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「参院選 原発・エネルギーをどうする」(時論公論)

水野 倫之  解説委員

今回の参院選では原発を維持するという自民党に対して野党の多くが原発ゼロを打ち出し、原発・エネルギー問題も対立軸が明確になっています。
ただ各党とも公約実現への道筋は明確ではありません。
事故から8年が経ちますが、原子力政策はあいまいな点が多く、今回ははっきりさせるいい機会でもあるわけで、各党とも公約実現への道筋や山積する課題にどう対応するかを示していかなければなりません。
参院選で問われる原発・エネルギー政策の課題について水野倫之解説委員の解説。

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福島第一原発では廃炉作業は進むものの、汚染水を処理したタンクの設置場所が限界を迎えつつあるほか、溶け落ちた核燃料の全容解明は遠い状況にあります。
このため福島県では避難指示が解除されても帰還をためらう人もいるほか、帰還困難区域も残り、いまだにおよそ4万人が避難を続けています。

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その一方で再稼働は進み、この8年で9基が稼動しました。
政府は事故後、火力発電が増えて燃料代がかさみCO2も増えたことから、原発は依存度は減らすもののコストが安く運転中はCO2を出さないことから必要だとして、2030年に全電源の20~22%をまかなう目標を掲げ、その先も重要電源として維持する方針です。
そのためには将来的には新設や増設も必要になってきますが、政府は「新増設は現段階では想定していない」として、どこまで原発に頼るのか政策はあいまいにされています。

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原発をめぐるこうした状況に各党はどう対応しようとしているのか。
公約に書いてあることを見ると、再稼動に積極的な自民党に対し、野党の多くが時期に違いはあるものの原発ゼロをうたい、対立軸が明確になっています。

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▽与党自民党は、原発への依存度は可能な限り低減させながらも、規制委の審査に合格すれば再稼働を進めていくとして、原発維持を明確に打ち出しています。
▽ただ連立を組む公明党は、当面の再稼働は認めつつも、将来的には原発ゼロを目指すとしています。

これに対して野党は、
▽立憲民主党が、すべての原発を停止・廃止する原発ゼロ基本法案の成立を目指し、
▽国民民主党は、あらゆる政策資源を投入し2030年代原発ゼロ社会を実現するとしています。
▽共産党は再稼働を中止しして廃炉に入るとし、
▽日本維新の会は再稼動への自治体の同意を法制化し、脱原発依存体制を構築していく。
▽社民党は再稼働に反対、脱原発実現を目指すとしています。
ただ各党とも、公約実現に向けた方策や、課題にどう対応するかについては具体性がありません。

まずは原点となる福島の廃炉、とりわけ汚染水をどうするのか方策を明確にしなければなりません。
タンクには、放射性のトリチウムなどを含む処理水がすでに110万トン以上たまっています。
東電は敷地の制約から137万トン分で限界だとしており、あと数年で汚染水の行き場がなくなりかねず、廃炉作業への影響も懸念されます。
政府は薄めて海に放出することも検討してきましたが、風評被害を恐れる福島の漁業者の強い反対を受けています。
加えてWTOの上級委員会が福島などの水産物を輸入禁止した韓国の措置を事実上容認したことで、処理水の処分をより慎重に対応する必要が出てきたこともあって、処分を議論する国の専門家会合は半年以上開かれず問題が先送りされています。
ただ残された時間は多くありません。
自民党は廃炉に国が前面に立って取り組むとはしていますが風評被害を抑えながらどう処分していくのか。また野党の中には長期保管を求めている党もありますが、どこでいつまで保管し、その後どうするのか。それぞれ対応策を示していかなければなりません。

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その上で原子力に具体的にどこまで頼るのか、またゼロにするのであればいつまでにどうやって廃止していくのかその道筋をより明確にすることも必要です。

可能な限り低減させるものの重要電源として維持していくというのであれば、この先どれだけ減らしてどこまで頼るのかまで明確にしてほしいと思います。
政府や自民党が言うように2030年段階で電力の22%を原発で賄うには30基程度の再稼働が必要です。
ただ、原子力規制委がこのほどテロ対策施設が期限に間に合わない場合運転を認めない方針を示したことから、再稼働した9基も来年から運転停止に追い込まれる見通しです。また地元の了解の見通しが立っていない原発もあり、22%分を原発に頼ることが実現可能なのか、という疑問がでてきます。
さらに原発には運転期間の制限がありその先も重要電源として維持するならば新設や増設が必要となりますが、その点も明確にされておらず、こうした点を具体的に説明していかなければなりません。

一方、原発ゼロを目指すと言うのであれば、具体的にどのような段取りでゼロに持っていくのか、原発がなくなる立地地域の経済をそのように維持していくのかなどその道筋を示してもらいたいと思います。

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また原発をゼロにした場合、代わりの電源をどうするのか。
ほとんどの党は、公約の中で再生可能エネルギーの拡大を掲げています。
現在再エネは電力の16%にとどまっていますが、自民党は2030年に最大24%、立憲民主党は時期は示していないものの100%に、また共産党は2030年までに40%、社民党も2050年までに100%などと具体的な数値目標を掲げています。
しかし、出力の変動が大きい再エネが増えると、去年北海道で起きたブラックアウトになりかねないため、九州では今も頻繁に太陽光の発電を強制的に止める出力制御が行われています。
再エネの適した場所は九州や東北・北海道に偏っているため、増やすには地域を超えて電気をやり取りする送電線の整備も将来的には欠かせません。ただ1か所1000億を超えるコストがかかるため簡単ではなく、政府は全国の電力会社で費用を分担して整備を進める案も示していますが、最終的には消費者の負担となります。
こうした負担に対して国民の理解をどう得ていくのか、各党は、再エネ拡大に向けた課題にどのように対処していくのかまで含めて、有権者に語ってもらいたいと思います。

ここまで、福島の廃炉や原発への依存度、そして再エネへの対応について見てきましたが、もう一点、各党が具体的に語っていないのが原子力の人材確保の問題です。
原子力の人材や技術は、原発運転のためだけでなく安全に廃炉を進めるうえでも必要で、実際、事故後に福島第一原発も含めて21基が廃炉もしくは廃炉が検討され、今後も増えるとみられます。
今年日立製作所がイギリスで進めていた原発輸出が凍結されましたが、そもそも輸出を検討したのは原子力の人材確保も大きな目的でした。
事故後国内の原子力は停滞し、日立など主要メーカー3社の原子力関連の人員は少なくとも1割減った上に、原子力の仕事に就こうという学生も将来への不安から激減しているためで、海外に打って出ることで確保しようとしたわけですが、うまくいっていないわけです。
原発を維持しようがゼロにしようが人材確保は待ったなしの問題です。各党がどういう方針で取り組むのか、考えを示してもらいたいと思います。

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事故から8年あまりが経ちますが、原発・エネルギー問題にはまだ多くの課題が残されています。今回の選挙では有権者がしっかり選択が出来るよう、各党が公約の道筋まではっきりと提示し、論戦が深まるくことを期待したいと思います。

(水野 倫之 解説委員)

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