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「福島廃炉への課題解決を急げ」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

福島第一原発廃炉の最難関となる 溶けた燃料と構造物が混ざった燃料デブリの取り出しは、2年後に2号機から始まる見通しに。技術的な検討を進めてきた国の機関が計画をまとめて今週政府に提出し、今後政府・東電は工程表を改定して準備を本格化させる。
ただ取り出しには多くの困難が待ち受けているほか、取り出し開始前には汚染処理水の処分の見通しをつける必要もあり、課題は山積。

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▽なぜ2号機から取り出しを始めるのか
▽デブリ取り出しの困難さとは何か
▽そして汚染処理水の処分をどうするか
以上3点から、福島廃炉への課題について水野倫之解説委員の解説。

福島の事故からきのうでちょうど8年半。
政府と東電が掲げる最長40年で廃炉を完了させるという工程の5分の1以上の時間がすでに過ぎたことに。しかし廃炉全体の成否を左右する燃料デブリの取り出しは、強い放射線に阻まれ、いまだ着手できず。

この取り出しについて政府に技術的な助言をする原子力損害賠償・廃炉支援機構が検討を進め、「2021年からまず2号機で取り出しを行うのが適切だ」とする計画をまとめ、今週政府に提出。

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2号機から取り出しを始める理由については、
▽格納容器内の調査がほかの号機より進み、状況が最もわかっていること、
▽作業員が入るエリアの放射線量が毎時5mSvと、ほかの号機の半分以下で被ばくを抑えられることなど。

事故では1号機から3号機の3基で核燃料が溶けて原子炉から格納容器に落ち、構造物と混じり合ったデブリとなって残された。
ただ容器内は放射線が極めて強く人が入れないため、デブリがどこにどれだけあるのかわからず。
そこで政府と東電はロボットで調査を行い、今年2月、2号機で燃料デブリとみられる茶色い小石状の塊を機器で動かせることを確認。
3号機でもデブリのような堆積物は見つかっていますが性状はわからず、1号機では全くデブリは確認できていないことから、2号機から行うという今回の計画は、妥当な判断。

では強い放射線を放つデブリをどうやって取り出すのか。

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当面は格納容器の側面の直径数十㎝の作業用の穴から伸縮式のアームでロボットを原子炉の下に送り込み、ロボットはさらに格子状の床の隙間から格納容器の底へと降りて。
そしてまずは小石状の動かすことができるデブリから取り出すことが検討。

ただこうした工法は世界でも初めて。慎重に行わなければ作業員の被ばくなどのリスクが高まることにもなりかねず。
というのもこうした核燃料を扱う作業は、放射性物質の飛散や強い放射線を遮る効果が高い水を張って行うのが原子力の常識。
同じようにメルトダウンを起こしたアメリカ・スリーマイル原発事故でも原子炉に水を張って取り出し。
これに対して福島の場合は、容器が損傷していて修復できず水をためることは困難なため、空気中で取り出さざるを得ない。放射性物質の飛散や放射線をどう防いで安全に作業を進めることができるかが今後の大きな課題。
東電は容器の穴の外側に機密性のある区画を作って、遠隔操作でデブリを容器に封印することで被ばくを抑えることを検討。原子力規制委員会もこうした工法を厳しくチェックして、作業の安全確保に万全を期さなければ。

ここまでデブリ取り出しの困難さを見てきたが、その取り出しをする前に決めておかなければならない重要な課題も。
増え続ける放射性のトリチウムを含む処理水の処分の問題。

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取り出したデブリには寿命の長い放射性物質が含まれているため、安定化して地下に最終処分することが考えられている。福島県は県外での処分を求めていますが、どこにどうやって最終処分するかの議論は全く進んでいない。
このため取り出したデブリは当面は原発敷地内で保管する必要。
政府と東電は警備上の都合や、仮にまた津波に襲われても問題がないように建屋近くの高台で保管したい。
しかしそこはすでに処理水のタンクでいっぱい。
このため処理水を処分してタンクを除去し、そこに一時保管したいわけ。

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汚染水は今も毎日170tずつ増え続けており、浄化しても取り切れない放射性のトリチウムを含む処理水はすでに115万t超。
政府は基準以下に薄めて海に放出したり、大気中に蒸発させる、さらには地下に閉じ込めるなどの処分方法を検討。全国の原発で普段から基準以下に薄めて海に放出していることもあって、海洋放出が有力視。
しかしこれには本格操業の再開を目指す福島の漁業者が風評被害を懸念して強く反対。今週も退任直前の原田前環境大臣が私見だと断りながらも「海洋放出しかないというのが私の印象だ」と述べ、反発がさらに強まっている。

また輸出規制で日本と対立する韓国がIAEAに深刻な憂慮を伝えるなどしたため、日本政府は科学的ではないと抗議。在京の各国大使館向けに説明会を開いて、処分方法の検討状況を説明するなど対外的な情報発信も。

こうした中政府はあらたに、大型のタンクに置き換えるなどして処理水を数十年長期保管することも検討することを、処分方法を議論している専門家会合に示した。
長期保管できれば漁業への影響を抑えられるし、トリチウムの放射能も徐々に減っていく。

ただ東電はこの長期保管に否定的。
あと3年で敷地内にタンクの設置場所がなくなるとしているほか、近くの福島第二原発など今の敷地以外に持って行って保管するにも輸送手段がないなどとその理由を説明。

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ただ東電はデブリの保管場所など具体的な情報は示していない。
また隣接地を取得して敷地を広げて保管することについても、東電は「不可能ではないが、現在の敷地内で取り組みたい」と説明するなど、本当にタンクの置き場所が無くなるのかまだあいまいな点が多く。
政府・東電はまずはこうした点についてきちんと根拠を示し、専門家会合で信頼ある検証をしていくことが求められる。

(水野 倫之 解説委員)

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