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「G7サミット開幕 存在問われる会議に」(時論公論)

梶原 崇幹  解説委員

ことしのG7=主要7か国首脳会議は、8月24日に、フランス南西部のビアリッツで開幕します。
今回で45回目となるサミットですが、日本政府の関係者は、今回は、不透明感が強く展開が読み切れないとして、「結果次第では、存在意義が問われることになる」と述べるなど、危機感をもって臨んでいます。
議論の行方を展望しながら、その背景を探ります。

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不透明感が強まっている状況の伏線は、去年カナダで開かれたサミットにあります。

写真撮影のときこそ、首脳同士は和やかな雰囲気でしたが、会議では、貿易をめぐって、トランプ大統領とほかの首脳との間ではげしいやりとりが行われました。

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これは会議終了後、公開された写真です。ヨーロッパの首脳が、アメリカのトランプ大統領に詰め寄るように立つ中、安倍総理大臣がその様子を心配そうに伺っています。
実際、会議では貿易をめぐって、トランプ大統領が感情的に自らの主張を展開し、関係者は、「これまでに見たことのない光景だった」と振り返っています。一時は、首脳宣言の公表が危ぶまれましたが、トランプ大統領が、安倍総理大臣に、「言うことに従うから、まとめてくれ」と発言し、調整が進んだということです。
首脳宣言を出せなければ、G7の機能不全が明確になり、影響力の低下が避けられなかっただけに、かろうじて体面を保った形です。

(今回のサミット、テーマは?)
このように去年のサミットが大荒れとなっただけに、行方が注目される今回のサミット。どのようなテーマが話し合われるのでしょうか。

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議長を務めるフランスのマクロン大統領は、「不平等との闘い」などを新たなテーマに設定しています。しかし、これは富裕層を優遇し、格差問題に十分に取り組んでいないという国内での批判を意識したものだと受け止められています。
やはり議論の中心は、今回も世界経済・貿易と安全保障、環境問題などです。

世界経済や安全保障をめぐり、日本政府の関係者は、これから年末にかけて、いくつかの大きな波があり、「サミットは非常に重要なタイミングで行われる」と話しています。

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1つ目の波としてあげられるのは、アメリカと中国との間の貿易摩擦です。アメリカは、9月1日と12月15日の2段階に分けて、中国からの3000憶ドルの輸入品に10%の関税を上乗せする措置を発動するとしています。発動されれば、中国からの輸入品のほぼすべてに高い関税が課せられることになります。
世界経済の減速につながりかねないと、懸念が高まっていますが、自国第一主義を掲げるトランプ大統領は強気な姿勢を崩していません。

2つ目は、10月末に期限が迫っているイギリスのEU離脱です。仮に、合意なき離脱となると、イギリス経済に大きな影響を与えるだけでなく、国際的なサプライチェーンの混乱などが懸念されています。合意なき離脱も辞さない姿勢を示すイギリスのジョンソン首相とほかのヨーロッパの首脳との間で意見が対立しています。

3つ目は、12月10日以降、「自由貿易の番人」ともいえる、WTOの紛争解決のシステムが機能しなくなるかもしれないことです。アメリカは、中国の国有企業への補助金問題などにWTOが有効に機能していないと不満を募らせていて、上訴審である上級委員会の委員の任命を拒否しています。12月10日に委員2人が任期満了を迎えると、残る委員は1人だけとなり、新たな審理を行うことはできなくなります。
ルールにもとづく貿易体制を揺るがす事態で、トランプ大統領の姿勢にほかの首脳は批判的です。

さらに安全保障でも大きな波が待ち受けています。
緊迫するイラン情勢です。
アメリカは、核合意から一方的に離脱し、有志連合の結成を働きかけるなど、イランへの圧力を強めています。
これに対抗してイランは、9月上旬以降、ウラン濃縮活動のさらなる強化に踏み切る構えを見せています。イラン側は、「濃縮度を20%以上に引き上げることも選択肢」としており、そうなると核兵器転用への前進と受け取られかねません。
これまでフランスやドイツは、アメリカと一線を画して、核合意の枠組みを維持すべきだとしてきましたが、イランがこうした措置に出れば、緊張はさらに高まることが予想されます。

このように今回のサミットは、重要な局面を前に行われますが、多くのテーマで、トランプ大統領とほかの首脳との立場の違いが鮮明になっています。

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こうした状況を受けて、議長を務めるマクロン大統領は、国際社会へのメッセージとなってきた「首脳宣言」を出さない方向で調整を進めています。去年のように、文書のとりまとめでもめる状況を避けたいという狙いがあるものとみられます。しかし、日本政府によりますと、議長宣言が出されなければ、サミット45回の歴史の中で初めてのことで、G7の協調体制が崩れたと受けとられかねません。日本政府の関係者が、強い危機感を持つのは、こうした背景があります。

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G7内の亀裂が深まる中、経済的な意味でもG7の存在感は低下してきています。

GDPでみると、1993年には、G7のシェアは世界のGDPの7割近くを占めていました。しかし、2005年には6割を切り、今では40%台半ばまで落ちています。
一方、中国やブラジルなどブリックスと呼ばれる新興5か国のGDPは、93年には世界のGDPのわずか6%ほどでしたが、いまや2割を超えるまでになっています。
G20サミットが注目を集める背景はここにあります。
今後、国際政治の主導権はG7からG20へとシフトしていくのでしょうか。

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政府関係者は、こうした見方に否定的で、G20がG7にとってかわることはできないと話しています。
G7は、自由、民主主義、法の支配といった基本的な価値観を共有し、幅広い分野で世界をリードしてきた国々の枠組みです。
G20は、政治体制や経済規模がばらばらな国々が参加しています。結論は、総論的なものにとどまりがちです。

政府関係者は、今回のサミットで求められているのは、▼世界経済・貿易をめぐっては、実体経済の減速をもたらすことがないよう、G7が連携していくこと、WTOの紛争解決機能が失われないよう必要な措置をとること、また、▼安全保障をめぐっては、イラン情勢がこれ以上緊迫しないよう、関係国が自制する必要性を確認することだとしています。

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日本政府は、アジアは、今後、世界経済をけん引していく地域となる一方、摩擦や紛争が起きかねない不安定さももっていて、秩序ある発展には、G7の枠組みが引き続き重要だとしています。
きょうも韓国が、軍事情報包括保護協定=GSOMIAを破棄することを決め、日米韓の連携への影響が懸念されています。安倍総理大臣は、サミットで、北朝鮮情勢をめぐり、各国が足並みをそろえて対応する重要性を訴えることにしています。

今回で8回目のサミット出席となる安倍総理大臣は、トランプ大統領やほかの首脳とも良好な関係を維持し、直前のG20大阪サミットでは議長を務めた実績があるだけに、今回は、意見を求められる機会も多いとみられています。こうした機会を生かして、マクロン大統領やほかの首脳に、議長宣言でないにしても、なんらかの強いメッセージを発信するよう働きかけてほしいと思います。

今回のサミットは、正念場となりますが、こうした時こそ、G7の首脳が知恵を出し合って結束を維持し、底力をみせることを期待したいと思います。

(梶原 崇幹 解説委員)

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