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「顧客に不利益9万件超 『かんぽ不正』」(時論公論)

竹田 忠  解説委員

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ふだん、なじみのある郵便局が、まさかこんなことをするとは、と
多くの人が、不安や怒りを覚えたのではないでしょうか?
郵便局を舞台に、かんぽ生命と日本郵便が
不適切な保険販売を行っていた、とされる問題。
顧客に不利益を与えた疑いのある契約は、
合わせて9万件を超す可能性が出てきました。
しかも、これは、あくまで、
主に過去5年間について調べたもので、
今後、調査が進むにつれて、件数はさらに増えるおそれがあります。

[ 何が焦点か? ]

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まず、急がなければいけないのは、
なんと言っても顧客が被った不利益の解消です。

そして、なぜ、こうした問題が放置されたのか?
新たに設置された特別調査委員会が、どこまで解明できるのか、焦点です。

そして、この問題、実は、
思わぬところに、波及することが懸念されています。
政府が近く予定している、親会社の日本郵政株の
売却シナリオが不透明になってきました。

今夜はこの3点について考えます。

[ 不適切な保険販売とは? ]
今回の問題は、かんぽ生命が販売している
養老保険や終身保険などの販売をめぐって起きているわけですが、
こうした保険、実際に売っているのは郵便局です。

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かんぽ生命が、グループ会社である、日本郵便に手数料を払って
全国2万を超える郵便局で販売してもらっているわけです。
そのため、今回の問題を受けてかんぽ生命と、日本郵便、
両社の社長が、先日そろって謝罪会見を行ったわけです。(今月10日)

では、問題となっている、
不適切な販売とは、どういうものなのか?
いくつものパターンがありますが、
最も多いのはこの二つです。

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▼まず、顧客に保険料を二重に払わせていたケース。
どういうものかというと、
たとえば、顧客が保険を乗り換える場合、
新たな保険に加入してから
古い保険をただちに解約する、というのが一般的です。

しかし、なぜか、新たな保険に入っても
古い保険を、解約せず、
グッと 解約を半年以上も先に延ばして
その間、保険料を二重に払っている
ケースが多数見つかりました。
その数、およそ2万2000件。

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なぜ、こんなことが起きるのか?
理由の一つとして考えられるのが
郵便局員が新規の契約を
獲得したときにもらえる手当の問題です。

上の図のように古い保険をすぐに解約すると、
単に契約を乗り換えただけ、とみなされ、手当は半分しかもらえません。
しかし、新しい契約を結んだ後も、古い契約が一定期間続いていていれば、
それだけ、単純に保険の数が増えて、保険料もたくさん入りますので、
それを評価する形で、手当が満額に増える、というわけです

▼もう一つは、この逆のパターンで、
なぜか保険に全く入っていない、無保険の状態がつくられていたケースです。

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こちらは、先ほどの倍の4万7000件。
この理屈はというと、古い保険の解約後、
3か月以内に新たな保険に入ると
やはり単なる乗り換えと同じとみなされて、
手当が半分しか出ません。
しかし、新たな契約まで、
4か月以上間が空いていれば、
まったく新しい契約として手当が満額もらえる。
これが、無保険の期間ができた背景と、みられているわけです。

しかし、この場合、無保険の期間のうちに、
もしものことがあったら、どうするんでしょうか?
何の保障も受けれられません。
これでは、何のために長い間、保険に入っていたのか、
ということになってしまいます。

こうしたケースを含めて
顧客に不利益を与えた契約が
合わせて9万件を超す疑いが出ているわけです。

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[ 不利益の解消は? ]
今後、まず、急がれるのは、顧客が被った不利益の解消です。

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かんぽ生命と日本郵便は、問題のある契約について
直接、契約者を訪ねるなどして、調査をはじめました。
専門のチームで調査した結果、
問題であることが確認できれば、二重払いのお金を返却したり、
無保険になってしまった人には、
保険をもとに戻したりして、不利益の解消を急ぐとしています。

また、今後、全ての契約者、1800万人に対して手紙を送り、
謝罪と共に、他にも問題がないかどうか、確認をします。
これによって、
今後、問題の件数がさらに拡大する可能性もあります。

[ なぜ放置?  経営責任は? ]
次に、解明が必要なのは、
なぜ、こうした問題が大規模に起きて、
そして、放置されていたのか?

大きな背景にあるとみられるのが
厳しいノルマ営業の存在です。
すでに、会社側は、このノルマの問題については、
実態に合わせて、水準を引き下げるという考えを示しています。

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残る問題は、なぜこうしたことが放置されてきたのか?
会社側は、先日の会見で
今回のような実態には、つい最近、気づいたとこたえています。
しかし、実は、これは以前から、指摘されていたことです。

というのも、今回、この問題が
大きく報じられるようになったきっかけの一つは
実は、NHKの番組でした。
去年4月に放送された、クローズアップ現代プラスです。

(以下、TVは、番組の内容をVTRで一部紹介)

番組は、顧客からの苦情と共に、
現役の郵便局員から寄せられる
上司に不適切な営業を強いられているという悲痛な訴えも紹介し、
当人のインタビューも交えて
なまなましい実態を伝えていました。

また、日本郵便の責任者も取材に応じて、
改善策を検討する考えを示していました。

この番組が放送されたのは、去年の4月です。
この段階で会社側が抜本的な対応をとっていれば
事態の悪化が防げた可能性もあるのではないでしょうか?

今回の強い批判を受けて、
親会社の日本郵政は、
外部の有識者による特別調査委員会を今週、設置しました、
これについて 菅 官房長官は会見の中で、
今回の問題は、大変遺憾だと述べたうえで、
「十分な調査をし、
顧客対応を抜本的に改善する必要がある」と、
会社側に注文をつけています。

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今後、特別調査員会が
実態の解明と責任の所在について
どこまで切り込めるか? 
大きな焦点です。

[ 郵政株売却シナリオ ]

そして、最後に、今回の問題は、
思わぬところに波及することが懸念されています。
それが、政府が近く予定している、親会社の日本郵政株の売却です。

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政府は、現在、日本郵政の株を57%を保有していまが、
これを3分の一超になるまで、売却する方針です。
それによって、東日本大震災の復興財源
1兆2000億円を調達する計画です。

このためには、
目安として、一株が1130円台で売れる必要があります。
しかし、子会社のかんぽ生命の問題を受けて、株価は値下がりし、
上場以来最安値の状態が続いています。
きょうの終値も1096円、
目安の株価を下回ったままです。

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市場では、当初は、
この秋にも売り出されるのでは、
という観測が広がっていましたが、
現状は、不透明となっています。

民間の創意と工夫で、顧客サービスを向上させる。
これが郵政民営化の原点だったはずです。
日本郵政グループ全体としての
真剣な対応が問われています。

(竹田 忠 解説委員)

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