NHK 解説委員室

解説アーカイブス これまでの解説記事

「過ちを繰り返すな ~日系人強制収容とトランプ政権~」(時論公論)

出石 直  解説委員

あすは終戦の日。この時間は、太平洋戦争中のアメリカでの日系人の強制収容についてお伝えします。日系人の強制収容は人種差別や偏見が招いた悲劇でした。
それから70年あまり、トランプ政権は国境の壁の建設など移民に厳しい政策を打ち出し、全米各地では白人至上主義に影響を受けたヘイトクライムが相次いでいます。
「過ちを繰り返してはならない」
強制収容を経験した日系人達は、移民への寛容さを失いつつある風潮に危機感を強めています。
j190814_1.jpg

【強制収容】
Q、日本軍による真珠湾攻撃。2400人を超える命が奪われたこの攻撃によって、アメリカに住む日系人の生活は一変しました。日系人は「日本軍の手引きをしている」などと危険視されるようになったのです。
ルーズベルト大統領は、特定の住民を強制的に立ち退かせる権限を軍に与える大統領令に署名、西海岸に住むおよそ12万人の日系人が住む家を追われました。
わずかな手荷物を持っただけで列車に乗せられ、行先も告げられずに砂漠地帯などに建設された10か所の強制収容所に隔離されたのです。

ワイオミング州ハートマウンテン。ロッキー山脈の麓の荒野に日系人の強制収容所がありました。突風が吹き荒れ、夏は暑く冬は凍てつく寒さだったと言います。

「私の後ろにバラックが建ち並んでいました。そこにおよそ1万人の日系人が収容されていたのです」
「鉄条網があって、兵士の銃口は中にいる我々に向けられていました。逃げ出さないようにね」

収容所の跡地には強制収容の歴史を伝える展示室が設けられています。
収容所の子供達。食堂や洗面所は共同でした。当時の人々の暮らしぶりを伝える調度品の数々です。

この施設を管理・運営している財団のヒグチ理事長。両親が強制収容の経験者です。

「この施設の目的は、77年前に私の両親や多くの日系人が戦時中ここで経験した苦難を忘れず記憶しておくこと、そしてこのことを多くの人々に語り継ぎ、再び起こらないようにすることです」

下院議員の後、商務長官や運輸長官を歴任したノーマン・ミネタ氏もこの収容所で少年時代を過ごしました。

「正式な告訴も裁判もなく、ただ真珠湾を攻撃したパイロットと同じような顔をしているという理由だけで、私達は強制収容所に送られたのです」

戦後、政界に転じたミネタ氏は、日系人の強制収容の真相究明に尽力します。
謝罪と賠償を求める法案を議会に提出、反対派をひとりひとり説得しました。
その努力が実って1988年、当時のレーガン大統領は初めて公式に謝罪、収容経験者に一人当たり2万ドルの補償金が支払われました。

【トランプ政権】
移民に対する偏見が招いた日系人強制収容の悲劇。それから70年以上が経った今、アメリカでは、大統領選挙を控えて再び移民問題が大きな争点となっています。

トランプ政権はメキシコとの国境に壁を建設、「ゼロ・トレランス」=不寛容政策と呼ばれる移民政策によって不法移民の取り締まり強化に乗り出しました。

「不法移民を捕まえ国に戻らせる措置を始める。犯罪者の摘発に集中する」

不法移民の子供を親から引き離して隔離する政策にも批判が寄せられました。
かつて強制収容を経験した日系人の団体は抗議声明を発表、トランプ政権は計画の撤回を余儀なくされました。
j190814_2.jpg
トランプ大統領のツイッターへの投稿も大きな波紋を呼びました。

野党・民主党に所属するマイノリティーの女性議員を念頭に「アメリカに不満があるのなら国に帰れ」と言い放ったのです。
ソマリア出身でイスラム教徒のオマル下院議員は「人種や宗教、性別で我々の国を分断しようとしている」とトランプ大統領を非難、
保守系のFOXニュースが行った世論調査でも56%が「人種差別だ」と回答しています。しかし、こうした過激な言動にも関わらず、白人の労働者層を中心にトランプ大統領の熱烈な支持者がいることもまた事実です。

政界を引退した後も、少数者の権利擁護のため積極的な発言を続けているミネタ氏。
トランプ大統領の移民政策を厳しく批判します。

「彼(トランプ大統領)は、アメリカ大統領としての道徳的なリーダーシップを示していません。国内からだけでなく海外からもアメリカはそのような国だと見られているのです」

アメリカでは人種や宗教上の偏見に基づいた銃乱射事件など、いわゆる「ヘイトクライム」が相次いでいます。テキサス州やカリフォルニア州で起きた事件は、いずれも過激な白人至上主義の影響を受けた犯行と見られています。
自分達の職が移民に奪われてしまう、白人は少数派に追いやられてしまう、こうした焦りや苛立ちが背景にあると指摘されています。

「Keep America Great!!」

Keep America Great再選を目指すトランプ陣営のキャンペーンです。強制収容を経験した人の中にはこのキャンペーンに不快感を示す人もいます。
かつての日系人排斥運動を連想させるというのです。
j191814_3.jpg

Q、今から100年近く前、1920年のカリフォルニア州選出の上院議員の選挙ポスターです。keep California White=「白人のカリフォルニア州を守ろう」。
日本などアジアからの移民を脅威とみなし排斥を呼び掛けています。
アジア系移民の多いカリフォルニア州などでは1913年以降、外国人の土地所有が禁止され、1924年には日本からアメリカへの移民が全面的に禁止されました。
強制収容という悲劇を招いた底流には、こうした日系人に対する差別と偏見があったのです。

日系2世のタカシ・ホシザキさん。日系人の強制収容は過去の出来事ではない、今にも通じる問題だと言います。

「今、この国で起きていることは、70年前に起きたことととてもよく似ています。私はまだまだ戦っているのです」

日系人の強制収容について、連邦議会の調査委員会は後に、人種偏見と日本人への行き過ぎた警戒心、そして政治指導者の誤りが招いた重大な不法行為だったと結論づけています。
トランプ政権は今週(12日)、公共サービスを必要とする外国人の入国を認めない、市民権を与える条件を厳しくする、などの新たな方針を打ち出しています。
日系人の強制収容から77年、移民や難民に対して寛容さを失いつつある風潮は、今、アメリカだけでなく世界各地に広がっています。かつて日系人を襲った悲劇は、過去の歴史の一コマではありません。いつ、どこでも起こりうる問題だということを、私達は心に刻むべきではないでしょうか。

(出石 直 解説委員)

キーワード

関連記事