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「急増する長期収容 高まる批判にどうこたえるか」(時論公論)

二村 伸  解説委員

日本からの退去を命じられ法務省の入管施設に収容されている外国人が、1年以上、人によっては2年、3年と長期にわたって収容されるケースが急増し、抗議のハンガーストライキが各地の収容施設に広がっています。長崎県では、ハンストで命を落とす人も出ています。収容期間の長期化は人権侵害だといった批判の声が内外で上がり、政府はこの問題への対応を迫られています。

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きょうは、▼収容が長期化している実態と、▼なぜ長期化しているのか、その背景、▼そして長期収容の問題点について考えます。

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これは、東京出入国在留管理局に収容されている外国人の収容期間を示したグラフです。
東京港区にある東京入管は、主に短期収容者を対象としていますが、1年以上にわたって収容されている人が3年前は6人だったのが、今年5月の時点で110人にまで増えています。かつては収容期間は長くても半年ほどでしたが、去年末には全国で収容されている外国人およそ1250人のうち55%が半年以上収容されている人たちでした。茨城県牛久市にある東日本入国管理センターではその割合が9割にも上っています。収容期間がこれほど長期化しているのはかつてなかったことです。

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そもそも入管に収容される外国人は、在留資格を持っていなかったり、資格の更新が認められなかったりしたため不法滞在となり、日本から退去を命じられた人たちです。退去を命じられた人の多くは自費で速やかに出国していますが、問題は、祖国に戻れば身の危険にさらされかねないという人や、10年も20年も日本で暮らし、送還されれば妻や子供と引き離されてしまうという人など、国に帰ることのできない事情を抱えた人たちです。東京入管では収容されている人の4割が難民認定の申請者や難民認定をめぐって裁判で争っています。
ことし4月には、長期収容されているスリランカやガーナ、イランなどの出身者7人が東京地方裁判所に訴えを起こしました。また、各地の入管施設で収容の長期化に抗議のハンガーストライキを行う人が相次ぎ、牛久の東日本入国管理センターではこれまでに100人以上がハンストに参加しました。6月には長崎県大村市の大村入国管理センターで、今年の春からハンストを行っていた40代のナイジェリア人男性が体調を悪化させて命を落とす事態となりました。男性は日本国籍を持つ子供の父親でした。このほか、ハンストで体調が悪化して仮放免、一時的に収容を解かれたものの1、2週間後に理由も告げられずに再び収容されるケースも相次いでいます。

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法務省は、退去を命じられた人は速やかに本国に送還する方針で、退去を拒む人がいるために収容が長期化しているとしています。
一方、日本弁護士連合会は今月8日、会長声明を発表し、必要性や相当性のない収容をやめるとともに、再び収容された人を速やか仮放免するよう要請しました。東京弁護士会も「収容は強制送還の準備のためだけに認められたものであり、長期収容は憲法上問題がある」として、「人間の尊厳を踏みにじる収容を止めるよう求める」という声明を出しています。しかし、その後も状況は変わっていません。

【VTR:デニズさん】 
先週、東京入管を訪れたトルコ出身の男性を取材しました。3年以上収容されハンストで健康を害して今月初めに仮放免され、更新手続きのために来ましたが、この2週間、再び収容されてしまうのではないかと不安で安心して眠ることができなかったといいます。男性はクルド人のため祖国での弾圧を恐れ、12年前に来日してまもなく難民の申請をしましたが、認定はされませんでした。日本人の妻がいて、「また一緒に食事をしたいが、何年たったらここから出ることができるのか、私には未来が見えません」と涙ながらに話していました。入管では3畳ほどの部屋に1人入れられ、自殺を考えたこともあるということです。結局、男性は入管の建物から出てくることはありませんでした。

なぜ、収容期間が長期化しているのか、被収容者の弁護団は、2015年以降法務省が、仮放免の運用を厳しくしたことや、難民認定の申請者や不法滞在者の取り締まりを強化したことが背景にあるのではないかと話しています。

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これは3年前に当時の法務省入国管理局長から全国の入管あてに出された通知です。「安全・安心な社会の実現のための取組について」と題され、東京オリンピック・パラリンピックまでに不法滞在者や、本国送還を拒んでいる人を日本の社会に不安を与える外国人だとして、大幅に削減するよう求めています。治安対策のために強制送還を積極的に進め、仮放免も容易に認めない方針がうかがえます。法務省は、オリンピック・パラリンピックは長期収容者の増加とは関係がないとしていますが、この数年、収容される人の数が増える一方で仮放免される人が大幅に減っていることは事実です。帰るに帰れない様々な事情を抱えた人たちの収容が長期化していますが、こうした人たちは皆社会の脅威なのでしょうか。
弁護団や市民団体は、収容の長期化は「人権侵害だ」と指摘しています。本来は送還までの一時的な措置であるはずの収容が事実上無期限となり、中には5年以上も拘束されている人がいること、家族と引き離され刑務所のような場所に閉じ込められていること、さらに一人の人間の処遇を裁判所ではなく入管の職員が決めてしまうことなど、問題が多いと言います。
国連機関からも日本の長期収容について、たびたび懸念が示されています。国連自由権規約委員会や国連人種差別撤廃委員会は、「収容は最短期間であるべきで、他の手段が十分検討された場合にのみ行われるように」日本政府に求めています。
これに対して法務省は、収容の長期化は問題だとして改善の必要性を認め、対策を検討中だとしています。健康上問題のある人などに対しては仮放免を弾力的に運用しているとも説明しています。ただ、長期収容を解消するためには、速やかに本国に送還することが重要だとしていますが、難民認定の審査中は強制送還が認められず、迫害のおそれのある本国に送還することも難民条約で禁じられているため現実的ではありません。

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それだけに内外の批判が高まる中で、この問題をこれ以上放置せず、早急に取り組む必要があります。もちろん理由なく本国への送還を拒む人には断固たる姿勢で臨むべきでしょうが、人道上の配慮が必要な人に対してはより柔軟な対応が求められます。収容期間に上限を設けることも1つの方法ではないでしょうか。収容中の待遇の改善も国連などから迫られており、施設の整備とともに喫緊の課題です。

訪日する外国人旅行者が急増し、過去最高を更新し続ける日本は、東京オリンピック・パラリンピックを控え、外国人への「おもてなし」をアピールしてきました。しかし、一方で、拷問のような扱いだとして抗議のハンストを続ける外国人が少なからずいるのも事実です。そうした人たちの声にも耳を傾け、苦痛を和らげられるよう配慮する姿勢が、国際社会での日本の評価につながるのではないでしょうか。

(二村 伸 解説委員)

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