を運営し、責任を持つのは住民に身近な市町村です。財源は税金と保険料が半分ずつ。65歳以上の人の保険料は年金から天引きされ、40歳から64歳までの現役世代も保険料を負担します。加えて高齢者はサービスを利用した際、かかった費用の原則1割を支払うしくみです。当時、政策の立案者が最も懸念していたのが「保険あってサービスなし」。つまり、広く保険料を集めるのに使えるサービスがない状態にならないかということです。だからこそ民間事業者に広く門戸を開き、介護の必要度が比較的軽い人もサービスが使えるしくみにしたのです。

【膨らみ続ける介護費用】。
それからおよそ20年。いま広がっているのは制度への期待ではなく危機感です。

j190916_04.jpg

介護費用は増え続け11兆円と当初の3倍以上に。2040年には25兆円を超えると推計されています。これからは医療よりも介護の費用の伸びの方が大きいのです。費用の増加に伴い保険料も上昇しています。65歳以上の保険料の全国平均は月に5800円余りと、当初の2倍に上り、2040年には9200円に達すると推計されています。

【どうする“負担”】。
介護保険制度の見直しに向けた議論の柱のひとつが、増え続ける負担をどうするのか。つまり高齢者であっても負担する力がある人にはより負担してもらえないかということです。この中では、介護サービスを利用した際の自己負担が論点としてあがっています。

j190916_05.jpg

介護保険制度では、保険料とは別に、サービスを利用した際、かかった費用の原則1割を負担します。例えば、訪問介護を受けたときの料金は1回につき2480円。このうちの248円を支払います。しかし、4年前には一定以上の収入がある人はその割合が2割になり、去年からはさらに収入の多い人は3割になりました。この対象者を広げるのかどうかが議論される見通しです。では負担が増えたことでどのような影響があったのか。厚生労働省の補助事業で行われた調査ではサービスの利用を中止したり減らしたりした人は、いずれも1%余り。影響を受けた人数が少ないので対象者を広げてもいいのではないかといった声も聞こえてきます。しかし、重要なのはどのような影響を受けたのかということ。サービスの利用を控えることで本人の状態が悪化していないか、家族の介護負担が重くなっていないかということです。中には負担が重くなったので歩行器のレンタルサービスを使う回数を減らしたという人がいました。外出が少なくなり身体機能が低下してしまうといった懸念もあると感じます。介護は治療が終わったら支払いが終わる医療とは異なり生活を支援するサービスが続く限り負担も継続します。負担する力がある人には負担してもらうという考えは理解できますが、影響をきちんと分析した上で議論することが必要ではないでしょうか。

j190916_06.jpg

【どうする人手不足】。
介護保険制度を維持していくために不可欠なのは財源の問題と合わせて人手不足への対応です。団塊の世代が全て75歳以上になる2025年にはいまよりさらに55万人の介護職員が必要だというのです。政府は10月の消費税の引き上げで介護職員の処遇を改善することにしていますが、「他の産業でも人手不足なのに介護の分野に集まるのか」。こうした懸念が出ています。

j190916_08.jpg

特に、これから深刻なのが高齢者の人口が増える都市部です。そのうちのひとつ、横浜市は75歳以上の高齢者が58万人と10年間で1.4倍に上ると見込まれています。いま市が率先して行っているのが外国人の確保です。ベトナムと中国の都市や大学などと提携し、インターンとして市の介護施設で学生を受け入れることになりました。市が家賃などを補助し、困りごとの相談や生活支援も行います。ただ、高齢化と人口減少が進んでいるのは日本だけではありません。他の国との人材の奪い合いがすでに起きています。では、外国人に、そして日本人にも介護現場を選んでもらうにはどうすればいいのか。いま現場で始まっているのが、新しい技術を導入し職場の環境を抜本的に変えることです。

j190916_09.jpg

例えば、▽センサーを使って高齢者を見守り職員のスマートフォンに異変を知らせる。常に見守る必要が無くなり人手を省けるといいます。このほか、▽リフトを使い入浴支援の負担を軽くするといったことも行われています。こうした試みは現場の忙しさを和らげ、質の高い介護につながる可能性を秘めています。人手不足を補う特効薬はありませんが、処遇の改善に加え、外国人や元気なシニアに介護現場で働いてもらう。新たな技術の導入を国主導で行う。あの手この手の対策を急ぐほかありません。

【どうする“介護離職”】。
最後に、誰にとっても介護は他人ごとではない“大介護時代”を考える上で欠かせないのが介護と仕事の両立です。介護離職した高志直全さんです。実情をしってほしいとこの番組にお便りをくれました。高志さんは98歳の母親と2人暮らし。デイサービスやショートステイを使いながら、自宅ではひとりで食事や排泄などの介助を行っています。高校の教師だった高志さん。定年後も再任用で教師を続けていました。しかし、自宅から離れた高校に転勤になったのをきっかけに介護との両立が難しくなり去年、退職しました。高志さんは介護に配慮してほしいと裁判に訴えましたが1審2審ともに、可能な限りの配慮はされているとして敗訴しています。高志さんのように介護離職する人は年間およそ10万人。一旦仕事をやめると再就職は難しく、経済的に厳しい状況に置かれる人も少なくありません。政府は希望する人は70歳まで働けるようにしようと考えています。そうなると介護をしながら働く人はさらに増えていくとみられます。育児と仕事の両立支援は徐々に進んできていますが、介護については遅れています。介護をしながら仕事をするということは特別ではないと社会全体で共有した上で、一定期間、転勤や配置に配慮するなど介護離職を無くすための環境整備は待ったなしです。

j190916_10.jpg

介護保険制度がスタートしてから20年。費用が膨らみ続ける中痛みを伴う改革の議論は避けては通れません。過度な負担になり過ぎないか目配せを怠らず、そして介護保険制度だけでなく働き方を見直さなければ“大介護時代”は乗り切れないと強調しておきたいと思います。

(堀家 春野 解説委員)

キーワード

関連記事