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「日韓対立 交流への影響は?」(時論公論)

出石 直  解説委員

日本と韓国との激しい対立。これからどうなっていくのでしょうか?
ちょうど一週間前、日本政府は、輸出管理を優遇する対象国から韓国を除外する決定を行いました。これに対し韓国のムン・ジェイン大統領は「すべての責任は日本政府にある」「我々は再び日本に負けることはない」などと猛反発。国と国との関係の基本であるはずの信頼関係はどこかに吹き飛んでしまったかのようです。これまで長年にわたって培われてきた人々の交流への影響が懸念されるところです。

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まず今回の日本政府による輸出管理措置、そもそも何を狙ったものだったのでしょうか。
日本政府は、韓国に輸出された物資が第三国に渡って兵器などに転用されないための「安全保障上必要な輸出管理措置だ」と説明しています。
しかし韓国政府は「徴用をめぐる問題への政治的な報復だ」と猛反発。逆に日本を輸出管理の
優遇対象国から外すなど対抗措置を打ち出しました。
少し前までは外交の失敗だとムン政権を批判する声も少なくなかったのですが、今ではムン大統領への批判は影を潜め、与党も野党もないオールコリアとして日本に対抗していこうという機運が高まっています。頼みの北朝鮮との融和ムードにも陰りが見え始め、厳しい雇用環境など経済面でも苦境に立たされていたムン政権ですが、今回の日本側の措置によって「南北関係が進まないのも、経済が厳しいのもすべて日本のせいだ」と都合の良い言い訳をするようになってしまったのです。

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このように今回の措置をめぐっては、日本側の狙いと韓国側の受け止めが完全にすれ違っています。背景に徴用をめぐる問題があったことは否定できません。しかし今回の措置によって韓国側はますます頑なになってしまいました。少なくとも外交としては、日本側の思惑は裏目に出てしまった形です。

徴用をめぐる問題では、韓国政府の側に当事者としての意識があまりに薄かったことは間違いありません。これは厳しく批判されてしかるべきです。ただ韓国や韓国人を長年見てきたひとりとして、今回のような対応が果たして適切だったのかどうか、私は少し疑問に思っています。
確かにこれまでの日本の外交は、こと相手が韓国となると及び腰になる傾向がありました。
イ・ミョンバク大統領が竹島を訪問した時も、自衛隊の哨戒機が韓国軍からレーダー照射を受けた時も、日本政府は外交ルートを通じて抗議はしたものの終始、紳士的で抑制的な姿勢でした。
これに対して「韓国に弱腰だ」という批判が少なからずあったことも事実です。
ただ私が知る限り、韓国人は相手が自分をどう見ているのか他人の評価をとても気にする人達です。優遇措置の対象国から韓国だけを外したことで、韓国の人達は自尊心を傷つけられたと
受け止めているのかも知れません。加えてこと歴史に関しては「悪いのは加害者である日本であって、自分達は被害者だ」と頑なに信じ込んでいます。
いきなり韓国側にカウンターパンチを浴びせるような今回のやり方は、少なくとも韓国を相手にした外交としては、いささか慎重さを欠いていたように思えてなりません。

個人的な関係や感情を重視する韓国人に対しては、情緒に訴えることも重要です。
1983年、当時の中曽根康弘総理大臣が、日本の総理大臣としては初めて韓国を公式訪問しました。中曽根総理は、晩餐会のスピーチで韓国語を披露したのです。

(中曽根総理オン)
「日本への温かいお言葉を頂き感謝申し上げます」

宴席では、チョン・ドゥファン(全斗煥)大統領と酒を酌み交わし韓国語の歌を披露して心をつかんだと言います。この時の訪問では、チョン大統領と親交のあった民間人の瀬島龍三氏が重要な役割を果たしました。こうした太いパイプがなくなってしまったたことも今の日韓関係を一層難しくしています。

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パイプ役がいないのは韓国側も同じです。日本との関係の重要さや日本との付き合い方を良く知っているブレーンが今のムン政権にはほとんどいません。日本批判を続けているだけでは何ら問題の解決につながらないことを韓国政府も自覚すべきではないでしょうか。

今回の事態で、私がもっとも危惧しているのは、国と国との対立が、人々の交流にも影響を及ぼし始めていることです。
この夏に予定されていた自治体交流や若者交流は主に韓国側の申し出によって次々に中止に追い込まれました。日本を訪れるツアーのキャンセルが相次ぎ、韓国と日本の地方空港を結ぶチャーター便の運航休止や欠航が出ています。福岡県では外国人観光客のおよそ6割が韓国からですが、博多とプサンを結ぶ高速船の利用客は8月に入って4割程度減少しているということです。地元経済への影響が心配されるところです。

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そんな中で少しずつではありますが明るい変化の兆しも見えてきました。「政府の対立と人々の交流は別だ」という動きです。

日本と韓国との懸け橋となってきた長崎県の対馬では、江戸時代の外交使節団「朝鮮通信使」の行列を再現する催しが行われました。一時は開催が危ぶまれましたが、伝統の交流を途絶えさせてはならないと韓国側の参加者がプサンの市長を説得し開催に漕ぎつけたといいます。
韓国のチョナン(天安)市の若者達は今週、交流を続けている岐阜市を訪れホームステイをしながら親睦を深めました。東京の目黒区は、先月ソウルのチュンナン(中浪)区と友好都市協定を締結、地元の中学生が現地を訪れバスケットボールの親善試合を行いました。

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韓国のパク・ヤンウ文化体育観光相は自身のSNSに「このような時こそ文化・スポーツ分野の交流が大切だ」と投稿しました。きのうから韓国の地方都市で始まった国際映画祭では、日本映画の上映を取り消すべきだとする地元議会の反対を押し切る形で、日本映画の上映が予定通り行われています。

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私は去年の夏、日韓の高校生が共同生活をしながら一緒になって社会の諸課題について考えるイベントを取材しました。言葉の壁を越えてすぐに心を開き打ち解けていく若者達の姿を見て感動を覚えました。この夏も30人の日本の高校生が韓国を訪れています。こうした地道な交流は続いています。

今回の事態、日本にとっては日韓請求権協定という国と国との約束、韓国にとっては植民地支配の歴史に直接関わる問題です。対立の長期化は避けられそうにありません。しかしながら、人と人の交流や相互理解は、両国関係の礎となるものです。政府間の対立がこうした交流の妨げとなってはなりません。とりわけ日本と韓国の将来を担っていく若者達の交流の芽だけは、絶対に摘まないで欲しいと切に訴えたいと思います。

(出石 直 解説委員)

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